初仕事、がんばります!
「この惑星パランスの政府戦闘組織を今後、惑星軍と呼称する」
サブリナ艦長がそう宣言した。
全く、この仕事がこんなに大変なものになるとは思わなかった。
今から3ヶ月前。
第二惑星パランスの政府が、不正を働き始めたことからこの騒動は始まった。
この星系において人が住める惑星は第二惑星パランス、第三惑星フランカの二つ。
資源として有用な小惑星帯は第三惑星フランカと第四惑星ゾルアの間にあり、その採掘権利はパランス3割、フランカ7割と取り決められていた。
こういうのって、同じ星系でも惑星ごとの事情が違いすぎて大変なんだよね。
私の故郷も荒れたことがある。反乱を起こした星は悲惨だった。
ここの場合は、ツラい生活環境が問題だったの。
惑星フランカはベガIIから遠くてすごく寒い。
化石燃料も少なくて電力に頼らざるを得ない。
それで、鉱物資源をパランスに売って対価として電力を買っていたんだって。
でも、第二惑星のパランスはそれが不満だった。
元々工作機械はパランスで作られたものだったから、自分で掘れば全部自分のものになると考えた。小惑星帯を無断で開発、坑夫達を拘束して強制労働させ、鉱物資源をブン取ってしまった。
逆らった坑夫は何人も殺されたらしい。
酷い話だよね。
惑星フランカからの嘆願で私たちが来たんだけど、経緯を考えるとパランスが調停に応じるわけがない。
揉め事になるのは、当然だね。それがわかっていたから、銀河連邦はアシュリーズを派遣したのかも。
話を戻そう。
衛星軌道にある戦闘用人工衛星は無力化されたが、降下中の上陸部隊は凄まじい集中砲火を受けている。
艦隊の安全性は担保できているんだから、気にする必要があるのは上陸部隊からの通信データだけ。
整理しなくちゃいけない戦闘データは大幅に減ったはずなんだけど……
モニター画面には様々な計測値がいっぱい。
リアルタイムで更新されていくから、どんどん流れていってしまう。
ダメだあ、全然把握できない!
「イリア、大丈夫?」
「あっ、はい。大丈夫です!……問題ありません。オールグリーンです」
「確かに、味方は大丈夫ね。でも、あなたは?」
「はいぃ、えーとぉぉ……すいません。テンパっちゃって」
サブリナ艦長は「こう言う時はねぇ」と言いながら端末のモードを切り替える。
情報の集約モードだ。確かにこれは見やすいけど。
「見逃したデータはこの過去ログ検索で参照できるわ」
「でも、今戦闘中ですよね。教科書には『集約モードは非戦闘時用』って書いてあったんですけど」
「ウチは『スクランブルC』までは非戦闘時扱いよ。それにもう、スクランブルも解除したから今は『B警戒』ね」
「わかりました」
『スクランブルC』も『B警戒』も艦隊戦闘形態を表す言葉だ。
今回みたいに、敵が急に攻めてきた時はスクランブル。AからDまであるけれど、Cは相手がかなり格下の場合だ。
って、また話が脱線してる。
それより集約モードだ。
確かにこれはわかりやすい。
見るところが三つだけなんだもん。
宇宙戦闘被害状況はゼロ。ピクリとも数値が動かない。
もう地上からの攻撃は宇宙まで届いていない。
戦艦からの攻撃はすでに行なっていないので項目自体がブラックアウトしてるし。
つまり、今見ているのは地上戦闘部隊の被害状況と攻撃火力情報だけ。
「どうやら問題なさそうね。モニターから目を離すわけにはいかないけれど、通信メインで対処してくれればいいわ」
「ありがとうございます…………それにしても、まさか戦争になるとは思いませんでした」
「えっ! 戦争?」
「はい」
私、何か間違ってる?
星系政府が全軍をあげて、うちの艦隊と戦ってるんだから戦争だよね。
そう思って、サブリナ艦長を見上げると「うーん」と唸って首を傾げる。
隣のピアーさんは両手をあげて処置なし、ってポーズで。
なんかムカつく!
「あー、確かに戦闘状態ではあるけれど、銀河連邦基準で言うとせいぜい小さい紛争の鎮圧というところ、ね」
「はあ」
そうなの!?
