02.次のステップ
「いやぁ……T-Fix一つでここまで感動してくれるとは」
真人は後片付けをしながら話す。
志帆も大地も同じくうなずく。
「あれだけ驚いていましたからねぇ……」
「まぁ、この世界やと歯がグラグラしたら抜くって考えやったしね」
志帆が器具を片付けながら言う。
その横で、あすかが口を開く。
「ギルドに訪問診療のことを相談したら協力してくれるかもですね」
「ははは……確かに。でも、まだそこまで話ができる段階じゃないしねぇ……」
大地が苦笑しながら返す。
あすかと大地は、前の職場では訪問診療をメインにしていた。
外来診療を行うこともあったが、やはり二人にとって中心にあったのは施設や自宅へ向かい、患者の口腔ケアを行う仕事だった。
真人もそのことはよくわかっている。
もともと、その経験を見込んで二人を雇っていた。
だからこそ、できるだけ早く二人が活躍できる場を整えてあげたいとも思っていた。
しかし、異世界に来てしまったことで何が必要なのかわからない。
そもそも、この世界には口腔ケアについての見識がほとんど存在していない。
真人は手を止め、軽く天を仰ぐ。
(う~ん……。本当は車に乗っていろんな施設や自宅に行って口腔ケアをしたいんだろうけど……)
訪問診療用の車。
持ち運び用の器材。
施設との連携。
日本では当たり前にあったものが、この世界には何一つ存在しない。
真人は小さく息を吐く。
(……補綴のことをいったん忘れてサムさんに相談してみようかな)
立ち止まっていても仕方がない。
今できることを探しながら、一つずつ進めていくしかない。
真人はそう考える。
(でも、その前にみんなに相談してからだね)
真人はそのままクリニックの中を見渡す。
笑顔で受付回りを掃除するすずとつむぎ。
チェアサイド周りを掃除する智子と陽菜。
器具を片付けながら美里に怒られている大和。
床を掃除するしおりとゆかなど。
それぞれが自分の仕事をしながら、少しずつ診療後の片付けを進めていた。
真人はその光景を優しいまなざしで見つめる。
そんな中、ふと部屋の片隅へ目を向ける。
待合室に置かれているテレビ。
その前に、直樹が立っていた。
リモコンを片手に持ったまま、テレビの方を見ている。
真人が声をかける。
「直樹君どうしたの?」
直樹は視線をテレビへ向けたまま返す。
「あ……いえ、先ほどからテレビの片隅が光っているので……。何かと思いまして」
その言葉を聞き、真人もテレビの方を見る。
確かに、テレビの片隅が光っている。
待機状態のはずなのに、小さく淡い光が点滅していた。
「ただのテレビなのになんで?まるでスマホの通知機能みたいな………」
真人が不思議そうに呟く。
直樹も小さくうなずく。
「えぇ………でも、そんなものないはずなのに」
直樹はおもむろにテレビの電源を付ける。
その様子に、ほかのスタッフたちも気づき始める。
「ん?」
「どうしたんですか?」
「テレビ?」
掃除の手を止め、それぞれが待合室へ集まってくる。
つむぎとすずも受付から顔を出す。
智子と陽菜もチェアサイドから出てくる。
大和は美里に怒られながらもテレビの方を見る。
「いや、だからちゃんと片付け……」
「すみませんって!!」
そんな声も混ざる中、全員の視線がテレビへ向けられていた。




