とある事情で貴族になれず、平民落ちして冒険者になりました。なのに王様が俺を王女様の婿に推してきます!
勢いに任せて書きました、久しぶりの作品がこんなですが、後悔はしてません。
俺は転生者である。
前世はちょっとオタク寄りではあったものの、ごく普通のしがないサラリーマンだった。
ライトオタクの嗜みとして、異世界転生作品は履修済みだったので、転生直後は異世界転生来たぁぁぁぁ! と思ったものだ。
ちなみに死亡理由は覚えてないけど、転生前の記憶は生まれた時から保持していた。
今世はナーロッパで冒険者ギルドあり、ダンジョンあり、魔法あり、スキルあり、ステータスウィンドウオープンありの「ありあり」ルールてんこ盛りな世界だ。
そんな俺は下位貴族の三男坊と言う貴族ギリギリの環境に生まれた。
生まれた国の貴族の世襲制度、爵位継承権は長男のみが持ち、子に直系男子がいない場合は、止むなく長女が継ぐ事が認められる。
なので嫡男以外の貴族子息は家を出て独り立ちする事になる。この場合は基本的に平民落ちだ。
中には運よく子どもが女性しかいない家の長女の入婿になったり、跡取りのいない貴族家との養子縁組や、能力を認められ新たに叙爵と言うパターンで貴族階級に残れる場合もあるが、まぁ極稀だ。
将来的に何があってもスキルと魔法さえ身に着けておけば、悪いことや贅沢さえしなければ生きていけると思ったから、楽しかったと言うのもあるが物凄く励んだ。
乳幼児の頃から異世界転生作品の主人公よろしく、この世界の情報収集と魔法の修行とスキル習得に明け暮れた。
ありありルールの異世界だから、魔法もイメージが大事で、イメージさえ出来れば大火力、精密操作、新属性魔法の開発も思いのままだ。
もちろん能力はスキルで偽装済み。後から能力をバラす事は出来ても、明らかになってる能力を隠すのは困難だからね。
異世界転生もののラノベ主人公みたいに、トラブルが向こうからやってくるなんて可能性も無くはないし。
俺の場合、5歳頃には魔法は全属性使えたし、スキルも家族や兄弟よりも段違いに所有していた。
今世の水準で言えば学力も成人貴族レベル以上だ。
本来は下位貴族の三男坊だと爵位を継ぐ可能性は0に等しいが、これだけのチート持ちなら貴族階級に残ろうと思えば、入婿も養子縁組も叙爵も思いのまま。
だからこそ俺は将来について結構悩んでいた。
やりたい事がないから悩むのではなく、やりたい事やれる事が多すぎるから悩むという、前世では考えられないくらい贅沢な悩みだ。
だが最終的に俺は冒険者になった。
いや、冒険者にならざる得なかった。
と言うか絶対に貴族になりたくなかった。
理由は俺が7歳の時に受けた洗礼式に遡る。
洗礼式は貴族階級の子息として初めての公式行事。
年に1回その年に7歳になる貴族子息を爵位関係なく全員王城に集め王様自らが祝福し、この年まで成長出来たことを祝うのだ。
王城に向かう馬車の中で俺はワクワクしていた。
前世でも西洋風の城に入ったのは、某有名ねずみテーマパークのシンボル的な城くらいだったからだ。
だから本格的な西洋風のお城に行くのが、内心少しだけ嬉しかった。
しかしその嬉しさは王城に到着して初っ端で木っ端微塵になるのだが……
王城に着き馬車で待つこと数分、洗礼式の案内人が到着したことをうちの御者が父親に伝えてきた。
俺にとって案内人は家族や一部の使用人以外で初めて見る貴族。王城に勤めているのだから、少なくともうちより爵位の高い人なはずだ。
だからどんな人なのかと楽しみだった。
御者が馬車の扉を開けると、そこにいたのはブラジャーを頭に被った渋い中年だった。
