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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 3 艦長は無慈悲な夜の女王
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戦艦(ふね)を壊せば怒られる、でも怒られるより怖いことってなんだろう?

 突然、目の前の端末が真っ赤に染まる。

 危険を知らせる大量の警告ランプ。


「回避間に合いません!」

「アクティブバリア展開を急いで! 重力ジャミング開始」


 アクティブバリアと言えば聞こえはいいが、要するに『小型艦艇を犠牲にしてその場を切り抜けよう』というものだ。

 敵に突貫し、破壊されるまでに必要な守備的な装備を割り出す。微弱なジャミング波やチャフを撒くことも可能で『あわよくば爆破される前に対策もしよう』という兵器であるわけだが、敵が強いと目くらましにしかならない。


 重力ジャミングは、その名の通り砲撃に対して有効な重力波を宇宙空間にばら撒いて、敵の砲撃を撹乱する。

 ミサイルのような実体弾は、近づくこともできず爆発するかあさっての方に飛んでいってしまう。光学兵器にしてもランダムな重力レンズとしての役目を果たすため、光軸をずらすことができる。


 私がいる一番艦(スリップ)は、回避が間に合わっていない。

 デフォルトで展開しているバリアはかなり削られており、このまま攻撃を受け続けるとまずいことになりそうだ。


 だが、僚艦に火の手が上がる。


「キャミソール被弾!」

「何ですって!! 状況は?」


 戦闘前にやらかしたジル艦長が、責任を感じていたのか二番艦(キャミソール)を先行させたのが仇になったようだ。

 見た目にも大きな被害が出ているのがわかる。


 テレメトリから二番艦(キャミソール)の状況を把握する。


「人的被害はなく航行には問題ありませんが、第二層まで敵光学兵器の貫通が確認されています。誘爆などの危険はありません」

「わかったわ。ケリー、三番艦(ペチコート)は反撃を許可する! とりあえず敵の主砲の無効化が最優先、副砲以下は脅威度次第で各個対応。相手艦艇の撃沈は厳禁。そのあとは警戒と牽制に徹して!」

「了解」

「ジル! 該当部をパージ。そのあとパージした外壁を分子破壊砲で消去して! キャミソールは追撃を警戒しつつ後退」

「ふあぁーい。面目ない」


 窓の外の景色が揺らいでいる。

 旗艦スリップから展開された重力波ジャミングが機能しだしたのだ。

 星も敵艦も水面に映った風景が突風で乱されたように激しく揺れている。

 計器類も安定しなくなり、端末の情報もこの数分は役に立たなくなる。


「イリア。まさかとは思うけど、一応『影艦』の用意を。展開規模は……主要戦艦三隻のみでいいわ。展開位置については、二隻はデネボラ軍の背後。一隻はスピカの運送屋の天頂方向」