惑星の政府が全力戦闘を仕掛けてきても小さな紛争レベルと言ってしまうこの艦隊、って。
この惑星軍だってそんなに弱いわけじゃないと思う。
私の故郷の艦隊だったら当の昔に全滅させられてる……。
まあ、アシュリーズが強すぎるんだから、仕方ないよね。
「一つ覚えておいて。アシュリーズは戦争の片棒は担がない。売られたケンカは買うけれど、ね」
「わかりました!」
そうか。そうだよね。ウチの艦隊は相手構わずぶっ放しているわけじゃない。
それより、聞いておきたいことがある。
「艦長。今回みたいに銀河連邦の正式な通達を蹴って、いきなり戦闘を仕掛けてくるってよくあるんですか?」
「滅多にあることじゃないわ。でも、仕事をしていればこういうことも少なくない……ところで、今は上陸部隊が降下中。こう言う時はまず何が大事だと思う? あなたの仕事で考えてみて」
「えーっ、と……なんだろう? 落ち着くこと? うーーん…………あっ、周辺警戒!」
「そうね。だから全員が安全を確保するために持ち場の監視確認がとても重要。つまり……窓の外をのんびりと眺めているアレをどうにかしないと……雑用で悪いんだけど、お願いできるかしら?」
「はい! もちろん!」
艦長が言っているのはピアーさんの事だ。
戦闘中だと言うのに自席を離れて第一艦橋の広い窓に張り付いている。
一級航海士マーカス・ピアー。
操舵の腕は確かと聞いてはいるけど、舵を握っているところなんて見たことがない。
いつもブツブツよくわからないことを言ってる変な人。
「宇宙の海は俺の「席に戻って下さい。警戒体制ですよ」」
「降りてった連中が仕事始めるまではどうせヒマだ!」
ヒマなんかじゃない!
やることならちゃんとある。
相手は小規模とは言え第二惑星政府軍。
地上の戦力は大したことないけれど、いつの間にか主力の強力な艦隊戦力が背後に、なんてことがないとは限らない。
そんなことが起こらないように、近傍にワープアウトしてくる船の亜空間干渉の有無、強襲してくる高速船がないかモニターで監視、敵軍の通信傍受が私たちのお仕事。
航海士のピアーさんだって、多重積層航路計算とか艦隊安全予測網の更新とかやることがあるはずなのに。
「そうツンケンすんな。B警戒で緊張してたら身がもたねーぞ」
そんな事、私だってわかってる。
艦隊としては最低レベルの警戒体制だ。
最初は派手にミサイル弾を打ってきたんだよ。
今時、ミサイルの実体弾なんか撃ち落とすのは簡単だけど、どんな弾頭を積んでいるかわからない。
宇宙汚染が起こったりしたら大変だし。
そこで、電子機器に干渉する広域力場を惑星全体に照射。
あっという間に全て機能停止してしまったらしい。
今や、敵の攻撃はスタンドアロンのレーザー砲のみ。
問題は制圧のために降下している制圧部隊の小型艇が耐えられるかどうか。
「降りてる連中もあんな豆鉄砲なんとも思ってないぜ?」
「レーザー砲を豆鉄砲、って、いつの時代の人ですか?」
まーた懲りもせずそんなこと言ってる。
ピアーさんは一級航海士のクセに砲撃手も時々担当している変わり者だ。
しかも、自動照準自動砲撃が当たり前のこの時代になぜかピアーさんは手動で砲を撃つのだ。
本人は趣味だとか言っているけど。
「ピアー。新人をからかってないで席に戻る。イリアもよ」
「はい! ほら、艦長に怒られたー。私は先に席に戻りますからねー」
私は自席に戻り、ようやくピアーも窓から離れる。
乱暴に椅子をリクライニングさせ、コンソールに足を投げ出して仕事なんかする気はないようだ。
窓の外では、このベガII星系の第二惑星パランスに上陸艇が5隻が大気圏を突破してもう見えない。
上陸艇から送られてくる船外カメラの映像では地上が直近まで迫っていた。
降下しているのは上陸艇としては小型らしいけど全長は100m近くあり、一隻あたり300名の上陸兵が乗り込んでいた。
その小型艇から通信が入る。
通信士長のオーリンズさんが私の方を見て、合図をする。
やった! この後も続けて仕事を任せてもらえるようだ。
最初の失敗でお役御免かと思ってたよ。
早速、ヘッドセットをつけて交信開始。
地表からの小型艇に向けてレーザーが発射されたが、問題ないと報告が入る。
「敵、地表からレーザー砲発射! エネルギー量は問題ありません」
「OK。回避運動は必要ないわ。そのまま予定地点に向かって」
「わかりました」
私の役目は上陸艇のテレメトリを読んで状況を艦長に伝えること。
通信があれば艦長に取り次ぎ、また艦長の指示を小型艇に伝える。
艦長が艦隊総責任者だから、私の話は横耳で聞いているだけで必要がなければ何も言わない。
だから本当は私が質問したことに答えてくれるのは特別なことなのだ。
特に今日は私の初仕事だからだろう。
