みすずセンセをつきとばせ! また 02
「サッくん!!」
みすずが叫ぶ、そのとたん、サイレンのように近づく叫び。
「ぁぁぁぁぁぁああああんだぁぁぁああああっっっ???」
まるでシャツの端を掴まれて無理やり引きずられて来たように、全速力×100倍(当シリーズ比、すんませんもう止めます)のスティーヴンが、みすずの背後、開いている窓から飛び込んできた。二階なのに。
庭にいたはずのボルゾイ、ハチと名付けられたヤツがスティーヴンの向こうずねにガッチリと噛みついて一緒に部屋に飛び込んできた。二階なのに。
「きゃああああっっっっ」「いててててて」「がるるぅぅぅぅぅっっ」突然飛び込んだスティーヴン、はずみでみすずを突き飛ばす。
手から変化章とピヨラーが飛んだ。それをサクは空中でキャッチ、スーちゃんの腕をつかみ、今彼が入ってきた窓に足をかけ
「ごめん!」
床にうつ伏せに倒れたままのみすずをしり目に、そのまま変化。ちょうど変化完了したアサギの腕を掴んだまま、勢いで窓の外に飛び出した。
「あんだよっ」
木から木へ、電柱から電柱へ人々の目に映らぬほどの速さで飛び移り、家から全速力で遠ざかりながらウコンは前を見ながら早口で告げる。
「とにかく、離れて、うちから」
「ものからはどこだ」
「あとで説明する」
「あの犬は何だ! オメエんち、庭に放し飼いかヨあやうく食い殺される……」
「いいから走る!」
いつもとキャラが違う……アサギは軽く眉を上げたが、それでも黙って彼について、日曜の昼下がり、無駄に街を疾走したのであった。
結局他の変化にはバレずに、二人は町はずれでようやく解散した。
サクが家に帰りついた時には、束の間の休日は終わろうとしていた。
みすずは、まだ部屋にいた。いつものようにネイルを手入れしているわけではなく、ひとり、じっと座ったまま待っていた。
サクの顔をみるなり、ほっとしたようににこっと笑う。ようやくいつものみすずの顔になった。
「ごめんなさい」
サク、次に何と言葉をつなごうか天井をみる。みすずの事だから、母に相談してしまったかも知れない。今日は休日当番医になっているので、母も父も夜遅くまで自宅には戻らないだろうが、すぐ脇の医院に行ってとりあえず話をしてくるのは簡単だ。
みすずの顔をみる。あまりにも自分が情けない顔をしていたのか、みすずがまた、可笑しそうにくすっと笑う。そして、先にこう言った。
「別に誰にも言うつもりはないよ」
「え……」
「仲間もいるんだ?」
仕方なく、サクはうなずいた。「うん」顔を上げて「でも別に誰にも」
「危険なこと、しないでよ。命にかかわるようなことは。……でもそう言っても」
みすずが椅子から立ち上がり、彼の前に近づく。
「サッくんだって、いつまでも幼稚園の子どもじゃないんだから」
優しく、彼の手をとった。
「自分の思った通り、やるしかないっしょ」
サクの手を、小学生みたいにぶんぶんと振る。「ね、朔太郎くん」
「……ありがとう」
「その代わり見返りはきっちりいただくから」悪戯っぽくそう言って離れたみすず、また椅子に座って足を組む。
「何を?」見返り、ときたか。まるであかねちゃんだ、サクはドキドキしながら続きを待つ。
「おばさまに、クビにされそうなの」みすず、眉間に軽く皺を寄せた。
「確かに、アタシじゃあ全然サッくんのレベルに合うワケはない。でも、成績が下がってきたのって、いくらいい家庭教師がついても解決しない問題じゃあ、ないのかな?」
さすが従姉妹。よく分かっている。
「それにね……」また、悪戯っぽい目に戻る。
「この近所にカレシできたんだ、ちょうど便利だし」
ソレナリ商店街で、おうちはお店やってんだけど、公務員の人なんだ。でね、何とアタシより10、いえ11コ上かな。すごいでしょ。弟さんがいるみたい、会ったことないけどね、だっておうちにもまだ一度しか行ったことないし。
何となくかるく頬を撫でる秋風のような寂しさを覚えていたサク、次の一言にぶっ、と噴く。
「ヨシオカさん、ていうの。かっこいいんだよぉーー。英語もペラペラだって言うしね、知的でクールなんだけどさ……アタシのこと、『ミジュ』って呼ぶんだぁ」
もしかして、その兄語る所の「フデキな弟」には心当たりがあるやも知れぬ。
と、サクはまた一つ、余計な秘め事を抱えてしまったのであった。




