小さいけどチューくらいの話
「見参!」
とたんに、サクラ変化が悲鳴を上げた。
本能的におかしいと感じたのは、周りの空気が変わったからだ。
風が猛烈な勢いで足元から吹き上げ、身体が舞ってしまいそう。息が苦しい。
胸がぎゅっと締めつけられるような圧迫感、と、同時に頭から血の気がざあっとひいた。
景色はぐんぐんと目の前から霞み、かわりに地面が荒あらしくせり上がる。
ユキは変化した、確かに。
だが、いつもの変化とは違う。
桜色のたすきが肩の脇に翻るさまをちらっと目にした後、彼女はとんでもないものを見てしまったのだ。
細く長く、肌色かかった鞭のようにしなやかな生き物が、すぐ左わきをかすめた。
「きゃっ」かすかに白い、まばらな毛でおおわれている。目はないのだろうか。生き物はしなってまた、脇に戻ってこようとする。彼女はあわててそちらに正面を向けた、がソイツは今度は後ろに回り込んだ。
「いやぁぁ」払いのけようと手を出したとたん、彼女は更にキョウレツな悲鳴を発する。
なんと、手がすっかり変形しているではないか。
指ばかり長く、ピンクがかっている。どこかで見たことある、この手。
「……」心臓の鼓動ばかりが早い。口先が痙攣しているような気がした。
その時、例の細長い生き物がゆらり、と彼女の脇に寄りそい、従った。
ドキドキしながら、そっと、触れてみる。
案の定、それは自分のしっぽだった。
「ちゅう!」バラ色の装束に身を包んだ白いネズミが一匹(ナマイキに、刀まで背負っている)、ひと声、高らかに叫んだ。
あとの四匹も、それを合図にたっ、と飛び出した。サクラももちろん、本能的に駆けだしていた。
配管を伝い、壁の隙間をくぐり、用水路を一気に飛び越え、稲妻の速さで闇をすり抜けて敵に向かう。
目指す敵は、ネコほどもある巨大なヤツだった。
近くのマンガ喫茶で、拓人はサクとダラダラマンガを読んでいた。
前回の敵『アングラキャットⅠ号』は、小さいとは言え地下深くで活動するロボットだったので、彼は初めて、『ヒューマン型』から『マウス型』の変化スイッチ切り替えを試してみたのだった。これはリーダーである自分が強制的に他の四人の分も操作できるようになっていた。
その他にも、『スネーク』『ホーク』『ちくわ』というのもあって、彼は、時折、『ちくわ』の上につまみを合わせようと震える手を止めるのが精いっぱいだった。
それでも、前回の変化はまあ成功だった。アサギでさえ「あんがい、走るの速えな」とまんざらでもなさそうだったし。でもチクワのことは秘密にしておかねば。
「サクう」それでも、今日はずっと気になっていたことを朔太郎に聞いてみようと思っていた。
「ん?」サクはこういう所にきても、自主勉をしている。英語のノートから顔を上げた。
拓人、マンガをぱたんと閉じて頭をかく。
「なんかさ……近頃さあ、クチきいてくんないんだよ」
「誰が?」
「ユキが」
「どして?」
「それがさ……」更に頭をかいた。
「ぜんっぜん、理由が思いつかねえ。ようやく少しは慣れてきてくれたと思ったのに……ワケ、わかんねえよ」解れよ拓人、オンナゴコロを。