いわゆるイケオジがブラジャーのカップ部分を頭に乗せ、ストラップを耳に掛け、サイドベルトをあごの下に通し、両方のそれをフックで留めている。
俺は固まった。
とにかく固まった、カチンコチンだ。
一時的にフリーズ状態、思考停止していた。
今世生まれてから今まで、こんな衝撃的な出来事は初めてだった。
なぜブラジャー……
悲しいかな前世でも俺は魔法使いだったので、目視でブラジャーのカップサイズは分からない。分かるのはブラジャーの色と素材位なものだ。
渋い中年が被るブラジャーは少し光沢のあるグレーの布地で、センターには白いカメオのブローチがあしらわれていた。
全体的には装飾は少なめで、シンプルながらも良い布地と仕立てなのが素人目に見ても分かった。
それがブラジャーでなければ良かったのに……
もう渋いイケオジがブラジャー被ってる姿が衝撃的過ぎて、どんな足取りで着いたかは全く思い出せないが、俺はいつの間に洗礼式の会場である大広間の前にいた。
茫然自失な俺を尻目に大広間の扉が開く。
一番最初に目に入ってきたのは、ブラジャーを被った数多の紳士淑女たちだった。
年若きイケメン当主もブラジャー。
成人したばかりのうら若き乙女もブラジャー。
少し肉付きが良くなり中年に差し掛かった婦人もブラジャー。
頭髪が少し淋しくバーコード的な髪の毛をお持ちの初老の男性貴族もブラジャー。
引退間近であろう国の重鎮っぽい気難しそうな老貴族もブラジャー。
皆ブラジャーを被っていた。
それなのに立ち振る舞いは優雅で、指先の動きや小声で近くの知り合いと談笑する様ですら、軽やかに踊る様だ。
……なのに頭にはブラジャー
カップの大きさも色も様々なブラジャー、色とりどり遠目から見ても仕立てがよく、一流の品だと言うのが分かる。
総レースのブラジャーもあれば、リボン使いが素晴らしいブラジャーもあれば、染めが見事な布地を使ったブラジャーもある。
王城に着いてから固まりっぱなしの俺だったが、両親からは不審な目で見られることはなかった。
後から聞いた話では、初めての王城と公式行事に緊張してるだけだと思っていたそうな。
どれだけの時間が経ったかは分からないが、王様の側近っぽい人が王様の登場を告げる。
この人も、もちろんブラジャーを被ってる。
因みにこの人のブラジャーは薄い水色で全体的に細やかな金色の刺繍が施されていた。
心なしかイケオジが被っていたブラジャーよりカップのサイズが大きい気がする。
王様の登場を待つこと数十秒、やっと王様登場だ。
俺から見た王様は年の頃は30代前半〜後半、多分うちの親の1世代下くらいだろう。
彼は威厳と優しさに満ち溢れていた。王になるべくしてなる人と言うのはこういう人の事をいうのだと、俺の看破スキルが教えてくれる。
俺の持つ看破スキルはその人間の持つ本質と言うのが分かるのだ。
聡明で慈悲深く道徳的、だが優しいだけでなく国の利益のために、時には冷酷にもなれる……まさに王の中の王。
このスキルに俺は何度も助けられてきている。そんなスキルが告げているのだ、王様の才覚は疑いようもない。
そんな指導者になるべくしてなったような人物が、自国の貴族の頂点に立つ人間だという事に俺は感動……出来なかった。
なぜなら王様もやはりブラジャーを被っているのだ。しかもブラジャーを被ってる人の中で一番カップが大きいし、荘厳な作りをしている。
なんかブラストラップには宝石が散りばめられ、心なしかブラジャー全体が光ってる気もする。
あまりの他貴族のブラジャーとの違いに、つい好奇心に負け鑑定スキルでそのブラジャーを見てしまった。
ブラジャーの布地を織っている糸は、オタク御用達の魔法素材ミスリルを極細の糸にしたもので、光って見えるのはこの国の主神の祝福によるものらしい。