「はい」

「やりたくはないけど……。『影消去』が必要になったら指示するわ」

「はっ、はい……」


 『影消去』とはこのアシュリーズを守るための最後の手段だ。

 敵艦の完全な殲滅。死人に口無し。

 非道と言われようがどうしようが、この特殊な艦隊の真実を隠し通し、全てを無かったことにするのだ。


「心配しないで。滅多なことでもない限り、そんなことにならないから」

「わかりました。サブリナ艦長」


 私は影艦に指示を送る。

 影艦はまだ艦内にリンクしている常設亜空間に停泊している。

 いつでもこの旗艦スリップから、半径一auの範囲内なら、どこにでも出現させる体制が整っていた。


 ◇


 数時間後。

 すでに戦闘は終了。戦域を離脱した艦隊はアルデバラン星系第六惑星の軌道上に集結していた。

 アークトゥルス星系での戦闘後、後始末は銀河連邦の艦隊によって行われた。

 アシュリーズはこっぴどくお叱りを受け、報酬もほとんどが罰金と化し、ほぼただ働きという為体(ていたらく)であった。


 中破した二番艦は、どうにか消火作業が間に合い爆散を免れた。

 二番艦艦長ジル・メイフォン、三番艦艦長ケリー・エアハートは旗艦である一番艦スリップの艦長室に出頭している。

 まずは、一番艦艦長サブリナ・ベルトーネが口を開いた。


「何とか乗り越えたわね。ご苦労様。ジル、ケリー」

「どうも……」

「いえ……」


 サブリナ艦長はこういう失態の直後は公式な反省会をしない。

 警戒体制や直近の予定など最低限の指示はするものの、それ以上はそれぞれの部署に任せてしまう。


 そして艦長と一部の人員のみの会合で、まずは軽食などを取りつつゆったりと過ごす。

 こんな時こそ落ち着くというか、とにかくピリピリしてはいけないんだとか。

 もちろん、戦闘内容の検討はちゃんとやるのででアルコールはなしだ。

 グラスをぶつけて騒ぐパーティーではない。


 サブリナ艦長とジル艦長、キャサリン教授が飲んでいるのはコーヒー。

 ケリーちゃんは、一人だけ紅茶を飲んでいる。

 私も紅茶にしよう。


 一応、ブリーフィング扱いではあるが、三人の艦長と教授と私しかいないこの空間はプライベートに近い。


 サブリナ艦長とキャサリン教授はいつも通りだけど。

 許可が降りる前の威嚇射撃に失敗し、独断専行ののち2番艦に被害を受けたジル艦長は神妙な顔をしている。


 そして、なぜかケリーちゃんも同様だ。

 三番艦は敵の攻撃を食い止め、反撃して敵砲塔のみを破壊、双方の被害を最小限にすることに成功した。

 その一番の功労者なのだから、そんな顔する必要はないのだけど、周りの空気を読んでいるんだろう。

 全くよくできた16歳だ。


 私は初参加なので、微妙な雰囲気にどうしていいかわからないでいる。

 と言うか、この会合になんで私が呼ばれてるんだろ?


「やれやれね。とりあえず、二番艦は曳航して(引きずって)いくとしてこれ直るの?」

「作り直した方が早いんじゃない?」

「ジル! そんなこと簡単にできるわけないでしょう!」

「わかってるって。言ってみただけー」


 すると、今回の戦闘の統計情報(スタッツ)が届けられた。


「まあ、見なくてもわかるけど……キャミソール中破、損失は駆逐艦1、スペースドローン43、それに何と言ってもヘビースモーカー展開、レーザーによるタキオンの大量消費……酷いものね」

「タバコ屋みたいな名前ついてる『粉ばら撒くだけの兵器』が、なんであんなに高いんだろう?」

「あのね、ジル。ヘビースモーカーはね……」

「わあってる! わあってるってー!」


 ヘビースモーカー。

 アシュリーズの秘匿兵器の一つ。

 今回の戦闘の最後に使われたその特殊兵器。


 名前の通り、周りに迷惑をかけまくる点では、コードネームの元になった『近くにいるだけで服にまで匂いが染み込む多量喫煙者』と同じである。 

 今回の戦闘を終わらせることができたのは、この不思議な、しかしアシュリーズにとって虎の子の兵器を使ったおかげである。


 頭に血が上った両艦隊の光学砲もミサイルのような実体弾、戦闘機などを全て無効化してしまったこのヘビースモーカーとは如何なるものか。


 それは、単に宇宙空間において特殊な岩を砕いた粉を戦闘宙域に散布するだけの代物だ。


 やること自体は難しくはない。

 ある特殊な岩を宇宙船の外側に持ち出し、すり潰すだけで発動する。

 だが、貴重なアシュリーズの駆逐艦一隻をリモートで送り出し犠牲にする必要があった。


 その岩が砕かれ、粉となった物質がどうなるのか?

 それは、砕かれた瞬間から一粒一粒が強烈に反発し合う。

 それは磁石のS極同士、N極同士が反発し合うようなものだが、その反発の力が桁違いなのだ。

 一粒一粒が亜光速に達するスピードで広がっていく。


 そして、その粉が凄い勢いで広がる途中で宇宙船にとって、はた迷惑以外の何者でもない効力を発揮する。

 まず広範囲に光学視界、電磁場、重力場などのあらゆる機器の動作を掻き乱し、索敵関連の全てが無効化されてしまう。

 さらに、宇宙船の外部センサーが機能不全を起こし回路まで浸透した場合、コンピュータや機械動作にまで影響を及ぼすことがある。


 この武器に対する唯一の対処法は、メインエンジンを切ることだ。

 だが、この武器の効力を知らなければその考えに行き着くことはないだろう。

 実際、この戦闘の敵陣営はこのヘビースモーカーの存在を知らなかった。


 いや、私も知らなかったけど……


 散布時に僅かに煙が吐き出されるのを確認したものの、後は視覚、重力波・電波その他あらゆるレーダーや観測機器が役に立たなくなり、慌ててエンジンを蒸した機体は即座に爆散した。

