ヘンゲ観賞会
はいピンボーじゅんに整列ねー
「面白い、これは面白い」
シャンペンのグラスを片手に、殿下はもったいをつけて大股で歩きまわる。
「あっという間に、ここまでの成果が上がるとは」
腹心の部下、Aマイナーもジャージ姿のまま(ジョギング中に召集をかけられた)、戸口のあたりに控えめに立っている。
殿下は、グラスを脇のテーブルに置いて、まずは一番近くに『ある』作品のすぐ脇に立った。
よくできた彫像だった。
膝くらいの高さにしつらえた黒いマーブルの台座、全面には控えめに金のプレート、そしてそこに黒い流れるような字体でこうあった。
『作品№1 Densuke Yosioka - Wakakusa』
端正で涼しげな目もとに少しやましげな(悩ましげな、ではない)色を浮かべてかがみこみ、右手を前にのばして地面に手を触れようとしているその刹那、永遠の時に閉じ込められてしまった吉岡伝助のすがた、それはもはや、ヒトではなくてひとつの芸術作品ともいえた。
殿下はその場にかがみこむようにして、彼のこちらに少しだけひねった白い頬に、そっと手を触れた。
「……美しい」
そしてその手をそのまま、やや開きかけた淡い色の唇にまで這わせる。
そのまま放っておくと次に何をしでかすか分からないと判断し、Aマイナー、げふげふと急に耳触りな咳を放つ。
殿下は少しイヤそうな顔をして、それでも手を離した。
殿下は次の作品に近寄る。
もう二体もちゃんと台座に据えられている。
『作品№2 Satsuka Stephen Takahide - Asagi』
『作品№3 Takuto Ikushima - Syoubi』
スティーヴン佐塚は、片手を腰にあて、一歩大きく前に踏み出して勢いよく横からすくい取ろうとしたようで、かなりダイナミックな作品に仕上がっている。
バレーダンサーのようなしなやかなフォームだった。
一方、生嶋拓人の方はもしこれに制作者があるとしたら台座に据えるのにかなりの工夫が必要だったろう。
なんせ、身体はほとんど宙に舞い、地についているのは右手の人差指だけなのだから。
「……コンプリートまで、あと二体ですね」
殿下はAマイナーにふり向いた。
「いつまでには揃うのですか?」
「そんな……」
部下・Aマイナーは当惑したように眉根を寄せた。
「相手はナマモノですからね。織部は二人いるんで、なかなか捕捉されにくいらしいですし、山本は金持ちで欲がないですから、元々この計画向きではないような」
「では、この三体を囮にしておびき寄せればよいでしょう」
殿下、置いたグラスをまた持ち上げ、軽く口をつける。
「早く揃えてみたいものだ、頼みますね」
「はあ」
Aマイナーはそう答えながらも、珍しく厳しい顔を崩さなかった。




