第2話 大剣の価値(前)-2
「たとえばです、このコーヒーがラナさんの飲みかけだったらどうですか?」
「はっ……? ど、どういう意味だ?」
ハンスさんが明らかに怪訝そうな顔をして聞いてきた。
「言葉の通りの意味です。ここにあるのものがラナさんの一度口をつけたコーヒーだったらいくらで買いますか?」
「いや……、飲みかけに30ゴールドは出せないだろ?」
実に歯切れの悪い話し方でハンスさんはそう答える。
「では、私が50ゴールドをハンスさんに払いますので、このコーヒーをもらってもいいですか? 代わりに、私のまだ手を付けていないコーヒーをそのまま差し上げます」
「なっ、なんだと……?」
「ハンスさんは飲みかけのコーヒーが新しいものに変わり、さらに20ゴールド儲けることになります」
「そっ、そうだな……」
「ただし、ラナさんの飲みかけのコーヒーは私がもらいます」
「いや、待て! オレもそっちがほしい」
本当に飲みかけのわけはないのだが、話に乗っかってくれたようだ。
「つまり、そういうことです」
「なっ…なにがだ?」
「普通、飲みかけのコーヒーは商品価値が低くなります。ただし、それは条件次第で人によっては付加価値となる、ということです」
「お、おぅ……?」
「有名なアスリートが使ったスポーツ用具などと一緒です。ある人から見れば中古品ですが特定の人にとっては大きな価値に変わります」
アスリートの例えがこちらの世界で伝わるかはわからなかった。ただ、自分の言ったことを整理する上で私はそう口にした。念のためもう一度後ろを振り返ってからさらに続ける。
「ラナさんみたいな可愛らしい女性の飲みかけのコーヒーなら、知っている人間にとっては手つかずのコーヒーよりはるかに大きな価値をもちます」
言っていて自分が恥ずかしくなってきたが勢いで続ける。
「つまりは商品の特性とそれに価値を見出す人のマッチングをするのが私の仕事です。今のはあくまで極端な例ですが……」
ハンスさんは納得したような表情を見せた。若干顔が赤くなっているのは、先ほどの例え話のせいだろう。真面目な顔つきには照れ隠しも含まれていると思った。
「なるほどな……。看板出すだけあってモノを売るセンスはしっかりもっているみたいだな」
彼にとってわかりやすい例えと、後は勢いで話をしてみたが意外と説得力があったようだ。
「よし、スガさん。あんたに仕事を頼みたい」
「ええ、お任せください。どんな商品でも必ず長所はあります。ゆえに必要としている人もいるはずです」
ハンスさんは大きく頷いてみせた。その時、後ろに気配を感じたので、振り向くとそこにラナさんが立っていた。
「コーヒーおかわりどうか……、と思いましたが、まだ大丈夫そうですね?」
私は先ほどの例え話を聞かれていたのではと冷や冷やした。動悸が激しくなって、身体の内側が熱くなっていた。ハンスさんも急に明後日の方向を見てラナさんから視線を逸らしていた。
彼女は私たちの不自然な反応に首を傾げていた。どうやら話を聞かれていたわけではないらしい……、というよりそう願いたかった。
頭を切り替えたかったが、無意識にラナさんの唇の動きを追ってしまっている自分がいた。




