げいぢつフィルム観賞会 01
芸術の秋である。
「げいぢつの、あきである」
突然の拓人の宣言に、彼ら、ぽかんとした顔で次の言葉を待つ。
ミーティング終了後、あかねはいそいそと帰っていった(おおかた、またカネオカとかいう新聞部の元先輩のおごりだろう)。残ったヤローどもが何となくウダこいている、そんなタイギな昼下がり。
「で」
スーちゃん、クソ面白くもなさそう。第一、この男ほど芸術の二文字が似合わないヤツはいない。
「オレたちさあ、ダメなんだよこんなトコロでウダウダしてちゃ」
「どうしたん、タクちゃん」熱をはかりに額に手を伸ばすデンちゃんにも構わず、拓人は続ける。
「サク、オレたちに必要なものは、何だ?」
「う」急にそう言われても困る、という顔のサク。それにも構わず拓人は叫んだ。
「オレたちに必要なのは、文芸のカホリだあぁ」
マジで、おかしくなったのかも知れない。そう言えば今年の夏は例年になく暑かった……誰しもが胸にちらりとその思いを抱いた時
「じゃらり~ん」
拓人が取りだしたは一枚のチラシ。
新装オープン ビデオレンタル フランソワ
「何それ」
「ふらんそわ」みんなして、プーっと噴き出した。
「そ、その名前は反則やん」
「ラブホテルちゃうんか」
サクでさえ、どこかツボにはまったらしく腹を抱えて伏せっている。
「まあまあ、それがだな」急に拓人はシリアスな表情に。
「いろんなビデオ置いてあるらしいんだけどよ、カウンターで特別に頼むと、その、何だなんつうか、すげーのイッパイ出てくるらしいのよ」
とてもシリアスな顔で語る内容ではない。しかしみな真剣に聞いている。
デンちゃん、はっと気がついた。
「それウチも聞いたわ、そうそう。確か成人だって言う証明書を見せて、カウンターで一言『フランソワの部屋お願いします』っていうとすぐさま二階の……」
「デン」呆れた口調のタク。
「何だ、知ってんじゃん」で、急に下卑た笑いを浮かべ
「伝助ドノも、ワ・ル・よ・のおぉ」
「げへっ、げへっ」
急に真顔に戻るデン。
「でも内容は知りません」
スーちゃん、つくづく情けないといった様子で二人を見比べた。
「なあにがゲイジュツだ、フランソワだ、タコ。それに身分証明だろ? オレたちゃ入れねえってこっちゃねえか」
「そこでだ」拓人、改めてデンちゃんのほうを向いた。
「デン、オマエんちニイチャンいるんだろ?」
「ええええ」デン、思いっきり顔をしかめる。
「免許証とかチョロっと持ち出してさ、オマエが変装して……」
「13もトシ違うんよ」以前一度伝助のアニキに会ったスーちゃんも加勢。
「それに全然似てねえよ、なあ」
「ちぇ」拓人、今度はスーちゃんを見る。
「スーちゃん、誰か心当たりいねえのかよー」
「オメエが行けば」スーちゃん、あっさりと言ってくれる。
「オメエが言いだしたんだから、上手いコト考えれば?」
「スーちゃんだって見たいだろ?」スティーヴンはふん、と鼻をならした。
「オレはそんなビデオ無くても、別にオンナには困ってねえからな」
「まあ確かに……」デン、あごに人差し指と親指を直角に当てて、ふむ、と拓人を一瞥し
「タクちゃんは、ダメね。チューボーと間違えられるわ」
「なんだよ、オマエこそオンナと間違われたじゃんか」
デン、痛いトコロ衝かれてうっ、と詰まる。この前、町なかで赤いユーノスに
「ねえ、カノジョぉ」
と、声をかけられたのだそうだ。しかもあろうことか
「なんですぅ?」と、車に乗り込んでしまったのだそうな。
「だって、カッコよかったんですもの。ヨコハマのヒトやった……」デン、後で目の縁を少し染めてそう言った。
「オマエ、よくバレなかったよなあ」
「うん、お昼一緒に食べて、映画みてて……」
そこでバレたそうだ。
まあ、このメンバーの中でマトモなヤツを探そうというのが間違いなのかもしれない。
フランソワの部屋に入る手だても決まらぬまま、ごちゃごちゃとヤローどもが揉めくりかえっている中、
「あの」今まで黙っていたサクがさりげなく
「これ、使えるかなあ」
取り出だしたる一枚の学生証。
「なになに、ナニガシ大学 三回生 イシハラ オサム」
「この写真」デン、ごくりと唾を飲む。「サクちゃんそっくり」
「見してみして」拓人はその学生証をじっと見つめていたが、その顔にだんだん了解の笑いが浮かんでくる。
「それさ、イトコのなんだけど、この前来た時忘れてったんだよ、今日郵送で返そうと思ってたらさ、いきなり戦闘あって、それでさ」
「サクタローくん」拓人、ぽむ、とサクの肩に手をおいた。
「いや、特攻隊長、よろしく頼むよ」
期待と不安の一時間後。
「ただいまー」と帰ってきたサク、しかし手ぶら。
「なんだよ~シッパイか?」
「どうしたんだよ」
「バレたの?」
「それがさー」サク、みんなを見渡して「どーしたのみんな、顔がコワいよ」
「いいからいいから、何だって?」