私が報告に一々答えてくれる。交信内容から危険がないのは、わかっているはずなのに。
地上部隊も返信を待たずに作戦を続行しているだろうけれど、私はちゃんと上陸部隊に指示を伝えた。
サブリナ・ベルトーネ
旗艦スリップの艦長にして宇宙艦隊アシュリーズ総司令官。
私の憧れの人だ。
艦長としての指示は的確、いつでも落ち着いていて所作も綺麗で、いつかあんな女性になりたい思ってる。
美しい顔とスタイル。着こなしが素敵な大人の女性。
どうやったら私なんかが近づくことができるだろう。
なんて考えてたら
上陸艇からまた通信が入った。
私が答えようとするのを制して、艦長が自分のヘッドセットを指差した。
自分で交信するらしい。
「こちら、サブリナ。状況は?」
「戦闘機が出撃してきました。実体弾による攻撃も考えられますがどうしますか?」
「脅威度は?」
「クラスDです。貫通される可能性はほぼゼロです」
「わかったわ。一応、1km以内に近づく実体弾については自動迎撃を」
「了解」
降下部隊はもう着陸体勢に入っている。
惑星軍はあらん限りの光学砲を撃ち込んできている。
この星の文明レベルだと、レーザーかよくて荷電粒子砲、フォノン・メーザーはないだろう。
さらに、敵の攻撃が激化してきた。
「戦闘機が上がってきました」
「自動迎撃と防御力場をチェックして」
「はい」
敵が空中発射弾道ミサイルを発射。
すごい迫力だ。宇宙では命中と同時に小さな光が見えるだけ。
地上では壊れたものが散乱し、中には正視できないものも。
ほとんどが自動迎撃システムに撃ち落されているが、何発かがシステムを掻い潜って上陸艇に迫る。
あっ、当たっちゃう……と思った瞬間、その数十m手前で暴発した。
助かったぁ。
「問題ねーよ。防御力場ってヤツだ」
「そうなんですね……。ああっ、敵の戦闘機が!」
「あーあ、近づきすぎだ。煽りを食って迎撃システムに撃ち落とされてる。遠くからタマ撃ってりゃいいものを」
制空圏内に入った敵迎撃機が爆発四散した。
あれでは脱出もできない。
「あれに乗ってる人は亡くなってるんですよねぇ」
「仕方ねぇよ。AI戦闘機の質が悪すぎる」
「それでも人間よりマシでしょう? なんでわざわざ有人機を使ってるんですか?」
「乗っ取られちまうんだよ。半端なAIだとな」
「ああ、なるほど」
この時代の高レベル戦闘では宇宙戦艦同士の戦いならともかく、戦闘機に人が乗ると言うのはあり得ない。
人道的な意味もあるが、高いGにも耐えられるAI戦闘機の方が遥に有利。
火力だって、搭載ミサイルじゃ大したことはできない。撹乱と偵察が主な任務であることがほとんどだ。
ハッキングを恐れて有人戦闘機を出してきたんだろうけど、その時点で兵器レベルも推してしるべし。
……と言うより何十機分のAIをいっぺんに乗っ取れてしまうウチの艦隊の電子兵装が凄すぎるのか。
目の前で人が亡くなっていることにちょっと心が痛むが考えないことにする。
とりあえず作戦は順調だ、と自分に言い聞かせる。
感傷に浸ってまた仕事に失敗したら大変だ。
あっ、どうやら小型艇の降下部隊が着陸したらしい。
無人機が発進し始めてる。
最初は降下した船の防衛と上陸部隊が進軍するための橋頭堡を築くこと。
抵抗が弱まってきたら、戦闘を継続しつつも各種惑星のデータ収集。
ここまで慎重にことを進めているのは、地上という我々宇宙を棲家とする人間にとっては特殊な環境のため。
一応、軌道上からチェックはしているけれど、どんな問題があるかわからない。
イヤーモニターには、ドカンドカンとさっきからすごい音が聞こえてくる。
宇宙での戦闘に慣れきっていると、空気の影響がどうしても疎かになる。
爆弾は怖くないけど、爆風は怖い。
吹っ飛ばされたら人なんて、形も残らないからだ。
空気といえば、その組成も問題だ。
事前に調べてもいるけど、こんな政府から出ている公式資料なんて当てにならない。
大気の成分解析から細菌調査まで全部やらなきゃならない。
未知のウイルスで全滅なんて洒落にならないからだ。
あー、もうなんでこんなに調べなくちゃいけないことが多いの?
上陸してから一時間以上も待たせてしまった。
なんとか、生物的安全性を確保。
わらわらと有人上陸部隊が出てきた。
目的は政府官邸や都市の機能中枢の制圧だ。
艦隊の地上部隊は、どんな事態にも対応できる特殊装備を使いこなすとっても凄い人達……ではあるんだけど、私はちょっと苦手。
ガタイも声も大きいし、何と言ってもあのノリがねー。
でも、頑張んないとなあ。
この戦艦のこの場所でやっていく、って決めたんだから!
気に入っていただけたなら、ブックマークと評価ポイント★を入れていただけると励みになります。




