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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 1 銀河の汚点がまた一ページ
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プロローグ

 昔ながらのスペースオペラです。

 ちょっとスラップスティック。

 五隻の上陸艇が、閃光を撒きながら地上に降下していく。

 摩擦熱か、あるいは地表からのレーザー砲撃か――。


 美しく見えるそれは、一歩間違えば死をもたらす地獄の使い。


 

 私はイリア・ベルクール。

 第一戦艦スリップの通信士見習い。


 送り出した上陸艦は地表からのレーザー攻撃にさらされている。

 だが、艦橋は落ち着いていて、慌てる様子はない。


 銀河連邦からきた今回の仕事は確か……などと考えている間に、降下部隊から通信が入る。


「こちら上陸艇一番艦、順調に降下中。全船異常なし」

「こちら戦艦スリップ第一艦橋。テレメトリ確認しました」

「おー新人の嬢ちゃんか、今日は楽勝だな」

「カメラ映像ではレーザー砲を浴びてるみたいですけど大丈夫なんですか?」

「平気平気、バリアは安定してるし万が一破られても装甲は絶対抜けない。そよ風みたいなもんよ」

「了解しました。艦長に伝えます」

 

 こんなにのんびりしていて平気なんだろうか。

 戦闘中なんだけどな。


 緊張しながら、視線をモニターに落とした。

 ほんの二時間前に、この星域についた時のことを思い出していた。



 私がもう少し、うまくやっていれば……

 

 約12光年のショートジャンプによって、宇宙艦隊アシュリーズはこのベガⅡ星系に降り立った。

 銀河連邦からの依頼でこの星系にやってきたのは平和裡にこの事件を解決するため。


 今回の仕事、私は張り切っていたの。

 この戦艦(ふね)に乗って6ヶ月。私に任された初めての対外通信任務だったから。


 でも、そんな私の気持ちとは裏腹に、この星系最大の国家である第二惑星パランスに送った通信はのっけから手酷く拒絶された。


「こちら宇宙艦隊アシュリーズ。銀河連邦の依頼により小惑星帯のトラブル調停のために参りました。依頼番号Ω2-A66B-88です。ご確認下さい」

「確認の必要はない。この星系において小惑星帯のトラブルは認められない。早急に帰還されたし」


 一方的な拒絶だった。

 既にこちらも小惑星帯については、調査している。

 トラブルがないと言うのは「口を出すな」と言うのと同義だ。

 それを聞いて、はいそうですか、と帰るわけにはいかない。


 あーあ。

 本当なら私が協議の段取りを付け、星系の最高責任者とウチの艦長の電子通話会談となるはずだったのに。

 若干ペナルティは受けるかも知れないけれど、反抗してくるなんて思いもよらなかった。


 ぼやいていても仕方がない。


 えーと、交渉がうまくいかなかった時の手順はどうだったっけ……

 オロオロしていると、


 ぽかっ


 痛っ! 殴られた。


 一体誰よ、ってこんなことする人は1人しかいない。

 自称敏腕航海士のピアーさんだ。


 思わずキッ、と睨みつけちゃったけど……ん? なんか、通信システムの横のボタンを指さしてる。


 あっ、あーー、そうだったそうだった。


 銀河連盟公式依頼情報アーカイブ送信ボタンを押せばいいんだ。


 これでこの政府もこっちの艦隊が正式な銀河連盟からの依頼で来たことを認識できるはず。

 このアーカイブは偽造もできないし通知内容は絶対だ。


 銀河連盟は、この銀河全体で起こるさまざまな問題を平和裡に解決するための巨大な機関だ。

 事故があれば救援部隊を派遣し、紛争があれば調停する。


 紛争を有利に進めていようが、理がどちらにあろうが連盟が「矛を納めろ」という限り、黙って従うしかない。


 いや、今はそんな説明なんかしている場合じゃないな。



 確かに私の仕事はこのボタンを押すこと。

 だけどさ、その前に一言言ってやらないと気が済まない。

 いきなり私の頭を殴った隣のヒマ人に!


「何でこんなことするんですか? 承知しませんよ」

「バッカお前、通信入れっぱなしだぞ」

「え?」

「パランス惑星政府は今の発言を敵対行為とみなし強制排除を決定した」


 パニックになって周りを見回す。

 ブリッジにいるクルーはみんなやれやれという顔してこっちを見ている。


 うわーん、すっかり呆れられてしまった……などと言ってる場合じゃない。

 私のせいで戦争が起こってしまう!!


「艦長〜」

「大丈夫よ、外部通信任務としてはまずいけれど相手は最初から話し会う気はなかったみたいだし、結果は変わらないわ」

「そうそう、あれだけ相手を挑発できればある意味大型新人だぜ」


 サブリナ艦長は庇ってくれたけど、ピアーさん酷い!

 だいたいいきなり、殴ったりするからいけないんじゃないですかぁ。


 むくれていたら、艦長に頭を撫でられた。

 子供扱いしないで、って思ったけど我慢我慢……それに艦長に撫られるなら実はちょっと嬉しい。


 そのまま艦長は、スクランブルCのボタンを押し、艦隊全体通信を開く。


 当直隊員が窓ガラスにシールドを降ろしていく。

 完全にシールドが降ろされた後にまた宇宙空間が見えるようになるが、これは船外カメラで捉えている内容を窓ガラスに映し出しているからだ。


 クルーは手慣れた様子で作業をこなしていく。

 防衛班はバリアーチェック、通信傍受班は全天スキャンを開始し、艦内はスクランブル体制に移行完了した。

 サブリナ艦長は総司令官として反撃を宣言。


「アシュリーズは戦闘体制に入る。目的は惑星政府からの攻撃を鎮圧すること。まず安全性の確保、防衛を主眼にして敵の攻撃内容の調査と解析、脅威度を判定して。操舵および通信の各部署は軌道上の障害物及び別働艦隊の有無を確認し、周辺の警戒にあたれ」

