10.白穀購入
あすかと大和は顔を見合わせて頷く。
「白穀を買います」
ルイは少し驚いたように目を丸くした。
「どれくらい必要かな?」
その問いかけに、あすかは少し考える。
魔力もちの人たち向けの食べ物。
魔力のない日本人。
本当は一旦クリニックに戻って、副院長と相談してから決めようと思っていた。
しかし、米どころかパンも今はない。
安全に食べられるかは分からない。
それでも、もし食べられるなら食べてみたいというのが本心だった。
「………昔の人たちもウニやタコを初めて食べたとき、こんな感じだったんスかね」
大和がぽつりと呟く。
「とりあえず、2キロで………。もし、食べれたらまた買いに来ます」
「よし、準備させよう」
ルイは先ほどの秘書を呼び、準備をさせる。
秘書は静かに頷き、部屋を出ていった。
「お金はあるかな?」
あすかは頷く。
一応、院長から預かってきてはいる。
「足りますか?」
あすかが差し出したのは金貨1枚だった。
ルイはそれを見ると笑う。
「十分だよ。お釣りもあるからね」
ここの世界の物価は、まだよくわかっていない。
相場もわからない。
だから、こうして買い物をしながら少しずつ物価を感じ取っている状態だった。
「………ところで、なんで魔力のない自分たちに白穀を教えてくれたんっスか?」
大和はヤンの方を見る。
最初にギルドで見せたときに、見たことがない。
そう言えば済む話だった。
なのに、わざわざ白穀に似ているなんて情報を提示して、ここまで連れてきた。
「……いえ……ただの好奇心です」
「好奇心?」
大和はなんとなく嫌な予感を感じた。
ヤンは淡々と続ける。
「魔力のない者が食べたらどうなるのか……。四肢爆散するのか、人格が壊れるのか………。知りたかったんです」
「……………」
「……………」
あすかと大和は固まる。
自分の知的好奇心のために、白穀を教えた。
「こっわ!!ヤンさん優しそうな人だと思ったのに!!」
ルイはその反応を見て大笑いしている。
「ま、こいつはこういうところがあるが、気にするな」
「気にするわ!!」
2人は同時に叫ぶ。
その様子を見て、ルイはさらに笑った。
しばらくすると、秘書が戻ってくる。
手には白穀の入った袋があった。
大和はその袋を大事そうに抱える。
「ありがとうございました」
「また何かあれば来るといい」
「次は無事だった感想も聞きたいですね」
「いや怖いっスって!!」
大和が即座に突っ込む。
ヤンは少しだけ口元を緩めた。
そのあと、あすかと大和はルイや商会の人たちへ挨拶をして外へ出る。
ヤンはルイともう少し話をするとのことで商会に残った。
外へ出た2人は、未知の食べ物――白穀を手に、クリニックへ向かって歩き出す。
「いやぁ……最後とんでもなかったっスね」
「本当よ……。ま、でもとりあえず主食候補は手に入ったし……」
あすかは大和が抱えている袋を見る。
見た目だけなら、本当に米だった。
「こいつの調理は、料理上手な智子さんに任せましょう!」
「あんた……智子さんがそれを聞いたら張っ倒されるわよ?」
「俺ができる料理はカップ麺にお湯を入れるくらいっス」
「それは料理というのか???」
「お湯を沸かしている時点で料理っス」
大和は胸を張って答える。
あすかは呆れてため息をついた。
次章
第9章 『ほほえみデンタル、食卓のぬくもり』は、
6月18日 (木)17時より投稿を開始します。
どうぞ、お楽しみに。




