死んでもマイクは離しません
【前回のあらすじ(前回って、どこに? ま、カタイこと言わんと)】
伝助(若草変化)、バンド仲間のケンタローに誘われ、町内でいま大人気のカラオケBOXに出かける。が、実はそれは『ものから団』の洗脳ルームだったのだ。
危ういところで難を逃れる伝助、しかし、ケンタローは既に『ものから』化し、悪の電波に操られる身と化していた。
洗脳された人々は街に繰り出し、街頭で、駅前で、公園で、声を限りに『ものから賛歌』を歌う。
突如、一本調子のメロディーと割れるような歌声に包まれた街は、頭痛者、交通事故、ノイローゼ患者が続出、パニック状態となる。
大混乱に陥った街を小高い丘から見下ろし、ほくそ笑むアンドロイド『マイク・ハナサーン』。百本の腕全てに高性能マイクを握り、最大一万デシベルの騒音を出す、恐るべき敵だ。
街はいまや崩壊寸前、マイクを通してあっちゃこっちゃに響き渡るマイク・ハナサーンのせせら笑い。
と、その時!
*****
「把っ!」
アンドロイド、マイク・ハナサーンの目の前に、鮮やかに躍り出た五色の影。
「お、オマエらは!」
「この世に悪のある限り」凛とした声で、まず大見得きるはバラ変化。
次はアサギ変化。ポーズをつけたまま、ちらりとバラの方を見た。が、すぐさま後を続けて
「いずれにこの身を置こうとも」
で、ウコンの番。静中有動の構えのまま悠々と
「悪しき乱気を受けたれば」
一番端でデルモ立ちしていたワカクサ、つむっていた切れ長の眼をすっと開き
「たちまち正義の士と変じ」
サクラ変化も、一生懸命腹の底から声を出している。
「この期に及び、容赦せぬ!」
おっかぶせるようにバラ変化「我らこそ!」
だっ、五人一斉に舞いあがり、敵の真上で交差する。
ものからの手下たちが天を仰いでなすすべもなく見守るうちに、彼らは敵より高いポジションに扇形に散らばった。長いタスキなびかせて、全員の声がぴしりと揃う。
「伍人衆!見参!」
負けじとマイク・ハナサーンが叫ぶ。
「何してるの、はやくやっつけておしまいっ」きーん、ハウリングが山々にこだまする。
だが、伍人衆の方が一瞬速かった。
敵のまん中に飛び降りたバラ変化、すばやい動きで次々と手下たちを投げ飛ばしている。後ろから逃げようとしていた数人を、アサギのパンチが見舞う。ヤケになってワカクサに襲いかかろうとしていた大量の手下たちは、いきなり空から降ってきたウコンが蹴散らし始めた。ようやく態勢を立て直し、ワカクサも端からこまめに殴りつける。
サクラも勇敢に(マスクの下のユキは半泣きだったけど)いくらか敵をなぎ倒し、ふうとひと息ついたとたん、
ぐわし
後ろから、いきなり腕を掴まれた。
「はあっはっはっはっはっはぁぁぁぁ」きーーーーーん
マイク・ハナサーンはたくさんある腕の中にサクラを抱き込んで、得意マンメン。
「どーだ、仲間の命が惜しかったら降参しろぉぉぉぉ」
なんせ、声がデカイ。「きゃあぁぁ耳がぁ」サクラ、耳を固く押さえる。
「コーサンだ、コーサン、はっはっはあぁぁぁぁ」
みんなも、両手でしっかり耳に栓してる。そこで、バラははっと気がついた。
「このままじゃ、手が空かねえから武器も何も使えねえじゃん」
感心したようにウコン「そおだねー」バラ、そっちをみて
「え、今何か言った」
「『そおだねー』」
「え、なに」
「そ、お、だ、ね、え」
その様子を耳を押さえたまま見ていたアサギ一言。「死ぬまで漫才してろ、タコ」
ワカクサ、つかの間騒音が止んだスキに、はあ、と息をついて手を離す。
「あーやかまし。だれかアイツのスイッチ切ってんか」
