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入学式には四人そろって行ったのだけど、残念な事にクラスは皆バラバラになってしまいました。もっとも翔真君だけは進学コースなので、三年間同じクラスになる事は無いのですけど。
一般コースは、クラス内で成績の偏りが無いように分けしていると聞いたので、ちょっと意外でした。みんな同じくらいだと思っていたのです。
修学旅行のある二年生では三人共に同じクラスになりたいと思ってしまうのは、贅沢な望みではないと思うのですが、成績次第なのでどうなるでしょう。
井口先生は新任だからか担任クラスは持たずに、二年生の英語を教えるそうです。
剣道一筋に見えたので、てっきり体育の先生だと思っていたので驚いたけれど、塾に居た安西先生との接点がそこだったかもと変に納得してしまった訳です。
女子剣道部の顧問になる事も発表されたので、真っ先に入部届を持って行こうと思います。
今年は井口先生の外にもう一人、若い男性の教諭が入りました。
此方の先生は国語を担当するそうですが、いかにも文学系のすらっと背の高い先生で、女生徒の人気はこちらの先生が圧倒的に見えました。
私的にはライバルが現れない方が良いので、この流れに歓迎です。
放課後に校舎の裏手にある武道場に行くと、大会で顔を合わせていた子など数人の新入生が見学しています。そこに混ざって中を覗き込むと、井口先生が紹介されていました。紹介しているのはかなり年配の先生で、前に言っていた恩師に当たる人なのかもしれないです。
そして、それを聞きいているのは一八名の女子生徒で、これが女子剣道部員の全員だとしたら規模は小さい方でしょうか。向こうで練習している男子部員は四十名ほどいるので、半分くらいなのだから比率的にはおかしくは無いとは思いますが。
見学している子の中から「顔は合格だけど背がねぇ」「私と同じくらいかな」なんて声が聞こえてくるので言い寄る子はいなさそう、かな?
女子剣道部に入部したのは私を含めて十人で、その中に大会で当たった事のある子は七人いて、三人は県外からの入学者だそうです。当然、未経験者は一人もいないです。
入部後すぐ更衣室に個人のロッカーがあたえられて、早めに用具を持ってくるようにと指示されました。
更衣室が綺麗なのは、外部の清掃業者が入っているのかもしれません。
早速、明日にでも防具等を持って来てしまいましょう。
全員の用具が揃うと、皆の実力が見たいと井口先生が言い出して、防具を着けた先生が全ての部員と試合を行う事になりました。いい試合になったのが四名いたけれど、先生の全勝となってしまったのは当然の結果です。
たちまち実力だけは評価されることになったわけです。
もっとも、容姿に関しての評価は低めでした。やはり身長を指摘する声が多いのは、先生には言わないでおきましょう。
しばらくタブレットと睨めっこしていた先生を横目に、三年生の指示に沿って基礎練習が行われましたが、一区切りついた所で先生が集合をかけて、防具を着けるように指示が飛びます。
「結城と橘、試合ってみろ」
そう言われて前に出た二人それぞれに、タブレットを見せながらアドバイスをくれます。二年生の結城先輩にどの様なアドバイスをしたかは解らないですが、私には「迷わず、全力で行け」とだけありました。そうして行なわれた試合は競り合った末に私が勝利し、負けた先輩には改めてアドバイスをしています。
学年の上下関係なく呼ばれるままに試合をして、一巡すると「今の実力順だ」と言って表を見せられます。私の順位は四番目で、上位の三名は二年生が占めていました。学年の中では私がトップです。
「三年生は覇気が無いなぁ。受験を控えているのも分るが、気を入れて行かないと怪我するから気を付ける様に。結城と橘は相手を見過ぎだから、もっと積極的に攻めろ。その他はもっと相手の動きを見て頭を使って攻める様にな。自分なりの攻め方を数パターン組み立てる事を考えて練習していこう」
そこまで言うと素振りを指示し、時間一杯まで細かい癖を指摘して回っていました。
高校の部室には狭いながらもシャワー室があって、中学とは違い汗を流してから帰れるのは助かります。さすがに汗臭い女子高生が電車に乗ってきたら、世の男性たちはさぞ幻滅するでしょうから。
そんな中、毎日の厳しい指導に三年生を含む六人が退部を願い出て、マネージャーとして在籍する事になったのです。三年生にとっては内申に響かない様にとの配慮かも知れません。
それでも、夏休みに入った今では皆が厳しい指導を当たり前のように受け止め、少しでも強くなるために練習にはげんでいます。
新任なりに生徒との信頼関係を作れている先生をすごいと思うけど、たまに上級生からの扱いが友達のそれになるのも、新任ならではかもしれないですね。
二週間に一度は現在の部内順位が発表され、学年や相性の良し悪し関係なく試合をして、お互いに攻め方のアドバイスなんかを交換します。そうする事で相手をよく見る癖が付くのだとか言っていたけれど、私は見過ぎる傾向が有るそうなので、変化の見極めに重点を置くようにしています。
もっともそんな感じだからか、先輩ともかなり気安く話が出来るような雰囲気が出来ていて、特に結城先輩には可愛がられています。お互いの攻め方が似ている事も有って、変化のバリエーションをお互いで研究し合っているのも、仲良くしてもらえる理由の一つなのかもしれないです。