ちなみに鑑定の結果、ブラカップのサイズはKカップと判明した。
Kカップのブラジャーはメロンだった、ナニがとは言わないが……
それだけなら、この短期間にある程度の免疫が付いたので、自国の王様が素晴らしい人物である事に感動出来ただろう。
だが王様が被っていたのはブラジャーだけではなかった。
そう、王様は更に女性用ショーツを顔に被っていたのだ。
クロッチ部分を鼻と口に宛てがい、足ぐりに耳を通していた。
でもこの方は「これは私のお稲荷さんだ」とは絶対言わない、スキルがそう告げている。
王様の被っている女性用ショーツは全体的に布面積が少ない。クロッチ部分も細く、ショーツの前身頃と後身頃を繋ぐショーツの脇部分は紐になっていた。
多分王様が被ってるのはTバックで紐パンと言う……それくらいは魔法使い歴前世から、な俺でも知ってた。
そして洗礼式は厳かに始まり終わった。
王様のとんでもない姿で頭がいっぱいになり、いつの間にか洗礼式が終了していたのだ。
式自体は素晴らしかった。祝福時に使う錫杖、王様の前まで敷き詰められた赤いビロードの絨毯、天井横にある窓からは日が差し込み天然のスポットライトのよう。
その風景はこれぞノーブルって感じで、神聖さすらあったらしい。
両親が帰りの馬車でそんな内容の話していたので、多分凄い式だったのだろう。
正直、ほとんど覚えてない。
俺がブラジャーとショーツの事で頭がいっぱいで、全てが台無しだと感じ、記憶に残っていないだけの話なのだ。
ただ王様は洗礼式に参加した貴族の子弟一人ずつに声を掛け、未来への期待を述べて下さった事は覚えている。
覚えていたのは、それ自体嬉しかったというのもあるが、どうしても王様がお声がけをして下さってる間「これは私のお稲荷さんだ」という台詞が頭から離れなかったのが大半の理由だった。
洗礼式から数日経ち、恐る恐る親にブラジャーについて聞いてみたら、ブラジャーは高位貴族、具体的には伯爵以上の爵位を持つものと、その家族が着用を許される装身具とのこと。
爵位が高位になればなるほどカップサイズも大きくなるそうだ。
他にも役職なんかでもカップサイズも変わるらしい。
ショーツはというと、成人済みの男性王族のみが着用を許される装身具のようだ。
ちなみにブラジャーはデザインに流行があったり、服装との合わせ方でその人物のセンスが問われるらしく、ブラジャーを粋に美しく着こなせる人物が、貴族社会では一目置かれるそうだ。
そんな事全く知らなかったよ……別に俺の情報収集能力が低かった訳じゃない。
そもそも、うちは下位貴族だからブラジャーは被らないし、高位貴族が家に来ることもない。
仮に来たとしても洗礼式前の幼子なので、来客時は部屋から出されない。
両親が出席した夜会の話をしてくれた時も、なんとか婦人の被りものが美しかったと言う話は聞いた事があった気もするが、俺は単純に帽子とかヘッドドレス? なんかだと思っていた。
オタクの俺からしてみれば、他の情報より、衣服の情報の優先度は限りなく低かった。
まさか被りものがブラジャーだなんて思わないじゃん。
王家の宝物庫の中にある禁呪の魔法書の内容だって調べ内容だって把握している、それ位は調べられるだけの能力はある。
過去の自分を思い出し、つい言い訳めいた事を考えてしまったが、つまりだ……貴族でいる場合、爵位が低ければブラジャーを被らなくてもいいが、そこそこの頻度でブラジャー被った人と接する事になる。
まかり間違って高位貴族になろうものなら、自分自身でブラジャーを被らなければならない。
そんなの絶対嫌だ。
俺はこの時思った。絶対貴族にならないし、なれない。