その冗談にバラ、ははと笑いかけてからふと真顔に戻った。
サクラを抱えたままのマイク・ハナサーンをきっと見つめ、彼は大声で告げる。
「よし、分かった。オレがリーダーだ。オレ一人が降参するから、後のヤツらは解放してやってくれ、いいな」
マイク・ハナサーン、にやりと笑って答える。
「よかろう、その代わりオマエの『変化章』を渡すんだ」変化章とは、彼らの各々がいつもだいたいエリの裏に付けている一種のコントローラー。それを押すことにより、彼らは一瞬のうちに変化を行うのだ(押さなくても、なることもあるっちゃある。ないっちゃない。どっちなんだ、あるっちゃない、ないっちゃある、もうどうでもいい)。
「分かった」
あっけにとられる仲間を後目にバラ変化、つかつかと敵の面前に進み出る。そして、エリの裏に手をやり、スイッチを切った。たちまちしゅっ、と帯の解けるような音とともに、彼は本来の姿、生嶋拓人に戻っていた。
「驚いたな」マイク・ハナサーンの腕がメデューサの頭に棲むあまたの蛇のごとくゆらゆらと揺れている。
「まだ、こんなガキだったとは、どこの小学校に通ってるんだ。第二小か?」
「ばか、これでも高校生だ」
「まあいい、その変化章をこっちによこせ」
「先にサクラを離せ」
「先にそれを投げるんだ、こっちに」
サクラを掴んでいる手に力が入ったようで、彼女は苦しげにうめき声をあげた。
拓人、渋々ながら変化章を放り出した。敵の腕の一本がずるずると地面を這い、その小さなバッヂを拾い上げた。と同時に、サクラを掴んでいた腕を緩める。
サクラ、急いで安全圏内に走っていこうとした、が、ぴたっと足をとめ
「拓人くん」声がウルウルしている。そんなサクラに、拓人、にっこり笑いかけ
「オレなら、だいじょうぶ。さ、早く逃げるんだ」
次のサクラのセリフがよかった。
「ものからの奴隷になっても、元気でね。身体に気をつけて」
そして、だっ、と残った仲間の方へと駆けて行った。
拓人はつくづく身にしみた。やっぱりユキとあかねは血を分けた姉妹なんだ……
しかしすぐに気を取り直し、彼は敵に向き直る。
「おい、マイク」急に口調がなれなれしい。
「オレ、生身のニンゲンなんだぜ、もちょっとボリューム下げてくれよ、耳おかしくなりそう」
アンドロイドはわさわさと手を動かし、ようやく脇の下のひとつに手を伸ばした。何とかボリュームのつまみを探しあてたらしい。拓人、抜け目なくその様子を見守っていたが、突然
「そこかっ」敵の脇に飛びこんでいった。急なことで腕もジャマし合い、立ちすくむマイク・ハナサーン。拓人、一瞬のスキにボリュームつまみの横にあった電源スイッチに手をかける。
「やめ」ろ、まで言うヒマもなく、敵はスイッチ・オフされてへにゃへにゃと崩れ落ちた。
同時に、その体からぶうん、と低い呻りが轟き、女声のメッセージが流れた。
「ひじょーよー、でんげんに、きりかわります。ばってりー、じゅーでんかんりょうまで、あと、さんじう、びょう、にじゅう、ごびょう……」
「マズイ、よみがえるぞ」アサギが拓人に向かって叫ぶ。
「早く変化しろこのタコ、やられちまうぞ!」
「だめだ」苦しげに、拓人、ゴチャゴチャな山と化した敵の腕を指す。
「変化章、どこだか分かんねえよー」
「くっそー」アサギ、ギリギリと歯がみする、がすぐに
「みんな、ヤツの腕を捜せ!」みんなひとっ飛びで、倒れた敵の元に駆けつけ、一本いっぽん腕を取って捜し出す。
「一人、二十本だかんな」
「がんばってくれよ、みんな」拓人の顔は情けない。
「オメーも捜すんだよ、タコ」
みんなで腕をかき分けより分け、大みそかの内職よりも忙しい。
