古沢竜馬という男
古沢竜馬は、中学の頃から様々な運動部に所属し、そして退部を繰り返していた。厳密にいうと繰り返させられていた。
理由はまた別の機会に語ろうと思うが、その特殊な性格ゆえである。――ぶっちゃけ言うと、冒頭としては陰鬱な感じなので後述したい――
まあ、ざっと数えるだけでも剣道部、柔道部、弓道部、空手部、ボクシング部、薙刀部と、およそ武道と呼ばれる部活に入部しては、『特殊な事情』で追い出されていたのである。
そんな彼が今現在何をしているかというと、世にいうオタクへと変貌していた。
決して運動音痴とかではないのだが、高校に入学してもなお典型的な運動部で受け入れられない彼の行き着く先は、結局のところぬるい世界しかなかったのだ。
そんな彼であるが、決して人望がないわけではない。
一般生徒たちからは、ある種英雄的な地位を獲得していた。
断片的にであるなら、彼の行ったことは教師からの暴力に対して暴力で応じたというだけなのだ。
それだけなら怖くて近寄りがたい人であったのだが、行き着いた先がアニメやゲームを好む人種になったせいで「あれ、なんか割とカッコいい人生送ってるんじゃね?」と、妙な親近感を抱かれたのである。
そんな彼が所謂「同好会」の会長になるのは当然のことだった。
「さて、じゃあ後輩たちへの置き土産を買ってくるとするかな」
「ありがとうございます!」
竜馬は今年で卒業する。
そこで彼は、数年の予算の貯金から、部室に常設するパソコンを買ってやると約束していたのだ。
同好会なのに予算が出るのかという疑問が聞こえてきそうだが、これは各個人から少しずつ捻出されて、金庫に貯蔵された資金なので誰からも文句を言われる筋合いはないのである。
そして部室を後にする。
この後、竜馬は後悔することになる。どうしてネットで買ってしまわなかったのかと。
「おい、これまずいんじゃねえか?」
バットを手にした不良たちが、顔を青ざめて後ずさる。
頭部に激痛を感じたまま、青年はなんでこんなことになってしまったのかと思い返す。
ああそうだ、不良どもにカツアゲされそうになって抵抗してたら、業を煮やしたその仲間が思い切りその獲物で俺の頭にたたきつけたんだ。
「大丈夫だって、手加減は知ってるから。それより目的だ。財布とっとこうぜ」
うつぶせに倒れる青年をひっくり返し、上着に手を突っ込む不良の腕を、それでも尚つかむ。
青年は抵抗を試みるも、無情なとどめの一撃にさえぎられる。
「お前、キモイって。おとなしくしときゃ、まだ怪我も軽くすんだろうに……」
意識を完全に失った青年から財布を抜き取った不良は、中から大金を取り出す。
「うお、こいつ20万も持ってるぞ!」
「まじで!? 俺ほしいアクセあったんすよ!」
望外の収入に目を奪われた不良たちには、頭部から血を流す青年はすでに眼中になかった。
リーダーを先頭に離れていく足音たちだけが、竜馬の頭蓋に直接響く。
ああ、こんなとき、アニメや漫画ならどうダイイングメッセージを残すだろう。
うっすらと戻りつつある意識の中で、ふとそんなことを考えるが、彼らの名前も知らない竜馬にとっては全く意味のないことだった。
そして指を動かす体力もなく、彼の人生に幕が下りた。
なんというか、前々から書きたいなと思っていた考案をやっとこさ書き始めました。
構想としては、まんま原哲夫先生の「花の慶次」の前田慶次をイメージしてそのまま異世界に、とか考えてたんですけど、たぶん主人公は少し違う感じになると思います。
仕事が一区切りついて忙しい毎日からおさらばになったのでそこそこの更新速度で執筆しようと思いますが、よかったら付き合ってやってください。