第1話 雑用係の俺、依頼を間違える
※この物語には、派手なバトルはほとんどありません。
※主人公は、剣も魔法も振るいません。
※それでも、世界は何度も救われます。
――本人の知らないところで。
ギルドの雑用係として働くアルトは、
今日も掃除と整理をしているだけでした。
それが、
なぜかダンジョンの崩壊を止め、
国を静かにさせ、
「触れてはいけない存在」と判断される理由になるとも知らずに。
これは、
戦わない最強主人公と、
それを理解してしまった世界の、
少し静かで、少し怖いファンタジーです。
冒険者ギルドの朝は、だいたいいつも同じだ。
依頼掲示板の前で腕組みをする冒険者たちと、その後ろでひっそり立っている俺。
「アルトさん、今日も雑用ですか?」
受付嬢のリリアさんが、少しだけ申し訳なさそうに言う。
俺は首を振った。
「いえ、助かります。力仕事は慣れてるので」
そう言って受け取った依頼書には、こう書いてあった。
――倉庫周辺の整理、及び後片付け。
「いつものですね」
俺は何も疑わず、依頼書を畳んで外に出た。
***
目的地の倉庫は、思ったよりも静かだった。
いや、正確には――静かすぎた。
「……あれ?」
床には深い爪痕。
壁は半分ほど吹き飛び、空気が妙に重い。
「倉庫整理、ですよね……?」
首をかしげた、その時だった。
ズズ……と、空気が震えた。
影の奥から現れたのは、俺の背丈を軽く超える魔物。
赤い目、硬そうな外殻、鋭い牙。
「……ああ、これ、掃除の前に片付けるやつか」
昔はよくあった。
片付け前に、ちょっと厄介なのが残ってるやつ。
「すみません、すぐ終わらせますね」
俺は一歩前に出て、軽く拳を振った。
――ドン。
音は小さかった。
でも次の瞬間、魔物の姿は跡形もなく消えていた。
床が、少しへこんだだけだ。
「……あ」
俺は慌てて周囲を見回した。
「床、壊しちゃいましたか……?」
倉庫整理なのに、余計な修理が増えたかもしれない。
あとで謝らないと。
***
ギルドに戻ると、空気が妙だった。
冒険者たちが黙り込み、受付カウンターの奥では職員が何枚もの書類を落としている。
「アルトさん……?」
リリアさんが、青い顔でこちらを見る。
「えっと、依頼、終わりました。あの……」
俺は少し言いにくそうに続けた。
「倉庫の中に、掃除しづらいものがあって……片付けたんですが」
「……か、片付けた?」
その場にいた全員が、同時に息を止めた。
ギルドマスターが、ゆっくりと俺を見る。
「……倉庫周辺に出現していた災害級魔物を、か?」
「え?」
初めて聞く単語に、俺は目を瞬いた。
「いえ……普通の、ちょっと硬いやつでしたけど……」
沈黙。
誰かが、喉を鳴らす音がした。
「……そうか」
ギルドマスターは、なぜか深く息を吐いた。
「アルト。今回の件は――“記録上”、倉庫整理として処理する」
「は、はい?」
「いいな?」
よく分からなかったけど、俺は頷いた。
「助かります」
その背後で、誰かが小さく呟いた。
「……力を隠す達人……」
いや、違います。
俺はただの雑用係です。
……多分。
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