「じゅーごびょー、じう、きう……」
「あかん」ワカクサ、最後の一本を投げ捨てるように
「ウチのとこには無かったわ、ど、サッちゃん」
「ないのー」サクラ、しくしく泣きながら腕をより分けている。
「なな、ろく、」
「くそっ、いつもいつもいつもこーだ」アサギ、一本一本の腕を脇に投げつけ
「無事に、帰ったら、絶対、ずぅえーったい、絞め殺す、きっと、きっと」ブツブツ言い続けている。
「よん、さん、」
「あのさー」のんびりしたウコンの声が、今日はまたいちだんと微笑ましくものんびりと響いた。
「に、いち」
「あったよー」
「ぜろ」
拓人が再び変化したとたん、敵のパワーもよみがえった。まるで鉄の触手をもつクラゲのように、マイク・ハナサーンはゆらめきながら立ちあがる。
「ふっかーーーーつ!」
きわどいところで飛び退り、伍人衆、いっせいに背中の太刀をひと抜き、そして高く放り上げる。
バラが手を挙げると、太刀は次々とその手中におさまり、煌めく一振りの剣となった。
「破魔の刃、受けてみよ!」
まばゆいばかりの白い光に包まれ、バラ変化、上段の構えで敵を斬り下げた。
鋼鉄の腕が麻のように易々と断ち切られ、ばちばちと物凄い音立てて青い火花が散る。オゾンの匂いがあたりに満ちた。
「とおっ」はね上げた切っ先が、今度は敵の脇に入った。
「ぐぅわぁぁぁぁ」恐るべき一万デシベルの絶叫と共に、マイク・ハナサーン大きくのけぞった。足下は崖っぷち、あっという間に、敵はそのまま奈落の底へと吸い込まれていった。
ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん
断末魔の叫び(騒音)が、山々を揺るがす。ワカクサ、しっかと耳を押さえて
「あー、るさかったぁ」
ウコン、ふと思いついたようにつぶやく。
「あのアンドロイド、うるさい他に何か、取り柄があったのかなあ」
「オマエ、ずいぶん痛いトコロをつくよなあ」バラ、ぽん、とウコンの肩をたたく。
「だけど、ホント助かったよウコン、それにみんな、ありがとうな」
「おい待て」ずいっとアサギ、極道の顔して進み出る。
「うわ、アサちゃん、そんでもここで絞め殺す、ってワケじゃないよね?ね」
「そんなこっちゃねえ」アサギ、バラのえり首をまずしっかと捕えてから
「オレが聞きたいのはだなぁ」ぐい、と自分の顔先まで引き寄せる。
「あの、最初のセリフ、何だっつーんだ、えっ?」
バラ変化、思い出した。登場の時、一人ひとりが口上を述べようということになった。
暗記した、練習もした。ところが本番でうっかり間違えて、ワカクサの分のセリフを述べてしまったのだ。つまり、お終いから二番目。よって、あとの変化はみんな、テキトーなアドリヴでつながねばならなかったのだ。
「あーあれ」バラ変化、思い出しながら、ついくっくっと笑いだした。
「みんなさー、よくあーデマカセ出たよねー、オレ感心しちゃっ」いきなり首を絞められて、バラ、次の言葉を詰まらせた。
「テメーのせいでコンチクショー、何から何まで」
「アサちゃん」サクラ、うるうるしながら
「お願い、殺さないでね。この人は死んだらラクになるけど、救われないのはシューシン刑になるアサちゃんよ」
やっぱり、あかねのネエチャンだ。足をバタバタさせながら、バラ変化、心の中でそうつぶやいた。それにしても、意識が段々遠のいてくる。死んだバアチャンが目の前に立っておいでおいでをしていた。
無事、敵はやっつけたものの、うちわのもめ事には事欠かない伍人衆。
がんばれ、伍人衆! 戦え、伍人衆! 少しは仲良く、伍人衆!




