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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 4 無責任艦長サブリナ?
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たどり着いた星で待つものは

 私がサブリナ艦長とキャサリン教授に、これから行く星系にまつわる波瀾万丈な物語を聴いているうちに、艦橋にもう一人入室してきた人がいる。


「おはようございます。トレイシーさん」

「あっ、はい。…………どうも」


 入ってきたのはトレイシーくんだった。

 最初は『君付け』してたんだけど、何となくイヤそうな顔をしてたので『さん付け』に変更した。


 いつもならそのまま自席に向かうのだが、今日はこっちに寄ってきた。

 彼が唯一尊敬しているサブリナ艦長がいるからだと思う。


「何の話をしてるんです?」

「ああ、これからいくポラリス星系の歴史とそれにまつわる問題点についてですよ。トレイシーさんも聞きますか?」

「……なんだその話ですか、でしたらいいです」


 彼は興味を失って自席に戻って行った。

 まあ、いいや。ほっとこう。


「あのう。話の続きをお願いしてもいいですか?」

「本当は彼にも聞いてもらいたかったんだけど。そう思うでしょう? キャシー」

「いいんじゃない? 聞きたくない奴は。それよりこの後が凄いのよ」


 そう言ってキャサリン教授はトレイシーくんを無視して、サブリナ艦長の話を引き継いだ。

 トレイシーくんは一瞬、ムッとしたようだがすぐに自席の方へ行ってしまった。


 ◇


 移民船団は、その恒星系を諦めた。


 気落ちしていたクルーを元気づけるため、恒星に近づいて移民たちを元気づけようとした時に事件は発生した。

 曳航する船のスラスターの制御ができなくなり、方向を変えることができなくなっていたのだ。


 だが、そこでさらにこの異常事態が進行する。


「制御不能スラスターの出力も異常です! このままでは持ちません! 爆発の危険があります」

「あと何分持つ」

「わかりませんが、五分は維持できます。ですが、持って十分。限界になれば爆発します。巻き込まれれば船体は持ちません。切り離しを推奨します」


 船長はどうするか決めかねていたが、すでに選択の余地は残っていなかった。


 航行情報パネルが、船団の異常を告げている。

 姿勢制御ができていない。


 太陽に落ちるはずだった軌道がそれ、推力異常なスラスターの力により、太陽から離れつつあったのだ。


「今の進路はどうなってる」

「はい。わずかですが持ち直してます。ですが余談を許しません」

「脱出は可能なのか」

「確認します」


 すぐにクルーは今の推力が続いた場合の軌道計算を行う。

 当然、船の安全性についてもだ。


「それでどうなんだ」

「えっ! ええ……ああっ! 七分。いえ、六分半あれば脱出できます。ただ、極端なフライバイがかかりますので後続の船が持つか……」


 艦橋は騒然としていた。

 危険なスラスターはすぐに切り離すべきだと言う声。

 五分だけスラスターを使って、半分だけ後続の船を助けるという声。


 艦長は決断した。


「よし、そのスラスターを限界まで使う。六分半の噴射を何としても維持しろ。ロープは三重化したんだ。それに賭ける」

「りょ、了解」

「なお、四分経ったらスラスター付近の船員は全員、前方の区画に移動し隔壁閉鎖を行う」

「それだと最後の二分半はスラスターのモニタリングができなくなりますが」

「かまわん。どうせ、その時は異常があってもどうにもできんだろうからな」

「……了解」


  船はよく耐え、奇跡的に船団は太陽の引力から逃れるだけの速力を確保する。

 第二惑星、第三惑星を超えて船団は救われたと思われた。


「九番船、ロープ破綻!」

「自力での推力は!?」

「応答しません。すでに太陽からの脱出時にエネルギーを使い切っていたと思われます」

「何か手立てはないか。応答を呼びかけ続けろ」

「はい!  ………………艦長」


 呼びかけられた艦長は見せられたデータを見て天を仰ぐ。

 ロープが切れた九番船の船内温度は四百度を超えたまま、すでに二時間以上が経過していたのだ。

 すでにあの船を救う手立てはなく、仮にあったとしても中にいる難民たちは火葬された後であることは明白だった。


 十一隻の移民船は二隻を失い、生きたまま辿りつける可能性のある星もない。

 資源は限界まで使い切っており、船の中で代替わりが可能かどうかも怪しくなっていた。

