時点にも注意
時点を逆に戻す書き方は、読みにくい。
文学賞を狙う小説において、この読みにくさは致命的になる。
物語を読んでいる読者は、常に「今、どこにいるのか」を無意識に把握しながら読み進めている。
現在の場面が積み重なり、その延長として次の出来事を待っている。
その流れが一度でも切断されると、読解の負荷が一気に上がる。
時点を戻す構成は、この把握を何度もやり直させる。
「これはいつの話なのか」「今の場面とどうつながるのか」を、そのたびに確認させられる。
物語そのものではなく、時間関係の整理に意識を取られるため、没入が妨げられる。
特に問題なのは、時点を戻す必然性が弱い場合である。
説明のため、感情補足のため、人物紹介のために時間を戻すと、物語は前に進まず、横にずれる。
読者は足踏みを強いられ、読む速度が落ちる。
文学賞の選考では、多くの作品が短時間で読まれる。
その中で「立ち止まって考えさせる構成」は、不利に働く。
内容以前に、「読みづらい作品」として処理されてしまうからだ。
時点を戻す書き方は、作者にとっては整理しやすい。
しかし読者にとっては、何度も地図を広げ直す行為に近い。
道が分かっていても、歩きづらい道は選ばれない。
文学賞を狙うなら、読者が迷わず前に進める構成を選ぶべきである。
時点を戻す書き方は、その前進を妨げる以上、避けたほうがよい。




