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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 3 艦長は無慈悲な夜の女王
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緊急依頼と言えば聞こえはいいが、それは単なる喧嘩の仲裁

 私が衝撃の事実を知ってから数週間後。

 アシュリーズは、アルデバラン星系に向かっていた。


 立ち寄る予定はなかったが、緊急依頼が一件。

 銀河連邦からの、それが面倒の始まりだった――。



 昨夜、銀河標準航路を航行中に突然、計器に特殊信号受信のランプが点る。

 私は艦橋にいた。通信士準一級に上がったことで、当直任務を一人で務めていたのである。


 即座に艦長に一報を入れる。


「サブリナ艦長。特殊信号を受信しました」

「ああ、イリア? こっちでも確認してるわ。あなた、艦橋にいるのね?」

「はい。当直で」

「そう。ならばあなたが対応してみて。銀河連邦からだと思う。第一級特殊任務の緊急依頼だったらそのまま受けていいから」

「えっ、ああぁ、はい! あっ、了解です」


 それから通信メッセージを開き、同時にそれが本当に銀河連邦から発したものか慎重に照合確認をする。

 確認できたら詳細データのダウンロードをしつつ、通信回線を開いて話を聞く。


「こちらアシュリーズです。緊急依頼の信号を受け取りました」

「銀河連邦よりアシュリーズへ。貴艦隊の近傍宙域に置いて、船団同士のトラブルが発生している。本件は第一級特殊任務である。一応、拒否することはできるが、こちらとしてはできるだけ受託してもらいたい」

「こちら、アシュリーズ旗艦スリップです。私は準一級通信士イリア・ベルクール。艦長から第一級特殊任務について受託許可を得ています」

「了解しました。許可承認確認画面を送付します」


 すでに艦長から『アシュリーズ命令許可シーケンスに則り本件の依頼受託を許可する』と言われていたので、送付された許可承認画面を一通り見渡した後、『チェック済み』マークをクリックして返信した。


「確認しました。イリア。あなたをアシュリーズの正式受託担当者と認め、本件についての詳細をお話しします」


 銀河連邦の通信管制担当者から聞いた内容によれば、アークトゥルスにほど近い星系で、二つの船団が諍いを起こしているらしい。


 すでに戦闘が始まっており、このままではどちらかまたは両方に甚大な被害が出てしまう。どちらも有力な組織でそれ相応な戦力を有している。近傍の星系軍ではとても戦闘を止めることなど、できないとのこと。

