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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 1 銀河の汚点がまた一ページ
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初仕事、がんばります!

 艦長がこの戦闘相手を惑星軍と呼称することにしたようだ。

 すでに衛星軌道にある戦闘用人口衛星は無力化されているのだが、惑星パランスに降下した上陸部隊は凄まじい集中砲火を受けていた。


 そのせいで、整理しなくちゃいけない戦闘データは大幅に減ったはずなんだけど……

 モニター画面には表示し切れない程の様々な計測値が、リアルタイムで更新されていく。

 ダメだあ、何を見てればいいかわからない。

 情報が多すぎるよぉ。


「イリア、大丈夫?」

「あっ、はい。大丈夫です!……問題ありません。オールグリーンです」

「確かにね。味方に被害は出てないわね。でも、あなたは?」

「はいぃ、えーとぉぉ……すいません。テンパっちゃって」


 サブリナ艦長は「こう言う時はねぇ」と言いながら端末のモードを切り替える。

 情報の集約モードだ。でも、これ教科書だと非戦闘時用だって書いてあったんだけど。


「ほら、これなら見やすいでしょう」

「でも、今戦闘中ですよね」

「ウチの場合はスクランブルCまでは非戦闘時扱いで構わないわ。それとスクランブルは解除したから今はB警戒ね」

「わかりました」


 助かった! これならわかりやすい。見るところが三つだけなんだもん。

 しかも宇宙戦闘被害状況はゼロ。ピクリとも数値が動かない。もう地上からの攻撃は宇宙まで届いていないから。

 戦艦からの攻撃はすでに行なっていないので項目自体がブラックアウトしてるし。

 つまり、今見ているのは地上戦闘部隊の被害状況と攻撃火力情報だけ。


「どうやら問題なさそうね。モニターから目を離すわけにはいかないけれど、通信メインで対処してくれればいいわ」

「ありがとうございます…………それにしても、まさか戦争になるとは思いませんでした」

「えっ! 戦争?」

「はい」


 私、何か間違ってる?


 星系政府が全軍をあげて、うちの艦隊と戦ってるんだから戦争だよね。

 そう思って、サブリナ艦長を見上げると「うーん」と唸って首を傾げる。

 隣のピアーさんは両手をあげて処置なし、ってポーズで。

 なんかムカつく!


「あー、確かに戦闘状態ではあるけれど、銀河連邦基準で言うとせいぜい小さい紛争の鎮圧というところ、ね」

「はあ」


 そうなの!?

 惑星の政府が全力戦闘を仕掛けてきても小さな紛争レベルと言ってしまうこの艦隊、って………

 まあ、ここが辺境で兵器レベルが三つ四つ離れているから当然ではあるんだけど。

 ……これだけ火力があったら、私の故郷の艦隊なんか全滅してるだろうなあ。


「一つ覚えておいて。アシュリーズは戦争の片棒は担がない。売られたケンカは買うけれど、ね」

「わかりました! ところで、普通は銀河連邦の正式な通達を蹴って、いきなり戦闘を仕掛けてくるってよくあるんですか?」

「滅多にあることじゃないわ。今回だって敵対してくるとは思わなかった。でも、仕事をしていればこういうことも少なくないわ……ところで、今は上陸部隊が降下中。こう言う時はまず何が大事だと思う? あなたの仕事で考えてみて」

「えーっ、と……なんだろう? 落ち着くこと? うーーん…………あっ、周辺警戒!」

「そうね。だから全員が安全を確保するために持ち場の監視確認がとても重要。つまり……窓の外をのんびりと眺めているアレをどうにかしないと……雑用で悪いんだけど、お願いできるかしら?」

「はい! もちろん!」


 艦長が言っているのはピアーさんの事だ。

 戦闘中だと言うのに自席を離れて第一艦橋の広い窓に張り付いている。


 一級航海士マーカス・ピアー。

 操舵の腕は確かと聞いてはいるけれど、舵を握っているところなんて見たことがない。

 いつもブツブツよくわからないことを言ってる変な人。

 

「宇宙の海は俺の「席に戻って下さい。警戒体制ですよ」」

「いいじゃねーかよ! 降りてった連中が仕事始めるまではどうせヒマなんだしよぉ!」


 ヒマなんかじゃない!

