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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 1 銀河の汚点がまた一ページ
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上陸部隊は海賊?

 この最新鋭の戦艦スリップの艦橋には場違いな通信が響き渡っていた。

 それは間違いなく僚艦から発信された音声のはずなのだが、とてもそうとは思えない……


「野郎どもぉぉぉ! 上陸の準備はできてんのかぁぁぁ!」

「「「「「おぉぉぉう!」」」」」

「抜かるんじゃねーぞぉぉぉ!」

「「「「「おぉぉぉう!」」」」」

「ぶちかませぇぇぇぇ!」


 装甲車に分乗した上陸兵たちが散っていく。

 その外装は宇宙軍の洗練されたデザインなのだが、乗員は全く違う。

 ドクロマークの海賊帽にジャラジャラしたアクセサリー。

 反り返った大ぶりの刀に眼帯、そして鉤爪。

 かつて地球の海にいたという海賊そのものだ。


「あれ、本当にアシュリーズのクルーなんですか?」

「残念ながらね。確かにウチの上陸部隊であることは間違いないね」

「えーー、でも、ちょっと信じられないんですけど」

「大丈夫。少なくとも一番艦にはあんな人いないから」


 そう答えてくれるのは本艦の通信士長であるオーリンズさん。


 フルネームはソニー・オーリンズ。アークトゥールス星系出身の38歳。

 私がまだ見習いの身分であるのにこの艦橋にいることができるのは、サブリナ艦長預かりになっているからなのですが、組織上の上司というわけではありません。

 私の本業(?)である通信士見習いとしては、このオーリンズ通信士長が直接の上司なのです。

 指導は厳しいけれどとても優しいおじ様、という感じ。 


 それはともかく、地上を走り抜けている奇妙奇天烈な上陸部隊だ。

 これらは一番艦スリップではなく、二番艦キャミソールから発進していた。

 上陸の指示? 掛け声? 気合い入れ? をしていたのは艦長のジル・メイフォン。

 黙っていればモデルみたいな凄い美人なのにどうしてああなんだろう?


 私はたまたま艦橋に来ていたイシュタルに聞いてみた。

 イシュタル・タイナーはこの艦隊ではとても偉い人なのにとても気さくな人だ。

 本人から『呼び捨てにして』と何度も言われて今はすっかり仲良しさんに。

 時々こうして第一艦橋にやってきては、話をしてくれる。

 肩書は技術開発部門の副部長。


「どうしてあんな昔のおとぎ話に出てくる海賊みたいになってるんですか? 誰かの趣味なんですか?」

「ああ、それねー。誰かが大昔のビデオをジルに見せたらしいの。それが流行ったらしくて、キャシーにその中に出てきた海賊のカッコがしたいって頼んだらしいわ」

「えぇぇ! 本当にジル艦長があの格好させてるんですか?」

「そうよー。あの性格だもん。それにキャシーがこだわって作ったから、見た目はともかく無駄に高性能なギミック満載の武装になってるはずよ」

「ふわぁぁぁ」


 キャシーというのはイシュタルの上司でもっと偉い人だけど説明は後で。

 サブリナ艦長が話しかけてきたんだもの。


「今の話、本当?」

「ええ」

「あれ、安くはないわよねぇ」

「えっ?……えぇ、そう……かもしれないわね」


 眉を顰めて考え込んでいるサブリナ艦長に逃げ越しのイシュタル副長。

 艦長怒ってる?


