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先生と私の恋愛事情  作者: 羽鳥藍那
高校編 - 中
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 二日目は他校との交流試合が午前中に組まれていて、なんやかんやと動き回った事も有ってか、三時を過ぎた今でも昼食を食べる事が出来ていません。さっきやっと他校生を送りだして片づけを済ませ、シャワーも浴びてサッパリしたところです。

 制服を取り出そうとすると、取り置いてもらっている焼きそばがふたつ有る事に気付きました。輪ゴムに挟まれたメモも付いています。


《先生も食べずにいるので連絡してあげてね。 東條》


 焼きそばがふたつ有るのは、一緒に食べろとの意味らしいです。心遣いに感謝しつつも、待たせない様に慌てて身支度を整え、電話を入れるとワン切りされてしまいました。

 もしかして他の先生と一緒に居たのかもと思い至ると、不安が募る間もなく扉がノックされました。

「ここにいるぞ」

 圭祐さんの声に慌てて扉を開けると、ペットボトルのお茶を抱えて独りで立っています。

「その、なんだ。三年生が気を利かせてくれたんで、無下にも出来ずに待たせてもらった。とは言え、ここに二人でいるのも(まず)いので移動しないか?」

「では、敢えて人目の有る所へ行きましょうか」


 そろって生徒達が雑談している教室へ移動すると、やはり視線が集まりますが、気にせずに席に着きます。

「すまなかったな、橘。他校生の送り出しまで手伝ってもらって」

「私も試合運びで聞きたい事も有ったので、そんなに気にしないでください」

「逃げた部長には、埋め合わせをさせるよう言っとくから」

「気付いたらいませんでしたよね」

 そんな会話をしていれば、好奇の目も離れて行きます。事実だけを話しているので、おかしな所も無いはずです。もっとも、そこに隠れている意図は築かない振りですけどね。

 剣道や進学などの、当たりさわりのない話をしながら焼きそばを頬張ります。早く食べ終わってしまった圭祐さんに「クラスの出し物ですけれど」と、昨日の内に別口で焼いておいたクッキーを差し出すと、嬉しそうに食べてくれました。


 程々のところで教室に戻ると、すでに片づけが終わっていて美紀ちゃんが声をかけてきました。

「やっと戻った。販売の方は早い時間で完売したから、先に片付けちゃっいました」

「先生。店の予約が早めなんで、ホームルームは手短にお願いしますよ」

 そばに居た神崎君に要望され、「頑張ってくれたから、チャイムが鳴ったらすぐ移動にするか」と答える圭祐さんは、今回の進めに満足しているようでした。


 打ち上げは、学校とは駅を挟んで反対側に在るお好み焼き屋さんで、宴会用の一部屋に案内されます。八人掛けのテーブルが四つあって、申し合わせたように彼氏彼女がいるテーブルといないテーブルの半々に分かれて座ります。

 私は女子ばかりのテーブルに着き、圭祐さんが目の前に座ります。そう仕向けられたからで、圭祐さんの隣は彩萌ちゃんなので、特に気にしません。

 頼んだ生地が届いて各自で焼き始めるのですが、料理が不得意らしい圭祐さんの分は私が受け取って、当然のように焼き始めます。圭祐さんも黙って任せてくれます。

 手際よく焼いて行くと、感心したような表情を向けて来るので、周りの目もあって少し恥ずかしいです。もっとも、ほとんどの女子は私の気持ちに気付いているので、敢えて私の行動に口を出すことは無いし、どちらかと言えば放置してもらっています。


 斜向かいのテーブルでは翔真君が一人でみんなの分を焼いていて、焼き上がった物を真理佳ちゃんが食べさせているようです。当然ながらひとつの箸を交互に口にしている訳だから、そこのテーブルは真似してみたい的なオーラが出ています。

 特にこの文化祭で急接近したカップルなどはウズウズしているに違いないです。

 そのテーブルには美紀ちゃんが居て、皆を代表するように翔真君からの問いに答えているところに、真理佳ちゃんが「そんなの気にし過ぎじゃない」と答えたものだから、真似し始める子が出始めました。美紀ちゃんも神崎君に食べさせるのかと思ったら、そこまではしない様です。

 そして真理佳ちゃんの目は私に向いていて、『貴女もするのよ!』と訴えかけてきます。


 焼き始める時は半々にしようと思っていたけれど、そこまで御膳立てされたら従うしかないと腹をくくります。

 圭祐さんの分はそのままに、私の分から一口取って黙って口元にもって行きます。

「あのな、橘」

「……」

「わかったよ」

 直ぐに折れて口にしてくれました。初めての経験ですが、ほんわかしますね。

 すると、タイミングを見計らていたように、真理佳ちゃんが声を上げます。

「愛して無い人となんて、出来るわけないじゃん」

 私に向かってしてやったりとウインクをしてきますが、圭祐さんには見えているはずもなく、女子の生暖かい目線に晒されて固まってしまいました。気にしちゃだめですよ、堂々としましょう。

 一回も二回も変わらないのだからと、その後も食べさせたりしていたら、彩萌ちゃん達が「私達のも食べてくれますか?」と一斉に箸を差し出します。

「いや、ちょっとまて。それは無理だから。な、察してくれ」

 からかわれただけなのに、慌てて拒否してしまった事でカップル認定に至ってしまいました。何を察しろと言いたかったのでしょう。恥ずかしい。


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