 やることならちゃんとある。


 相手は小規模とは言え第二惑星政府軍。

 地上の戦力は大したことないけれど、いつの間にか主力の強力な艦隊戦力が背後に、なんてことがないとは限らない。


 そんなことが起こらないように、近傍にワープアウトしてくる船の亜空間干渉の有無、強襲してくる高速船がないかモニターで監視、敵軍の通信傍受が私たちのお仕事。

 航海士のピアーさんだって、多重積層航路計算とか艦隊安全予測網の更新とかやることがあるはずなのに。


「見ろ! 人がゴミの「人なんか見えないでしょ」……」


 ここは宇宙のど真ん中。人なんか視認できる範囲にいるはずがない。


「艦長命令ですよ」

「あーー、はいはい。でも、こんなB警戒で緊張してたら身がもたねーぞ」


 そんな事、私だってわかってる。

 すでに軌道上の攻撃衛星の砲門は全て破壊され沈黙している。

 地上からも脅威になりそうな攻撃はないと言って良い。

 だからこそのB警戒。

 艦隊としては最低レベルの警戒体制だ。

 

 最初は派手にミサイル弾を打ち上げようとしてきた。

 今時、ミサイルの実体弾なんか撃ち落とすのは簡単だが、どんな弾頭を積んでいるかわからないから宇宙汚染が起こったりしたら厄介だ。

 だが事前に察知し電子機器に干渉する広域力場を発生させたら、あっという間に全て機能停止。もう1発も撃てないようだ。


 今、敵のメイン攻撃は力場中和障壁に囲まれたスタンドアロンのレーザー砲のみ。

 確かにこのレベルの相手にこの船が落とせるはずはないけれど、問題は制圧のために降下している制圧部隊の小型艇に被害が出ないかどうかだ。


「大丈夫だよ。星に降りてる連中もあんな豆鉄砲なんとも思ってないぜ?」

「レーザー砲を豆鉄砲、って、いつの時代の人ですか?」


 まーた懲りもせずそんなこと言ってる。

 ピアーさんは一級航海士のクセに砲撃手も時々担当している変わり者だ。

 しかも、自動照準自動砲撃が当たり前のこの時代になぜかピアーさんは手動で砲を撃つのだ。

 本人は趣味だとか言っているけど。


「ピアー。新人をからかってないで席に戻って。イリアももういいわ。席について」

「はーい! ほら、艦長に怒られたー。私は先に席に戻りますからねー」


 私は自席に戻り、ようやくピアーも窓から離れる。

 でも、乱暴に椅子をリクライニングさせ、コンソールに足を投げ出して仕事なんかする気はないようだ。


 まあ、実際この戦闘に心配なんかないことは私にもわかる。

 ここは超級戦艦スリップの艦橋。

 その名も轟く最新鋭の宇宙艦隊アシュリーズの旗艦の中なのだから。


 窓の外では、このベガII星系の第二惑星パランスに上陸艇が5隻が大気圏を突破してもう見えない。

 上陸艇から送られてくる船外カメラの映像では地上が直近まで迫っていた。

 降下しているのは上陸艇としては小型らしいけど全長は100m近くあり、一隻あたり300名の上陸兵が乗り込んでいた。


 その小型艇から通信が入る。

 通信士長のオーリンズさんが私の方を見て、合図をする。

 やった! 続けて仕事を任せてもらえるようだ。

 最初の失敗でお役御免かと思ってたよ。

 