 それが無人機であったために、人的被害が出なかったのは奇跡と言って良かった。

 前に向けて砲塔を回転させて撃ったつもりが、電子系統に異常が生じ隣の味方艦艇を砲撃してしまったものもいた。

 こちらは砲塔から放たれる光学兵器がすでに所定の効率を発揮できない状態だったので、撃たれた方もほんの少し外装が焦げたぐらいであった。


 結局、全ての敵の艦艇がコントロールを失い、迂闊に動くことができず超長距離からのアシュリーズの主砲に攻撃力を封じられて、武装解除となったのである。

 敵の艦隊司令部も通信機さえ使えない有様では、降伏の合図を送ることさえできず、戦艦のハッチから白旗を掲げるしかなかったほどだ。

 この宇宙戦闘の最中、よくもリアルな布製の白旗などがあったものだ。


 ではなぜ、アシュリーズはこんな強力な兵器を最初から使わなかったかのか?

 それは、この岩は産出も保存も難しくコストが物凄く高いからである。


 名前を相反原素岩と言うのだが、とにかく手に入れるのが難しい。

 その岩は天の川銀河の中心にあるブラックホールに程近い射手座A*の近くの惑星で産出される。

 人的損害が大きすぎるため産出には無人機による採掘作業に頼るしかない。


 採掘無人宇宙船は実に未帰還率70%。

 実に宇宙船を100隻出しても30隻程度しか戻ってこないのだ。

 さらに、運よく相反元素岩を取得できたとしてもそのさらに半分の宇宙船は破棄するしかないのが実情だ。

 ブラックホールに近づく宇宙船は、外装も電子装備も著しく疲弊するからである。


 そこまでしてこの岩を手に入れるのは、それに見合う武器としての価値を持つからであるのは今回の実戦からも明らかだ。


「サブリナ姉様。なんでいつもは嫌がるヘビースモーカーを今回使用したんですか」


 不思議そうに聞くケリーちゃん。

 プライベートではサブリナ艦長を『姉様』呼びなんだ!


「ああ、それは今回敵が脱出艇を撃ってきたでしょう? あれは重大な天の川銀河連盟の協約違反なの。間違いなく高額な損害賠償金を踏んだくれるからよ」

「なるほどー」

「そういうこと。そうね……あとは、ケリーに言うことはないわ。いい指揮ぶりだったわ。もう、帰って休みなさい」

「ありがとうございます。それでは失礼します」


 退室するケリーちゃん。


「それじゃあ、私も……」

「待ちなさい。あなたはまだよ。ジル! まだ、二番艦について話をしなければならないわ。まず、ボスへは報告してしっかりお説教してもらうとして……」

「えぇぇぇ! ボスに知らせんのぉ! 勘弁してよー! ボスは笑顔のまま黙って給料ゴソッと減らすんだよー。この前なんかさー、クルー一律に昇給したのに、私だけ減給だったんだよお!」

「ダ・メ・よ! 今回は中破した二番艦をどうするか報告書にして、今後についての対応とセットで出さないといけないんだから」

「でもーー、でもーー」


 二番艦の被害は酷いものだ。

 ミサイル射出孔を撃たれた被害は大きく、戦艦の艤装が丸ごと吹き飛んでいた。

 屋台骨である竜骨に影響がなかったのが、せめてもの救いであった。

 だが、戦艦において大事な防御力と戦闘力の両方が大きく欠けてしまった。

 通常の戦艦なら、ジル艦長の言う通り廃棄するしかない状態である。


 しかし、()()()()()と言うことは()()()()()こともできると言うことだ。

 修理しようと思うからいけないのだ。

 強化すると考えれば……


「……そうだ! いいこと思いついたわ。ジル。あなたそんなに罰を受けなくてもいいかもしれないわよ。この案が通ったらね」

「ひぃぃ、何思いついたんだよぉ! サブリナがそういう顔すると碌なことがないんだから」

「そうと決まれば、もう帰っていいわ。ジル。これから報告書まとめるわ」

「……わかった……。怖いなぁ……何されるんだろう。私の二番艦(キャミソール)……」


 すでに中破した二番艦はドックに入り、改修作業が行われている。

 ジル艦長はキャミソールに見える影艦の二番艦ブリーフに帰って行った。

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