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クマさん貯金は元金割れ

 危ないところだった。

 徹底破壊型アンドロイド『ぼうりょ君』は、やおら起き上がると、背後から若草変化に襲いかかった。

 彼らは、今日も難なく敵を倒したと思い込み、帰り支度の最中。

 まっ先に気づいた浅葱変化、思わず

「伝助、うしろ!」

 叫んで、彼を突き飛ばした。

 辛うじてよけたところへ、『ぼうりょ君』の鋼の爪がかすった。ざっ、と衣ともう少し深いところまで裂けるイヤな音が響く。

 はずみで前のめりになった敵に、すぐ近くにいた鬱金変化、猛烈なタックルをくらわせる。

「みんな、剣を!」薔薇変化の叫びに、我にかえった桜が、まず背中の太刀を引き抜いて薔薇変化に放った。それから、鬱金、そしてようやく立ち上がった若草と浅葱が背負っていた太刀を彼に投げ渡す。

 太刀は、宙にそれぞれの弧を描く。薔薇変化、手を伸ばしてそれらを次々と受け取るとそれは輝くひとふりの剣となった。

「この世の闇を切り裂く、破魔(はま)の刃(やいば)、受けてみよ!」

(何回か耳にしても、浅葱にはつい『(M.C.)ハマーの八重歯』に聞こえてしまう)

 薔薇、満身の力を込め、飛びかかってきたぼうりょ君を肩口から切り下げた。

 手応えが、あった。

 肩で息する薔薇変化の後ろで、ぼうりょ君はどおっと崩れ落ち、そのまま動かなくなった。


 今度こそ、勝負あった。



「だから、オレが何したっつうんだよ」

「あ、あーん?」

 拓人、アヤシゲな外国人のように指先を振ってみせて

「覚えてないのお? スーちゃん」

 ここは、拓人の住んでいるアパート。いつものように、戦闘後に行うショート・ミーティングの最中だった。

「ほら、じゃあ回収してきたボイス・レコーダ、聞いてみようね」

 拓人、テーブルの上に平たい小さなボックスを放り出し、スイッチを入れる。

「何だこりゃ」

「戦闘中の音声記録」

「な、何でこんなもん」ユキや、伝助もびっくりしてそいつをまじまじと見つめている。

「あれ? スーちゃん、知らなかったっけ?」

「うちも、初めてみたわ」流れてきた音声に、伝助、顔をしかめる。「わ、うちの声」

 ちょうど、「見参!」からテープは始まっていた。

「さっきのね」ユキは、自分の声もけっこうデカいのに気づいて、顔を赤らめた。

「毎回録ってるの? これ」

「だって、決まりだもん。あ、し、し、ここから、聞いて」

 じゃ、引き上げようぜ、からがさごそ雑音がひとしきり続き、いきなり

―― 伝助、うしろ!

 浅葱変化の声が部屋中に響き渡る。

「カッコいいわあ、スーちゃん」伝助、スティーヴンもしなだれかかろうとしたが

「ててっ、バカ、そこ触んじゃねえ」

「あ、もしかしてさっきの」

「スーちゃん、見してみそ」

「やだね」

「いいから、見してみそ。ほら、逃げなくてもいいじゃん、デン、押さえろ」

「やめろっつうに、オマエらヘンタイか?」

 シャツをめくってみると、肩の下が十センチほど、ざっくりと口を開けている。

「ぐろいー」伝助、血に弱い。顔がみるみる青ざめる。

「しまった、オレんち薬ないんだ、今」

 拓人、朔太郎をみる。

「まさかさあ」サク、椅子にかけてあった上着から、小さな容器を取り出した。なんとマキロン試供品が出てきた。みんな、ほおっと感嘆のため息。

「さっき、駅前で配ってた……包帯も、あるよ」

「さすが、サクだよ」

 ひとしきり手当が終わると、あらためて拓人、

「と、いうわけで」おごそかに宣言する。

「これは、クマさんものですな」

 クマさん=クマさん貯金箱、つまり、伍人衆の掟を破った者に科せられる罰金刑のことだ。

 ミーティングに連絡もなく遅れた、というのが、もっとも軽い五十円刑となっている。

「戦闘中の本名呼びは、やっぱ、A級だよな、てことは二百……」

「待てよ、そんなこと決まってねえぞ」

「デンちゃん、どう思う?」

「うちを助けてくれはったんやし……」

「デンちゃん、もう、ものから団に正体割れちまったよ。きっと今夜あたりさ、暗がりで後ろから喉笛」

「……二百円でも足りんくらいやわ」

「じゃあ、みんなそろってクマさんを呼ぼう、せーの、『く、ま、さぁん!』『は~い』」

 拓人、すっかりなりきっている。片手に黒い貯金箱持って、スーちゃんの前に立つ。

 苦り切った顔で、スティーヴン、コインを入れる。ちゃりん、ちゃりん。

「さ、みんな、『あ、り、が、とー』」

「くそっくらえ」スーちゃんの災難はこれだけではなかった。

 翌日から傷が痛んで、土方にも出られなくなってしまったのだった。

 あやうし、スーちゃん! それに困ったぞ伝助! 明日に希望はあるのか?



(続かず)

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