 早速、ヘッドセットをつけて交信開始だ。

 地表からの小型艇に向けてレーザーが発射されたが、問題ないと報告が入る。


「敵、地表からレーザー砲発射! エネルギー量は問題ありません」

「OK。回避運動は必要ないわ。そのまま予定地点に向かって」

「わかりました」


 私の役目は上陸艇のテレメトリを読んで状況を艦長に伝えること。

 通信があれば艦長に取り次ぎ、また艦長の指示を小型艇に伝える。

 艦長が艦隊総責任者だから、私の話は横耳で聞いているだけで必要がなければ何も言わない。


 だから本当は私が質問したことに答えてくれるのは特別なことなのだ。

 特に今日は私の初仕事だからだろう。

 私が報告に一々答えてくれる。交信内容から危険がないのは、わかっているはずなのに。

 地上部隊も返信を待たずに作戦を続行しているだろうけれど、私はちゃんと上陸部隊に指示を伝えた。


 サブリナ・ベルトーネ

 旗艦スリップの艦長にして宇宙艦隊アシュリーズ総司令官。


 私の憧れの人だ。

 艦長としての指示は的確、いつでも落ち着いていて所作も綺麗で、いつかあんな女性になりたい思ってる。

 美しい顔とスタイル。着こなしが素敵な大人の女性。

 どうやったら私なんかが近づくことができるだろう。


 なんて考えてたら

 上陸艇からまた通信が入った。


 私が答えようとするのを制して、艦長が自分のヘッドセットを指差した。

 自分で交信するらしい。


「こちら、サブリナ。状況は?」

「戦闘機が出撃してきました。実体弾による攻撃も考えられますがどうしますか?」

「脅威度は?」

「クラスDです。貫通される可能性はほぼゼロです」

「わかったわ。一応、1km以内に近づく実体弾については自動迎撃を」

「了解」


 降下部隊に対し、まばゆいばかりの光学砲が打ち込まれているが、ほとんど当たらない。

 この星の文明レベルだと、レーザーか荷電粒子砲、フォノン・メーザーはないだろう。

 地上からの戦闘機からはミサイル弾が発射されているが、近づく前に自動迎撃システムに撃ち落とされている。

 数は少ないがシステムを掻い潜って当たる軌道の弾もその10m手前で四散する。

 このレベルであれば降下している小型艇の外壁で受けても問題ないが、防御力場が攻撃を無効化している。


「だから言っただろう。問題ねーよ。あーあ、近づきすぎた戦闘機がそのまんま撃ち落とされてる。遠くからタマ撃ってりゃいいものを」

「マーカスさん! 不謹慎ですよ! 今は戦闘中です!」


 自動迎撃された機体は爆発四散している。

 あれでは脱出もできない。


「あれに乗ってる人は亡くなってるんですよねぇ」

「そりゃ、そうだ。この国の文明レベルだとAI戦闘機の質が悪くて使えねぇからな」

「それでも人間よりマシでしょう? なんでわざわざ有人機を使ってるんですか?」

「いや、操縦とか射撃の腕とかそういったことじゃない。乗っ取られちまうんだよ。半端なAIだとな」

「ああ、なるほど」


 この時代の高レベルの戦闘では宇宙戦艦同士の戦いならともかく戦闘機に人が乗ると言うのはあり得ない。

 全てAIによる自動機を使うはず。

 しかも火力がどうしても不足するため攻撃ではなく、撹乱と偵察が主な任務であることがほとんどだ。

 従って、AIのハッキングを恐れて有人戦闘機を出してくる時点で、この政府軍のレベルも押して知るべし。

 と言うより何十機分のAIをいっぺんに乗っ取れてしまうウチの艦隊の電子兵装が凄すぎるのか。


 目の前で人が亡くなっていることにちょっと心が痛むが考えないことにする。

 とりあえず作戦は順調だ、と自分に言い聞かせる。


 感傷に浸ってまた仕事に失敗したら大変だ。

 とは言っても小型艇が着陸するまで少し時間がかか理想だ。

 この間を利用して、この星系の仕事についておさらいしておく。



 第二惑星パランスの政府が、不正を働き始めたのは今から3ヶ月前。


 この星系において人が住める惑星は第二惑星パランス、第三惑星フランカの二つ。

 資源として有用な小惑星帯は第三惑星フランカと第四惑星ゾルアの間にあり、その採掘権利はパランス3割、フランカ7割と取り決められていた。

 フランカは太陽ベガIIから遠くエネルギー資源の確保に問題があった。

 そこで鉱物資源をパランスに売り、対価としてフランカの衛星上にある太陽光プラントから得られる電力を得ていた。


 ところが、第二惑星のパランス政府はそれを不満として小惑星帯を無断で開発し始める。

 おまけに、フランカから派遣されていた坑夫達を強襲し拘束、それから強制労働をさせて鉱物資源をブン取ってしまった。

 わずかにいた守備隊は全滅。

 逆らった坑夫も何人か殺されたらしい。


 銀河連合は惑星フランカからの嘆願を通信で受け取ったものの、たかが一星系のことではあるし正規宇宙軍を派遣するほどではないと考え、民間宇宙ギルドに仕事を依頼した。

 問題はその鉱物資源がかなり特殊で、この星系だけでなく周辺のいくつかの星系まで影響があること。

 愚連隊みたいな宇宙海賊だって、チリも積もればバカにならない。

 ましてやパランス政府みたいな国力しかない星系政府が多いのなら尚の事。


 そこで、オーバースペックであることはわかっていたもののウチの艦隊にお鉢が回ってきた。

 我らが宇宙艦隊アシュリーズ発進、と言うわけです。




 あっ、どうやら小型艇の降下部隊が着陸したらしい。

 無人機が発進し始めてる。

 最初は降下した船の防衛と上陸部隊が進軍するための橋頭堡を築くこと。

 抵抗が弱まってきたら、戦闘を継続しつつも各種惑星のデータ収集。


 ここまで慎重にことを進めているのは、地上という我々宇宙を棲家とする人間にとっては特殊な環境のため。

 一応、軌道上からチェックはしているけれど、どんな問題があるかわからない。


 爆弾は怖くないけど、爆風は怖いのだ。

 空気の影響というのはどうしても疎かになる。


 もちろん、事前に調べてもいるけど、こんな政府から出ている公式資料なんて当てにならない。

 大気の成分解析から細菌調査まで全部やらなきゃならない。

 未知のウイルスで全滅なんて洒落にならないからだ。


 約1時間の調査と防衛戦で上陸の生物的安全性を確保し、星系軍の迎撃システムを沈黙させた。


 そして、わらわらと有人上陸部隊が出てきた。

 目的は政府官邸や都市の機能中枢の制圧だ。

 艦隊の地上部隊は、どんな事態にも対応できる特殊装備を使いこなすとっても凄い人達……ではあるんだけど、私はちょっと苦手。

 ガタイも声も大きいし、何と言ってもあのノリがねー。


 でも、頑張んないとなあ。

 この戦艦(ふね)のこの場所でやっていく、って決めたんだから!


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