げいぢつフィルム観賞会 02
サク、カウンターでしばらくモジモジしていたが、ようやく学生証を出した。
ビデオ屋のオヤジはちらりとそれを検め
「会員証ね、すぐできっから」愛想もない口調。サク、あきらめてさっさと帰ろうかとも思ったが、驚いたことに急にオヤジが身を乗り出してきた。
「アンタ、あれ、うちの小僧もここの二回生なんだよ、知ってっかい? ハギワラつうんだけど、キミ、学部は?」
「えと」学生証をちらりとみて「リコーガクブ、です」
「いや、奇遇だねえうちのもそうなんだよ、トオルっつうんだけどよ」
「まあ、人数も多いですからねえ」何も知らないのに勝手なコト言ってる。
「でもよ」スーちゃんが(じつはかなり)残念そうに口をはさんだ。
「結局、何にも借りられなかったんだな、オマエ」
ところがサク
「いや、そしたらさ」オヤジから持ちかけてきたのだと言う。
「キミさ、せっかくうちに寄ってくれたんだから、面白いモン見たいだろ?」
そうして案内されたのが『フランソワの部屋』だった。
「どひょー」みなさん、それしか声が出ない。
「でさ、会員証もすぐ作ってくれたんだけど、とりあえず何本でもいいから持って行きな、どうせトオルんのも混じってるし、って」そこでみんな初めて、サクがドアのすぐ手前まで運んできた段ボール箱に気がついた。
「どれがお勧めですか、って聞いたらコンナにさ、それに」
朔太郎、その下からもう一つ箱を引っぱり出した。何と真新しいビデオデッキが入っている。
「タクちゃんち、デッキないんじやなかったっけ? 聞いたら貸してくれたよ」
そうだった、拓人、壮大な計画に頭がいっぱいで、デッキのことまで頭が回らなかった。
「オレってばかー」
「今ごろ気づいたの」さらりと言うスーちゃんも、すでにビデオの選定に取りかかっている。
「サクぅ」感動で声を詰まらせつつ拓人、朔太郎の肩を抱き寄せる。そうしておいて、にやぁ、と満面に笑みを浮かべた。
「オヌシも、ワルよのう」
ビデオデッキをどうにか接続し、一本目をセット、ご丁寧に窓まで閉めきっていざ、芸術フィルム観賞会の始まり始まり~
ぷち、スイッチを入れ、真っ暗な画面にまず、砂の嵐。そして淡い水色の地にトラッキングの粗いノイズが何本か上下してから、ようやく画面が黒く落ち着いた。
タイトルは『悶えて縛る』。NHKの国内ルポルタージュ番組のようなタイトルだが、スーちゃん、このテープを手にした瞬間
(これはいける)直感的にキタのだ。
タイトルが消えた。そして
「ごく」
その瞬間、「ぐわぁぁぁぁっ」拓人が立ち上がる。
「どうした」
「来たっ」そのとたん、他の三人も
「うわあっ」電極にあてられたように飛びあがった。強烈な『気配』だ。
「っそー、どこだあ」ビデオを急いで停めて、拓人らは面に飛び出す。
「もーなんてコト」デンちゃん、走りながら隣のスーちゃんをちら見した。
何かひとり言、しかも英語でつぶやいている。デンちゃんぎょっとなって半歩ほど飛び離れた。彼はハーフだとは知っていたが、実際英語で話すところを聞いたのは初めてだった。
しかも、何かを呪う口調。一本調子なその内容は、こう聞きとれた。
「オレは忘れんぞ、この日のコトを、ずぇーったいに……」
「はいけんざん」
バラ、アサギ、ウコン、ワカクサの四変化、もう大急ぎそして大雑把。
「おいおい早く、そっちのヤツら」
「蹴れ、けっちまえ」
「カタナ、いいよカタナつかって」
事情を知らないサクラ変化、一人、オタオタしている。
「どうしたの、みんな」
「いーから」いつもは比較的おっとりしているワカクサも
「ほら、サッちゃん行ったわよー、はいっパンチ、はい次」
リズムに乗せて、次々と刷けさせようとしている。
「ヘンなの」すっかり乗せられてポカスカと手下をやっつけながら、サクラ、まだ不審そうに眉をよせている。
「ねえ」たまたま近くに来たウコンの袖を捕え、小声で
「どうしたの、みんな」と聞くと
「うう」ウコン、口ごもった。そこに
「じゃ、じゃーん」本日のアンドロイド『なんちゃらかんちゃら』登場。
「ほら出たでた」
「でたよー」
いつもだったら胸のインデックスシールの名前を真面目に読んでやって
「出たなナンチャラカンチャラよ、伍人衆が成敗してくれる」とか
「ホンジャラカンジャラめ、悪にまみれたその胸に、正義の刃受けてみよ」
などと少しは気のきいたことも言ってやってまともに渡り合うものなのに、きょうのコイツら、まず敵の名前も確認してない。通りすがりの自販機か何かのように軽くあしらっている。
だから今日は便宜上『なんちゃらかんちゃら』と呼ばせていただきます、筆者の怠慢ではありませんので、あしからず。
とにかく、ソイツはかなりキゲン悪そう。
「そんなにバカにすんなら、帰るけど」
「ほんとっ?」バラの目が輝いた。
「なによー」サクラ、刀を抜きかけていたのを
「やっつけなくても、いいの?」
今日のサクラはちなみにユキちゃんです。このコは、イヤがってやっているワリには根がまぢめなものだから、いったん戦いとなると、なかなか積極的。
「やるコトはちゃんと……」
「いーのいーの」バラなんて、もう刀を収めてしまった。
「じゃ、みんな、帰るぞー」サクラが驚いたことに、後の三人もさっさと引き上げようとしている。
「ねえどうしたの」更に問い詰めようとするサクラに
「……なんてったってまだ23本も」いいかけたバラ、はっと気づき咳払いしてから
「ほんじゃ」と『なんちゃら』にふり向いて手を上げた、がしかし
「帰るワケないだろおぉぉぉぉぉっ」やはりワルモノの意地か? ソイツはがばっと襲いかかってきた。「わっ」
それでも少しは慣れてきていたのか、バラ、流れるような動作で背中の太刀を引き抜き、襲いかかる『なんち』を(だんだん短くなってるって? 気のせいだと思う)ズバっと袈裟がけに断ち割った。
「ぐわぁぁぁぁぁっ」切られ損なのは『なん』。ばちばちばち、激しく火花を散らしつつ、派手にあちこちを這いまわってから(少し出番が少なすぎると本能的に感じたらしい)、ようやく、こと切れた。
「ふう」その様子を見守っていたサクラが
「で、23本て、なに?」
そうふり向いた時には、すでに変化衆の姿は影もかたちもなかったのでありました。
(プチ続く)
※ 『悶えて縛る』の詳細について御知りになりたい方は、必ず20歳以上であるという年齢証明をご用意の上、筆者までご連絡をお願いいたします。嘘です。