 艦長は安易に恒星に近づいたことを後悔し、船員も移民たちもそのどうしようもない慟哭の中にあった。


「艦長。スラスター異常からすでに七分です。切り離しの許可を」

「あっ、ああ。そうだなったな。切り離しを許可する」


 異常を起こしていたスラスターは限界だった。


 切り離し自体危険を孕んではいたが、その爆発を恐れていてもいずれは破綻する未来しかないのであれば選択肢はない。

 二機の異常なスラスターは切り離すと同時にさらに不安定になり、わずか五十m離れたところで爆発した。


「船体は?」

「大丈夫です。切り離したスラスターの爆発による影響はありません」

「そうか。何とか最悪な事態は切り抜けたか」


 二隻四千人の命を失うこと自体がこれ以上ない最悪の事態ではあったが、艦長は『危機を脱した』とクルーに希望を持たせるためにもあえてそう言った。


「……そうですね。せっかく助かったのですから、行き先のことを考えましょう。天測してみます」

「ああ、よろしく頼む」



 船は異常なフライバイにより、設計以上の大きな速度を得て航行していた。


 その行き先がどこになるのかは誰も計算していないし、仮に問題があったとしても無理をさせ過ぎた出力系を動かすことはできなかった。それでも、今日を生き抜かなければ明日は来ないのだ。

 自分の行き先が脱出不能のブラックホールであったり、通過不能の密集する岩石群でないことを確認せずにはいられなかった。


 懸命に不調な機材を調整し、天測を行い、この船の進路を計算するクルー達。


「どうやら、この恒星系を抜けるまでに障害となる物はなさそうです」

「そうか。今後のことを考えると頭が痛いがまずは休もう。当直として艦橋には二人だけ残す。四時間毎に交代としよう」

「了解」


 クルーたちはそれぞれに自室で過ごした。

 疲れ切って眠るもの。

 眠れずにまんじりとして時を過ごすもの。

 失った船に知人がいた者は、他の誰にも見つからないように隠れて泣いていた。


 そうして四時間ごとの交代が六回終わり二十四時間。

 つまり、事故発生からまる一日が経った。



 艦長は一人艦橋に残ろうとしたが、クルーに説得され三時間だけ自室で休んでいた。

 しかし、今はまた艦橋に戻っている。


 その顔には疲れも後悔も感じられるが、それでもこの事態に対して前を向く気力だけは保っていた。


「今、どこに向かっているんだ? 計器に異常がなければ調べて欲しいんだが」

「ああ、それは大丈夫です。というか、みんな気になっていたらしく、当直の当番の連中が詳細なデータを残しています。そちらに出しますね」

「頼む……ああ、これか。これはまた……」


 艦長の端末に当直が調べたデータが表示されている。

 この船団は事故により思わぬ方向に移動していた。



 当初の予定では全く想定していないその方向は天頂、つまり銀河系のてっぺんに向かって移動していたのである。

 銀河系の緯度が高い方向。

 これを銀緯が高いと表現するが、地球から真上の方向に向かうことを人類はまだあまり想定していなかった。


 そのことが一つの奇跡を起こしていた。

 最後にこの船で到達することも不可能であったはずが、ある星への到達を可能にしていたのだ。

 通常、恒星系からの脱出ではある程度の速度を失う。

 重力圏を抜けるまでに引力の影響を受け続けるからである。

 だが、その特殊なフライバイの影響なのか、別の小惑星や彗星などの影響なのかはわからないが、移民船団はそのスピードを失っていなかったのである。


 その船団は、奇跡的に約五年の月日を経て、とある三重星系に到達する。

 その複雑な軌道は正確に確認することはできなかったが、どうやらハビタブルゾーンにある惑星を見つけたらしい。


「長かった。これが旅路の終わりになるといいのだが……」


 祈るようにディスプレイを眺めるクルー達。


 その惑星は安全なものなのか。

 大気組成を調査する。

 一カ月の調査の末、それは問題ないと判断される。

 地質もOK。水もあるようだ。


 あとは細菌やウィルスの問題について検討を開始したが、通り一遍の調査でもあと三ヶ月を必要とする。



 船長をはじめ、クルーたちはことを慎重に進めようとしていた。

 しかし、船団の住人たちはすでに我慢の限界に達していたのだ。


 牽引船の艦長が、まだゴーサインを出していないにも関わらず、着陸シーケンスを開始してしまう。

 打ち上げ時には、艦長の命令が最優先であるためそんなことはできなかったのだが、あの事故以来何かあったときは独自に動かせるように命令系が変更されていたことが、仇になったのだ。