ただ王様は優れているので、少しくらいは国の役には立ちたい。
それが冒険者になった理由だ。
前世より今世の方が独り立ちするまでの期間が短い。平民は12〜13歳で働き出し、貴族は異世界転生もののお約束、貴族学校に通うので18歳前後で独り立ちする事になる。
貴族にならなければ貴族学校には行かなくていいのだが、今世の貴族階級の子息たちは貴族として残りたいので大多数の子息たちは学校に通っている。
在学中に少しの可能性に縋りつくため、何とか貴族に残るため奮闘するのだ。
嫡男以外の貴族子息が平民落ちと言うのは、仕方ない事なので迫害とか差別は無いが、同情と憐憫の目は向けられる。
プライド命な通常の貴族にはそれが耐えられないらしい。
そんな価値観なので、貴族学校には行かずに平民として冒険者になるつもりだと話した時は、家族から変わり者だと思われた。
だか俺は何度もいうが、絶対貴族にはなりたくなかったのだ。
そんなこんなでギルドに登録出来る12〜13歳位から、冒険者として活動する事となり今は20歳。
幼い頃から努力して、使える魔法も強力、スキルもてんこ盛り。俺TUEEEEE状態なので、冒険もダンジョン攻略も楽しかった。
これまた異世界転生もののお約束で、スタンピードをいくつも収束させたり、初踏破したダンジョンは数しれず、他にもお約束とされるもののほとんどやった。
そんな事し続けていたら、多方面から感謝され、ありがたがられ、冒険者ランクも上がる上がる。
今じゃ世界で数人のトリプルSクラスの冒険者。
俺は平民冒険者として、悠々自適に幸せに暮らしましたとさ……と言う人生設計をしてたし、そろそろ俺TUEEEEE系から、スローライフ系にジョブチェンジも視野に入れて活動していたのだ。
それなのに今、俺は人生最大の危機に瀕している。
目の前には俺の家にお忍びでやって来てしまった自国の王様。
洗礼式の頃から少々お年は召したが、まだまだ元気で現役、素晴らしい王様だ。
そんな王様はとち狂ったような事を俺に言ってきた。
「君はこの国きっての英雄だ、是非私の娘と添い遂げて欲しい」
王様の隣には、これまたお忍びの王様の娘。
そう王女様。優しげな微笑みを浮かべて座っていた。
ただ座っているだけで、品格漂う様子はやはり王様の子なのだなぁと思う。
王様も王女様もお忍びなので、ブラジャー&女性用ショーツは未装着だ、うん不幸中の幸い。
いきなり王女様をあてがうなんて、当人同士の気持ちは? と思うかも知れない。
俺は冒険者ランクトリプルSのため、何度か王女様にまつわるクエストを受けたこともあり、王女様とは全く初対面という訳でもない。
前世風に分かりやすく言えば、スケール感は違うが王女様≒取引先の社長令嬢、俺≒個人経営のベンチャー企業の社長のお見合いみたいな感じだ。
王様のご家庭の躾が良いからなのか、王女様の性格だって非常に良い。
真面目で優雅で優しく芯が強い、かと思えば茶目っ気だってある。
顔だって美人さんだ。
普通なら俺にはもったいない話。
でも結婚は絶対嫌だ。
無理無理無理無理無理無理……
ブラジャー被りたくない!
女性用ショーツ被りたくない!
でも断ったら不敬罪になりかねない……これ、どうしよう。人生詰んだかも……
某「努力・友情・勝利」な週刊少年漫画のエクスタシーなギャグ漫画は、ある世代ドンピシャで一瞬の煌めきにも似た名作だと思っています。
ちょっと前に映画化されたから世代じゃない人も、そこそこ知ってると思う。
映画化発表のときは大丈夫なのかと思ったものですが、当時あの肉体美の再現を見た時、すげぇと思いました。
今思うと凄い人が主演やっていて、更にすげぇと思ってます。