「イシュタル。後でキャシーとジルには一番艦にくるよう言っておいて」

「えーー、イヤよぉ。私関わってないしぃ。それに、ちゃんと伝えてもあの二人聞いてないって言うもの」


 イシュタルは面倒はゴメンだ、とばかりに首を横に振る。


「そう? じゃあ、イリア。全艦最上位指令でジルとキャシーに呼び出しをかけておいて。範囲は全艦艇全部門、期日は明日の朝八時、場所はここでいいわ」

「はい! わかりました!」


 私はブースで通信ウィジットを立ち上げた。

 ウィンドウにはすでに全艦最上位指令の使用許可が出ている。

 チェックを入れて、通信範囲にallを指定してマイクを確認する。


 全艦最上位指令は一番艦艦長にして艦隊司令官サブリナ・ベルトーネの許可がなければできない最上位指令だ。


 しかも通達範囲を全艦艇全部署にしたので、全てのクルーに二人が呼び出しを受けたことがわかっちゃうわけで。

 これは全乗組員にお仕置きをすることを伝える言わば二人に対しての『公開処刑予告』なのです。


 ピンポンパンポ〜ン

 なぜかこの最上位指令は病院の呼び出しみたいな音だ。


「全艦最上位指令。二番艦艦長ジル・メイフォン、技術部門長キャサリン・マックスウェル、明朝8時、スリップ第一艦橋に出頭されたし。繰り返す。

 全艦最上位指令。二番艦艦長ジル・メイフォン、技術部門長キャサリン・マックスウェル、明朝8時、スリップ第一艦橋に出頭されたし。以上」


 ポンポンピンポ〜ン


 この通信の後、呼び出された二人から涙ながらの弁明の連絡とメールがあったらしいが、サブリナ艦長はガン無視したらしい。

 内容は間違いなく趣味に走った装備についてだろうな。


 きっと、予算外のびっくりするような大金が無断使用されたに違いない。

 どんなお仕置きが待っていることか……

 ジル艦長、キャサリン教授、御愁傷様。


 さて、この宇宙艦隊についてだけど、詳しく知ったのは本当に最近のこと。

 避難民として4ヶ月を過ごした後に、一番艦第一艦橋に配備にされた後に研修で知ったのだ。


 まず、この宇宙艦隊は3艦の超級宇宙戦艦を主力としていて、艦長はなぜか全て女性。

 そして謎なのは艦名が女性下着の名前になっていること。


 一番艦スリップ、本艦隊の旗艦、主砲の威力は3艦の中で一番。

 艦長は言わずと知れた私の憧れのサブリナ・ベルトーネ様。

 年齢は26歳、身長165cm。金髪のウェーブのかかった髪、ヘーゼルの瞳、鼻筋も通っていて、艶のある唇も美しい。

 体型も出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるという……

 顔も体型も私の理想。あっ、もちろん人としてもね。


 この艦隊の要で全艦を従えての作戦行動は大胆かつ細心。

 いつでも頼りになるザ・完璧な人。


 二番艦キャミソール、特殊装備を積むことが多く、キャシー教授が妙な装備を作る場合、大抵この船に搭載する。

 今回、艦艇の装備はまともだと思ったら、上陸部隊の格好がムチャクチャだった。

 艦長はジル・メイフォン。

 年齢は24歳。身長は170cmで、体型はモデル並みで本当に綺麗なんだけど、性格と艦隊指揮にはちょっと難ありの残念美人。

 でも、ここ一番の攻撃はピンチの時に状況を打破したこともあるとかないとか……どうなんだろ?


 まだ紹介してない三番艦ペチコート、スピード特化艦、特殊任務もこなすが装備は常識的。

 艦長はケリーちゃん……あっ、ケリー・エアハート艦長。

 年齢はなんと16歳。身長は156cm。とっても可愛い私より二つ年下の女の子。うん、艦隊一の美少女かも。

 この若さで艦長を務めているのはどんな作戦でも指示通りにこなす冷静沈着さ。

 指令の裏の意図まで正確に理解して、もしもの事態にも備えておく準備の万全なところ。

 チャンスで驕らずピンチに動じない天才少女なのです。


 そして忘れていけない人がもう一人。


 さっき呼び出しを受けた本艦隊の技術部門長であるキャサリン・マックスウェル教授。

 年齢は艦長と同じ26歳で、この艦隊をサブリナ艦長と二人で立ち上げたらしい。


 容姿はあんまりイケてない。

 顔立ち自体は綺麗だと思うんだけどボサボサの髪に、かけているのは安っぽい女教師風の伊達眼鏡。

 スタイルも……あー、いつも汚れた白衣を着てるからよくわからないけどきっといいと思う。

 絶対もったいないと思うんだ。


 まあ、男の人に興味持ってないからと言うのはわかる。

 だって、この凄い艦隊の全ての艦艇と装備をほとんど一人で設計しちゃったした大天才。

 ものすごく偉い人だから、この人に見合う男性なんていないだろうな。


 ただ、いくら凄くてもできた船も装備も何もかも常識はずれで型破りなものばかり。

 大型艦に戦闘機並みの高機動を可能にしたはいいけど、1時間で1年分の燃費の悪さでとても使えなかったとか。

 1発撃つだけで建物ごと吹っ飛ばせるけど、発熱がすごくて2発目が撃てないハンドガンとか。

 

 私が一番酷いと思ったのは、どんな汚れも敵の刀も弾き返すパーティードレス。

 写真でしか見てないけれど、ブルーの生地に素晴らしいホログラムが煌めく、ため息が出るほど素敵なドレスなんだよ?


 でも、ふわっと一回転したら、ダンスのお相手の豪華なスーツがずっぱり切り裂かれてしまった。

 とっても偉い貴族の次男坊だったもんだから、その後は大騒動だったらしい。

 なんでそんなドレス作ったのか聞いたら、身につけたお嬢様のご両親が『悪い虫がつかないように』ってオーダーしたから、だって。


 いつもいつも性能は驚異的だけど、なんか違うものを作っちゃう。

 興が乗って研究に没頭すると人の言うことを聞かない。

 調子に乗って『最強の船を』なんて注文をすると、予算を本当に湯水のように使っちゃうらしい。

 船の代金が払えたとしても運用するとそれ以上の金食い虫であるとか……

 さらに、銀河連邦で禁止されている超級資材をバンバン使って就航不可なんてことも。

 人呼んで「キャシー・ザ・マッド・アームス」。

 天才の名につられて船や装備の依頼をして破産した顧客は数知れず。あらら。


 サブリナ艦長がこの艦隊の技術顧問に誘った時は、すでにそんな評判が広がっていて日銭にも困っていたらしいから、もし声を掛けなかったらどうなっていたことか。


 あっ、通信が入った。

 私と通信士長を手を制して、サブリナ艦長が自分で応対するみたい。


「地上部隊は政府官邸、国会議事堂、軍務局関係各部門、主要放送局、警察及び各インフラ中枢の占拠に成功しました」


 あっ! 2番艦のジル艦長の時と口調が違う。

 流石にあの海賊風の上陸部隊もサブリナ艦長相手だと、きちんと応対するのか。


「ご苦労様、いい仕事だわ。首謀者と小惑星帯に関する鉱物関係の資料を探して」

「了解」


 上陸してから2時間も経っていない。

 この星の政府中枢は、一つの都市に集中しており制圧は意外に簡単に終了した。


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