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本と魔法とふたりの私  作者: 但野 ひまわり
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        Ⅲ

 王宮に戻った私たちは、その足でポセイドンさんの所に向かった。デレクという魔神が去った今も目の前の王は相変わらず膝を抱えて玉座に座り、頭を埋めてうじうじとしている。これはトリアイナが戻ったところで立ち直るのには時間が掛かるかも知れない。

『父上』

 ララさんが聖なる矛を差し出すと、ポセイドンさんは何事かと顔を上げた。

『こ、これは!』

『ヨギ、そしてこの旅の方たちが私に力を貸してくれました』

 王は私たち一人一人の顔を眺めると、恐る恐るトリアイナに手を伸ばした。失った物が目の前にある。それが信じられないのか、ポセイドンさんの手は震えていた。そしてその手が聖なる矛に触れた時、

「ふぁあ!」

『ぎえっ!』

 目映い光が辺りを包んだのである。私とワタさんは眩しさのあまり、思わず変な声を発して目を瞑った。光が収まって目を開けると、

「ひえっ!」

 信じられない物が目の前に聳えていたのである。

『旅の者よ。このポセイドン、心から礼を言う』

 それはトリッド族の王、ポセイドンさんの真の姿だった。緩んだ筋肉には張りが戻り、逞しい力瘤がその上に横たわる。威厳溢れる顎髭は割れた腹まで垂れ下がり、虚ろ気だった瞳には覇気が漲っていた。更に驚くべきことに、私の二倍ほどだった身長が、遥か見上げるほど巨大になっていたのである。

『我が娘ララの力になるだけでなく、この湖の危機を救ってくれた』

「い、いえ、私はただ……」

『父が本来の姿を取り戻せたの。こんな嬉しいことないわ』

 ララさんがそう言って顔を綻ばせる。

『僕からもお礼を言わせて下さい。デレクとその子分たちも、元の可愛い魚たちに戻りました。そして何より湖が蘇りました。本当にありがとう』

 ヨギさんも嬉しそうにそう言ってくれる。私は自分の力が果たして役に立ったのか自信がなかったが、人の助けになれたのであれば、それは素直に嬉しかった。

『君たちに褒美を与えよう。何か望む物はないか』

 ポセイドンさんの言葉に、私はまたもや忘れていた大事なことを思い出した。

「私、魔法の種を探しているんです。知りませんか?」

 王はしばらく考え込んだ後、視線を娘に送る。ララさんが首を横に振ると、彼女と目が合ったヨギさんも首を振っていた。

『旅の者よ。すまない。私たちの世界には無い物のようだ』

「そうですか……」

 ジャンバラヤで肩透かしを食らった分、ここには何か手掛かりがあるかも知れないと思ったが、空振りに終わってしまった。がっくり肩を落とす私を不憫に思ったのか、ポセイドンさんは何かを取り出し私の前に差し出した。それは座布団のようなポセイドンさんの手のひらの中で、小さくくすんだ体を横たわらせていた。

「これは?」

『トリッド族に伝わる石板だ』

「えっ。こんな物、貰っちゃっていいんですか?」

 それは私の手のひらサイズの大きさで、灰の色をした二枚の石板が上下に繋がって出来ているようだった。

『君たちの功績を考えれば、惜しむことも無い』

 そして王は手のひらを私の頭上に広げた。すると一瞬光が私を包み、水着だった私は、元の臙脂色のジャージとスニーカー姿に変わっていた。それも、身に付けるどれもが新品のようである。

 私が石板と新調してくれた服と靴のお礼を改めて伝えると、ララさん、ヨギさんが相次いで別れの握手を求めて来た。落としてならないと思い、私は慌てて石板をジャージのポケットにしまった。

『本当にありがとう。また、いつでも遊びに来てね』

 本当は父親想いの優しいララさん。湖を守るため危険を恐れず魔神に立ち向かう姿は私に勇気をくれた。

『はっさん、はっさんたちのことは、絶対に忘れませんから』

 そんな彼女を支えるヨギさん。本来の話ではララさんが人間との恋に憧れているそうだが、密かに想いを寄せる彼の恋が実るよう願わずにはいられない。

『三人の旅人よ、前へ』

 私たちが一歩歩み出ると、湖の王はその大きな手のひらを再び差し出した。そこからぽわんと玉が現れ、私たち三人を包んだ。シャボン玉のようなそれは、手で触れてみると柔らかく、押しても破れることはなかった。

『旅の者よ、湖上まではこのポセイドンが創りし【キュリア】が送って行く』

 王が右手を掲げると、玉は地面から浮かび上がり、彼らに別れを告げるように後ろへと動き出した。

『はっさん、お元気で!』

『さようなら!』

「さようっ!」

 私が別れの言葉を言い終える前に、玉は急にスピードを上げ始めた。おかげで私は前につんのめってしまった。玉は、ジェットコースターのように速度を上げて、ぐんぐん進んで行く。右に左にと動きながら進むせいで、私たちは玉の中で転がっていた。

 やがて湖の岬に辿り着くと、玉はそのまま透明の壁を突き破り、勢いよく湖中へと飛び出した。蘇った湖の素晴らしさをこの目で確かめたかったが、玉は速度を緩めることなく突き進み、飛沫と共に私たちを湖上へと放り投げた。その途端、玉がふっと消える。これでは、またもやびしょぬれじゃないか、という心配をする間もなく、私たちは弧を描くように向こう岸まで飛んで行った。


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