このままで済むとは思えない 02
拓人がようやく身体を起こせる状態になってから、スーちゃんは脇の大きな段ボール箱を指さした。
「あれが?」拓人は眉を寄せている。
「紙がものスゲー溜まってる……ゴミみたいにみえるけど何か?」
「裏表使えねえ雑紙、あれに棄てるらしい」更に解せない表情の拓人にスティーヴンイラついたようにことばを足した。
「オレだってな、一応今回の件は自分なりに調べてみたんだよ、タコ。第一オメエなんぞ、印刷室なんて自分の人生に一度も関わりがあるなんて思ったことねえだろう」拓人まったく、ぐうの音もでません。その通り。
「事務室や職員室でも印刷はできっけど、人目が多い。用務員室と校長室にはプリンターがねえ、とすると学校内にいるヘンプロの連中が何らかの文書作るのは印刷室に限られるんじゃねえか……ってな」
すげえ、スーちゃん案外頭いいんだな、との褒め言葉にも素手ハリセン返し。
「もちろんちゃんとした文書はファイリングしてどこかにしまってあるだろうからな、ダメ元でここ覗いてみたんだ、そんで拾った、この底の方からよ」
スーちゃん、ヨレヨレになった一枚の用紙を彼の前にかざしてみせる。
「ここ読んでみろ」拓人は伸びあがって一応顔を近づけたものの、すぐに弱りきった目で一歩下がる。
「それ何か値段が並んでんじゃん。サ、ポータ? 何それ、そんな暗号をオレに見せんなよ」
「ばかそれオモテ面だ。スポーツ用品売り出しのチラシ裏に試し刷りしてやがったぜヤツら」
「え? 裏か……ますます読めねえ」
スーちゃん爽やかに笑った。
「そっか、読めないんだったな、読んでやろうか? オレ、ハーフで半分しか分かんねえけどよ」
「くそったれ」そう呟きつつも拓人は腕を組んで聞く姿勢。
「聞いてやってもいい、さっさと読んでみろよ佐塚くん」
スーちゃんは鼻を鳴らしたが、自分の優位性には変わりがないので特にキゲンも損ねずに先を続けた。
「ここ、冒頭に」皺だらけの紙を伸ばしながら、かすれた文字列を拡げて見せる。
『も ら団第4支 活 止のお らせ』
先日ものから団事務局から受け取ったやつだった。
「なんでものから団の文書がゴミ箱にあったか? 解るか、リーダーさんよ」
「それは」
拓人、目をつぶってじっと腕を組む。目から入るモシャモシャの情報をカットして、あえて暗闇で考えをまとめようという殊勝な心がけ。しかし
薄々感づいてはいた。かなり前から。
そう呟くと、スーちゃんは切れ長の三白眼を思い切り見開いた。
「知ってた? 前から?」
毒気も抜けている。しかしすぐ凶暴さを取り戻し、拓人の首に手をかけた。
「だったら何ですぐ仲間に相談しねえぇぇぇ」
「じ、じっでだっでワゲじゃねえ、は、はなせ」ジタバタしながら、どうにか鋼鉄の首かせを外す。
「いくつか気になることはあった。地下基地とか、ヘンプロの改造室にパーツ転がってたのが、アンドロイドの部品かな、とか……あの『匂い』とか」
「匂い?」
「ヘンゲするとき、何か臭えだろ。煙っぽいのとミカンの花みたいな」
「あんま分かんねえな、チクノーだし」
「……どーでもいいよ、そんなこた。でさ、アンドロイド煮融ける時、臭っせえだろ」
「だからどうした」
「あの匂いがかなり薄くなった時、同じ香りがするんだ……」
なわけねーだろ、と突っ込むかと思ったが、スーちゃんも急に黙り込んだ。
珍しく、真剣な声だ。
「確かに、オマエのことばっかりも責められねえ……オレたちだってその辺をもっと突っ込んでみるべきだったんかも知んねえ」
あの時、ツヅキの吐いた捨て台詞も気にはなっていた、とスーちゃん。
「金でおびき出されてさ、あかねが助けに来た時……」
「ああ」
―― ぼくにはまだ終わってないからな
それにオマエらだって終われると思ったら大間違いだ。
いつの間にか、校舎の影が長くのびていた。