 銀河連邦はその一報を受け検討した結果、放置できない危険な状況と認め、介入を決定した。


 そこに偶然近くを通りかかったのがアシュリーズというわけである。


 それ以外の情報はあまり役に立たなかった。

 諍いの原因ははっきりとせず、お互いに相手が航路の妨害をしてきたと主張している。



 私はその情報を艦長に連携した。


「おかしいわね。ここで航路を巡って争うことに意味がないもの」

「そうですね。銀河主要航路からは外れてますが、危険なブラックホールもないですし、すれ違うだけなら問題ないはずです」


 惑星上の海路ではないのだ。

 それこそ、特定の衛星軌道を周回する場合以外は船がぶつかる心配などほとんどない。


「何かこの星域に目的のものがあるのかしら? イリア。双方の身元を調べてみて。私も艦橋に入るから」

「はい」


 確認してみると、一方はデネボラ星系近傍の政府の研究視察船団と名乗っており、極端に金属量の少ないアークトゥルスを調査するために来ていると言うことだった。

 もう一方はスピカ星系を中心とする運輸会社で星系を跨いで大量の物資を運んでいる最中であるらしい。


「特におかしいところはないですね」

「表面上はね。まあ、いいわ。とりあえず銀河連邦の戦闘仲裁手順通りに進めてみて」

「了解」


 私は両方の公的確認データを取得し、銀河連邦の戦闘仲裁の方法についての詳細をダウンロードした。

 それによれば、まず最初に両船団に対し、双方の言い分を聞いてから戦闘の中止を呼びかけること。


 中止を受け入れた場合は、銀河連邦の定める一連の航行ログデータを双方から受け取ること。


 それが終わったら、ここからは『アシュリーズが取るべき行動について』の項目を粛々と実行するのみ。


 まず双方から受け取ったデータが確かであるか確認する。

 齟齬があった場合、どちらのデータに間違いがあるのか客観的に判断するために、アシュリーズ自身のログを切り出しておくこと。

 これは後で連邦に提出するためであり、この両軍を視認した時点からで構わない。


 善悪については、のちに銀河連邦が裁くことになるのでアシュリーズが決める必要はない。

 双方が戦闘を止めない場合、またはアシュリーズに反抗してきた場合は発砲を許可するが、最大でも撃沈は不可。無力化に止めること。

 それができず、危険が迫った場合は状況を放棄し、退避して構わない。


 そこまでを確認したところで、サブリナ艦長が第一艦橋に入ってきた。

 深夜帯ではあるが、クルーの大半が起き出して艦橋に来て席についている。

 私の上司である通信士長オーリンズさんも。


「イリア、研究視察船団の方と連絡を取って。オーリンズはスピカの運輸会社の方をお願い」

「「了解」」


 私とオーリンズさんはそれぞれの船団と連絡を取り、私たちアシュリーズが銀河連邦の依頼により仲裁に来たことを伝えた。

 双方とも穏やかな口調ではあったが、相当腹を立てている様子で如何に自分に非がなく、相手の行動が傍若無人であったかを事細かに報告してきた。

 同時に頼みもしないのに、航路ログと通信記録、映像や電磁波、重力波などの時間経過記録なども送りつけてきている。

 驚いたことに、すでに相当物騒な武器を撃ち合っていたようだ。

 今はアシュリーズが来たことで睨み合いになっている。


「サブリナ艦長。一応話を聞きましたが、研究視察団の方は収まりがつかないらしく完全に喧嘩腰です。このままでは、制止を振り切って攻撃を仕掛けかねません」

「私の方も同様です。運輸会社側も即刻相手への厳罰を求めてきています。聞き入れられない場合は、自分たちで制裁を加えると」

「ところで、研究視察団側からデータを送ってきてますがどうしますか?」

「ああ、スピカの運輸会社からも届いています」


 相手はどちらも必死であるらしい。


「わかったわ。イリアのもオーリンズのも、データ解析班に回して……あー、それとイシュタルを解析班のところに行かせて。気になることがあるから。本人に言えばわかる」

「了解しました」


 私はイシュタルに事の次第を報告すると「あー、なるほどねー、もうなんかわかったわー……解析班のところに行ってくる。艦長には『おそらく十分以内に返事できる』って言っておいてー」と言っていた。

 当てがあるのだろう。


 そして、しばらく待つとイシュタルの所見付きのデータ解析結果が返ってきた。

 提出してきたデータは全く当てにならないものだった。

 それぞれの航路履歴・通信履歴・戦闘履歴のいずれもが、相手と食い違っている。

 もちろん、双方とも自軍が正しいことを示すものばかり。

 イシュタルの所見欄を見ると「初歩的なデータ改竄の確証あり。復旧を試みるもほとんど不能。おそらく別航行データを紛れ込ませたものと思われる」と書いてあった。


 それを聞いたサブリナ艦長は「厄介ね」と言ってはいるものの、ニヤッと笑っている。

 なんか怖い!


「ジル、聞いてた!」

「ええ、両方ともフカシこいてる訳よね。銀河連邦の依頼を受けてるアシュリーズ相手に。ここは、どやしつけてやらないといけないと思うんだぁ。一発脅しを入れてもいい? いいわよね!」

「ちょっと待ちなさい。まず周辺の調査からよ。イリア。おそらくペチコートが周辺宙域の重力・次元変調データを取ってると思うから、至急連携してキャミソールに送って」

「いいからいいから、この前キャシーにつけてもらった新装備使ってみたかったのよ〜。ズガンと一発、鼻先をかすめてやるわ〜」


 データを確認せずに新装備で脅しをかけるらしい。

 そこに別の通信が割り込んできた。


「ジル艦長ダメです! あの兵器はこの宙域では直進性が担保できません!!」


 ケリーちゃんの必死な声がイヤモニターに飛び込んでくる。

 二番艦の発砲を止めようとしたみたいだが、一足遅かった。



 キャミソールから光が放たれ、同時に大きな音が響いた。

 なんかヤバい雰囲気!


 チチチチチ……………ンガッ


 もちろん宇宙空間には音なんかしない。

 当然、艦内にこんなイレギュラーな反応が検出されることもないはずだ。

 となると、この艦内に流れたヤバそうな音は特殊な光学兵器の何かが、この船の計器に作用した結果であるらしい。


 光は思ったよりゆっくりと進んでいたが、途中から摩耗しながら枝分かれし減衰しながらも広がっていった。

 それはかなり幾何学的で雷の枝分かれというよりはフラクタル図形のような計算された不自然さを伴っていた。


「あっ!」


 思わず声が出た。

 その一部がスピカの輸送船団の一隻に着弾したのだ。


「どう言うことだ! なぜ、当方の輸送船を攻撃した! 貴艦隊は仲裁のために当宙域に来たと聞いているが、いきなり砲撃を行ったのは何故だ! 現在、被害状況確認中だが損害の大小に関わらず、貴艦隊の振る舞いについては、銀河連邦に断固抗議及び告訴を行う予定である」


 あー、怒ってる。そりゃそうだ。

 仲裁に入るはずの艦隊からいきなり砲撃を受けたんだから。


 でも今の光跡は不自然だった。何があったんだろう?


「イリア! 調査は後! ジャミングを掛けて。ここで研究視察船団の方から余計なことを言われると……」


 ヤバい。

 喧嘩している両軍にお互いの通信が筒抜けになる!


「ざまあみろ。ほらっ、銀河連邦の仲裁船団もそっちのボロ輸送船団が悪いって認めたと言うことだ。早々にお縄に付くんだな!」


 しまったあぁぁぁ! 遅かったかあぁぁ!

 こんな時は調査より前に、争い事の当人同士の通信を遮断することが第一だったのに!


 デボネアの船団から全帯域で、嘲りの通信が発信されてるぅぅぅ!


「アシュリーズならびにスピカの馬鹿者ども! そちらの態度はよーくわかった。当艦隊は航行の安全確保のため、全軍全装備解放を宣言し諸君らを排除する」


 大変だ。今度はアシュリーズ自体を敵認定してきたよ。


 これ、大失態かも。

 しかも、敵の戦力分析によるとかなり強い!

 これは今まで相手してきた連中とは桁違いの大騒動になりそうだ。


 両軍の戦闘が再開。すでに激しい撃ち合いが始まっており、その砲火はウチの艦隊の至近にも。

 このままじゃあうちの艦隊(アシュリーズ)やばいかも。


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