健全な憎まれっ子に健全な精神? 01
その日のウコンは、少しヘンだった。
「みんな、太刀を!」バラ変化が呼ばわった時、まずアサギが、ワカクサが、、そしてサクラが間髪入れず背中の太刀を抜き放った。刀は大きく弧を描いて次々とバラの手に収まり、光り輝くひと振りの刃に……
と、ワカクサが気づいて叫んだ。
「ウッちゃん、はよ刀抜いて」
ウコン変化、その声に少しもあわてた様子はない。悠々と背中に手を伸ばすと刀の柄に手をかけ、そしてそのまま身体を横にひねるようにしてその場にばったり仰向けに倒れた。
「ウッちゃん!」
と同時にアンドロイド『チャッキリー(静岡限定版)』はデカい鋏振りかざし、バラ変化に襲いかかる。
「だ、誰かソイツの刀抜いてくれ~」
「あかん」ワカクサ、必死になってウコンの体の下から刀を抜こうとする。
「しっかと敷きはって」
「いったん、変化を解け」アサギの声にワカクサ、ウコンの襟をあわてて探り、ようやく変化章を探しあてた。
しゅっという音と共に、オリジナルな朔太郎が登場。なんとパジャマのままだった。しかも、白地に黒いブチのモーモーつなぎ。
「かぁいー」敵に、手裏剣を投げつけながらも、サクラ変化しっかり見てる。
「サクちゃん、サクちゃん、だいじょうぶ?」ワカクサ、揺り動かしてみると朔太郎弱々しい声で
「ライス、大盛りで」
なんだか、幸せイッパイの夢みてるらしい。でも額に触ってみると、すごい熱だ。
「バラちゃん、サクちゃんビョーキよ」
「くっそー」体を持ち上げておいてからまた変化させて太刀だけ抜くのはカンタンだが、ウコンの分のパワーはあてにできない。四人だけでは、破魔の刃はほとんど効果がない。魔を斬り裂くどころか、菜っ葉も刻めるかどうかってトコロ。
変化がひとり減ったせいか、残りの動きが急に鈍った。
アンドロイドは、変化の輪の緩んだのを瞬時にみてとると、突然矛先を倒れている朔太郎に向けた。
「伍人衆、破れたりいっ」アンドロイド『チャッキリー』の研ぎ澄まされた大鋏が、まっすぐ朔太郎の胸を白黒ブチ模様通りに切り裂こうとした瞬間、
「させるかぁっ」バラ変化、十ヤードのディフェンス・ジャンプ。
がぃん、鋏の柄が、したたかバラ変化の頭を打った。はずみでアイマスクが吹っ飛び、バラ、朔太郎の脇に思いっきり叩きつけられた。
「うぁ、なんだこりゃ」意識が混迷したまま、サク、飛んできたバラ変化をみてる。が、やっとで顔をあげた彼とまっすぐ目が合い、その時自分が何をしていたかを思い出した。
「あ、ボク……」起き上がろうとしたのを、バラやさしく「いや」片手で押しとどめ
「とりあえず、一回変化して、刀ちょーだい。パワーは送れるだけくれればいーから、いい?」
「うん」その声でがばっと立ち上がる。
「この世の闇を斬り裂く、破魔の刃、受けてみよ!」
声と同時に朔太郎、変化して太刀を抜いた。パワーも、多分送った。
指の先から青白い光がほとばしり、刀に乗り移った自分の思念が敵に躍りかかっていくのを、どこかで感じたような気がする。そして敵がギョーサンな叫びをあげて倒れたのも、何となく分かった。
そこから全然記憶がなかった。なんといっても、この歳になってハシカに罹って、しかも同時に風邪をこじらせ、その後も一週間以上寝たきりだったのだから。
だからその時、拓人が大ケガしてたのなんて、後になるまで全然知らなかった。
拓人、もう三日以上も学校を休んでいる。
土曜日になって、やっとスーちゃん、手土産持って見舞いに行くことにした。
「ま、」歩きながら思った。
「死んでりゃ、オレの悩みがひとつ減るだけだが」そして少し歩いて立ち止まり
「……第一発見者にゃ、なりたかねえな」やっぱり引き返そうとしたが、
「ま、いーか」それはそれで人生のスパイス、と思い直してまた先へ向かった。
ぴんぽーん
スーちゃん、ドアの前でしばし、待つ。
やがて、がちゃがちゃ、いんぐりもんぐりとロックを外す音がして、やや細めにドアが開いた。
「オレだ」
「ああ」チェーンが外された。
「入れよ」
拓人、頭に氷枕あてたまま、彼を中に招き入れた。
スーちゃん、ちらと彼の顔をみた。
頭をひどく打ったせいもあるだろうが、なんとも冴えない顔してる。右眉の端から髪の生え際にかけていまだ乾いていないような生々しい傷がみえた。
それにしても、いつもの元気はどこへ行ったやら。元気がない時でも、普段拓人の目の中にはなんらかの輝きがあった。内で燃えている炎がちらっとのぞくような。
しかし、今やその光はすっかり影をひそめている。スーちゃん、ここまで「フツーの」拓人を見たことがなかったものだからふと、「ダイジョーブか」と声をかけたい衝動にかられた、が止めといた。
大丈夫じゃなかったら、まずドアも開けないだろう。替わりにこう言った。
「よし、有り金全部出せ」
「へ」
「カネないんなら、コーヒーくらい出せよ」
「ちぇ」
それでも拓人、素直にお湯を沸かしにいく。
「にしても」スーちゃん、ポケットからセブンスターを取り出して、火をつけた。
「きったねーな、少しは片付ければ?」
「ああ」戻ってきた拓人、返事がうわの空。
原因は、だいたい分かっていた。だが、あえてスティーヴンからその話題は持ち出さないことにした。
彼は一服つけると、「あー」満足そうに煙を吐いて
「灰皿、ねえのかな」
ノロノロとコーヒーを淹れてから、拓人、テーブルを指さした。
白いケーキ皿がひとつ、あるっきり。スーちゃん、拓人みて、皿みて、また拓人みて、
「オレはな、食うモンとタバコの灰はイッショにしねえ主義なんだ」
拓人、ちょいと間をおいてから
「まあ、座れよ」力なく、テーブルを指した。
スーちゃんが腰を下ろすと、彼も二人分のコーヒーを持って斜め隣に座る。
ただ、何ということなく、スーちゃんがプカプカふかしているのを横で眺めているだけ。
仕方なく、スーちゃん立ち上がって、近くのゴミ箱からコーラの缶を拾ってきた。
長く伸びた煙草の灰を、器用にその中に落とし込む。
「おい、灰皿くらい買っとけ」
神経質そうに、缶を揺すってみる。
「オレさ」
ようやく、拓人が口をきった。
「ダメなんだよ」
スーちゃん、黙って次の言葉を待つ。
「なんだかさ、体中の力、抜けちまったみたいで」
「頭打ったからじゃねーのか」
「いや」また、黙りこんでしまった彼に、スーちゃん
「砂糖ねえのかよ」
「あ、ああ」少し考えて拓人「ない」
「ちっ」スーちゃん、口の中でビンボーニンめ、とつぶやいてそのままカップを傾け、ぐいっと一口飲ってから、こう言った。
「オマエ、辛気臭く考えすぎなんだよ。オレらをさんざ巻き込んどいて、今さらタイヘンもないことだって、オタオタしてやがる。どうだ、違うか」
拓人、スティーヴンの顔をまじまじと見つめた。