 まず、二隻の船が地表に降りた。

 艦長はその様子を見ていたが、一つの指令を出していた。

 それは着陸しても最低三日間の調査を行い、それが終わるまでは上陸をするな、というものだった。


 だが、ある若者のグループがそれを破ってしまう。

 わずか一日経っただけで、簡易的なワクチンをいくつか摂取すると地表に降り立ってしまったのである。


「ヒャッホーウ! 陸地だぜ! これが俺たちの国になるんだ!」

「おい、戻れ。まだ調査が進んでいない。このまま過ごすのは危険だ」

「大丈夫だ。息も苦しくないし、必要なワクチンも接種している」


 その若者のグループは六人であったが、十五分後に一人が胸を押さえつつ倒れた。

 三十分以内にもう二人が倒れ、介抱していた男が救助を要請し、ロボットが駆けつけた時には二人が死亡していた。


「隔離室を用意しろ。それと医療対策チームを立ち上げて、病因の究明と治療方法の確立を急げ」

「了解しました」


 艦長は降りた船のクルーに命じて外に出た若者のグループを収容するために動き始めた。

 三人は自力で移民船に戻り、一人はロボットに搬送されたが、看病の甲斐なく二週間で全六名が死亡した。


 だが、これも後から考えると幸運と言えるかも知れない。

 この死亡原因は二つあり、一つは大気組成に含まれる希金属元素、もう一つは細菌ともウィルスとも取れる独特な病原に由来していた。


 艦長は死んだ若者の死体から培養したワクチンの製造を指示し、着陸した宇宙船の周囲に約三百m四方のドームを作成するように指示した。

 そして、全宇宙船の着陸を指示し、この惑星に運命を託すことを決めた。



 だが、たどり着いた星で待っていたのは過酷な生活だった。

 

 ドームの中の空気の清浄化に三ヶ月。

 非難の声が上がる中、亡くなった若者は徹底的に解剖され、死体は極限まで研究のために使われた。

 そうして得られた知識から作成したワクチンを全員に打ち、抗体の確認と地球から持ち込んだ動物による実験を経てようやく安全にこの地に宇宙服なしで降り立つことができたのだ。


 想像を絶する苦労を強いられる移民たち。


「俺たちは何としてもこの地で生き残るんだ」


 そんな強い思いを、地球の人たちは誰も知らなかった。

 プロジェクトを立ち上げた関係者は、気にもしなかった。

 もっとも、知る手段も、それを調査する術もなかったのであるが。



 一方、移民たちの必死な思いは天に通じ、事態は少しずつ好転していく。


 その後、この十年のうちにこの三百m四方のドームが、二十個以上が作られ生活の基盤ができた。

 生活が始まると本当のこの星の大気を無毒化するためのプロジェクトが開始され、三十年の月日を経て第一次テラフォーミングが開始された。


 この星の環境に適応できず人口は減り続けたが、六千人になる直前で何とか順応することに成功する。

 約五十年かけて人口は一万人になり、百年の間に五十万人を超えるまでなっていた。


 長い年月を経て新しい文明の萌芽が芽生えたのだ。


 ◇


 そこまで聞いて、イリアはパチパチぱちと手を打って喜んでいる。


 何はともあれ、その移民たちが自分たちだけの星を開拓できたのが嬉しくて仕方がない。

 故郷の星を失って、自国の民が難民として過ごしていることを考えると、とても他人事には思えないからだ。


「いろいろあったことは分かりましたけど、結果としてはめでたしめでたし、じゃないですか。歴史上に非人道的な行いがあったことは分かりましたけど、これからの仕事の上で何が問題なんです?」

「この星が地球とは切り離されて発達したことはわかるわよね?」

「ええ」

「今は銀河連邦でもこの星のことを把握しているけど、逆にこの星にいる人のほとんどが銀河連邦のことを知らない」

「そうなんですか? 教えてあげればいいのに……。どうして」

「教えられない事情があるのよ」


 地球の抱える黒歴史、この星が救われた歴史はわかった。

 ここからがこれからの仕事に関係する話だ。


 それは、とてもいびつな文化を持つこの星との関わりについての頭の痛い話だったのである。


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