「「「「「了解!!」」」」」


 この惑星の戦闘能力は低い。文明レベルが全然違うのだ。

 あらゆる計器から得られるデータが、星系からの攻撃による被害の可能性はないと証明している。


 地上から銀河宇宙標準航行速度を超える飛行物体を飛ばす技術力はないし、光学関連の砲撃は成層圏で衰弱してハンドガンのそれと大差ない威力しかない。

 一応、ミサイルを打ってきたけど、まだ十数分の余裕がある。


 

 結局、最初に艦隊に届いたのは軌道上の人工衛星からの荷電粒子砲だった。

 当然、艦隊に被害なし。


 三層に貼ったバリアの最初の一つも抜けないし、ダメージによるエネルギーも測定限界以下。

 お返しで撃った短距離レーザーで、相手人工衛星は破壊されて、もはやスクラップ同然だ。


「ちゃんとデータ取ってるか」

「やってますよ。ピアーさんこそ航海士の仕事して下さい!」

「こんな自動航行中にどんな仕事があるってんだ?」

「もう、いいです」


 私は自分の仕事に戻った。

 通信士の戦闘時の任務の一つは、戦闘データの解析だ。

 高精度の周辺探索機器からのデータを読み取り、敵の攻撃がどれだけ危険なのかを評価するのだ。


「いずれも脅威度D以下を確認。全弾命中したとしてもバリアを突破されることはありません。航行に影響なし」

「おっ、それは忘れなかったみたいだな」

「うるさいです、ピアーさん。スクランブル体制なんですよ。席について下さい」

「いや、スクランブルって言ったってCレベルだし、当直以外は寝てたっていいぐらいだ」

「そうかも知れませんけど」


 私とピアーさんが口喧嘩していると、自席に戻った艦長から直接コールが端末に。


「あなたたち、いい加減にしなさい。次の寄港先で下船許可出さないわよ」

「「すいません」」


 私もピアーさんも即座に謝る。

 宇宙艦隊の航行で一番の楽しみは星に降りて地上の空気を味わうこと。

 大きな宇宙ステーションでショッピングもいいな。


 こんなに設備が整った大きな戦艦であっても、長い船暮らしは飽きるからね。

 それを取り上げられたらたまらない。



 艦長は艦内通信に切り替えて、指示を飛ばした。


「実体弾は全て撃ち落としなさい。突破されないとわかっていてもバリアを削られるのはありがたくないわ。軌道上の攻撃衛星は砲撃を黙らせればいい、落とす必要はない。こちらからの攻撃としてはまず電子戦を仕掛ける。通信帯域とプロトコルの把握。自動解析が可能ならハックしてシステムに侵入してもいいわ。クラックも許可するけど、地上兵器を誤作動させて爆破させたりしてはダメ。人命に関わらない範囲ならOKよ」


 最初から私たちの艦隊は敵の攻撃で沈められる心配はない、とわかってる。

 どちらかというとやりすぎないように注意しているくらい。


 こちらの攻撃は、市街地に影響がないようにソフトに相手を黙らせることなのだ。



 あーあ。それにしても。

 平和な話し合いで決着すると思ってた私の初仕事が、惑星政府との戦争になってしまうなんて。




 ここまでが2時間前にあった話。

 そして、今も戦闘は継続中。




 宇宙艦隊アシュリーズ。


 Ashley’s Angel Starfleet (アシュリーズの天使) とも呼ばれている超強力な私設宇宙艦隊。

 アシュリーズさんが誰かは私は知らないし、なんでこんなに凄い船が大きな組織に入ることもなく存在しているのか謎ばかりだ。


 受ける仕事は今回のような紛争の仲裁やレアな星間物質の輸送。

 警備の仕事もあるし、恒星の調査なんていうのもある。

 要は、銀河の中を縦横無尽にかけるなんでも屋だ。



 まあ、そんな大きな話は私には関係ない。

 今は、この星系軍との戦闘を収めること。

 データを解析して、砲撃部署に最適な攻撃方法のサポートを行う。


 この星系に暮らす人たちにもなるべく被害を出さないように。


 一応、戦闘の停止も呼びかけてはいるのよ。

 さっきからあらゆる星間通信回線を使って。

 でも聞く気はないみたい。


 艦隊としては、このままにして置けないからベガII星系の第二惑星パランスを制圧することになったらしい。



 あーあ、こんなことで私の夢は叶うんだろうか。

 早く一人前の通信士になって、サブリナ艦長の役に立つこと。


 私は、自分の故郷の星を失い、この艦隊に拾われた。

 そして艦長に拾われてクルーに取り立ててもらえたのだ。

 その恩義に応えたいの!


 ちゃんと目標もあるわ。

 亜空間機密通信網交信資格を取ること。


 今だって、そのために、何が表示されているかもよくわからないモニターの情報と睨めっこしているところだ。

 船内は異常なし、敵攻撃の分析結果も問題ない、作戦概要とこれまでの指示履歴……うわあ、情報が多すぎる!


「イリア。情報の更新が遅れてるわ」

「すいませ〜ん」

「今日の相手なら概略情報に絞っていいから5分ごとに全味方船の位置と状況をプロットして周辺図をアップデート」

「わかりましたぁ」



 拝啓、天国のお父さん。


 私の通信士修行は始まったばかりだけど、先は長そうです。

 とほほ。

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