2-6. 2週目……行こ!(2/3)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
昼食を早々に切り上げた後、俺は美海を連れて自分の部屋へと移動した。朝から動かしていた少し音の出るエアコンのおかげで部屋は涼しく快適で、少なくとも汗が滲むようなことはない。
いや、嘘だ。
俺は先ほどから2人きりの部屋でドキドキしていて汗が止まらなくなっている。あらかじめ用意していた座布団に座ってもらい、普段使うことのないローテーブルに勉強道具を置き始める。
そう、夏の暑さじゃないから厄介だ。
あとは、扇風機でも回すか。そう思って、部屋の端に置いておいた扇風機を取りに行く。
「お母さんと彩ちゃんが良い人で本当に良かったあ……」
そんな声が背中越しに聞こえてくる。
振り返ってみると、美海はようやく緊張がほぐれたような安堵の表情を浮かべて、ホッと胸をなでおろしていた。両手をパタパタと動かして、顔を冷やすように扇いでいるのは、決して物理的な暑さだけじゃないだろう。
そうだよな、美海からすれば、ようやく解放された感じだよな。
俺の緊張が高まっていく中、美海の緊張がほぐれていく様子を見ていると、なんだか緊張がシーソーにでも乗っているようだと思ってしまう。
「ごめん、なんか、無理やり母さんと彩が美海と話す感じになって、お弁当も結局4人で食べることになったし」
俺が扇風機を片手にローテーブルの方へと戻りつつ、申し訳ない気持ちで美海に詫びの言葉を告げると、美海は安堵した表情のままにゆっくりと首を横に振ってから俺を見つめてきた。
電源の入った扇風機からそよ風が俺と美海に流れてくる。
今の俺と美海がテーブルの角を挟んでL字に座っているから、距離は真横に座るよりもちょっと離れている。
でも、この距離感が落ち着きたい今はちょうどいい。
「ううん、いいんよ。お弁当はもしかしたらって少し多めに作ったし、それでもちょっと足らなかったから……お母さんのご飯ももらえて足りて良かった。それと、うちもお話はしたかったし」
「ん? そうだったのか?」
美海が俺の家族と話したがっていると思っていなかったので、俺はその言葉を聞いた途端に思わずそんな問いを投げ返してしまう。
美海はそれにうんうんと首を縦に振って頷いていた。
いつもの美海が出てきている。もうだいぶ緊張はなくなったようだ。
「うん、だって、ひーくんのこと、もっと知りたかったから。だって、ひーくん、いつもあんまり自分のこと話してくれないもん! うちの話を聞いてくれるのは嬉しいけど、ひーくんのことももっと話してほしいもん!」
もん、もん、言うのかわいいな。
「そうか? 俺、けっこう話していると思うけどな」
いや、本当は俺も自分のことを話していないって思う。
そもそも、あまり他人に自分の過去とかを話したことがない。それは俺の過去がつまらないだろうなって俺が自己評価しているからだろう。面白くもない話を聞かされるのは嫌だろうと自分のことが言えなくなっていた。
だけど、美海はそうじゃなかったようだ。本当に俺のことを知りたがっているように見える。
「そうやよ! そしたら、お母さんや彩ちゃんとも話した方がいいかなって。ひーくんのこと、ちっちゃかったころも、もっと、もーっと知って、もっと好きになりたいんやもん」
「美海……」
俺のことをもっと知りたいと言ってくれる美海に感動すら覚えた。
今まで女子にそんなことを想われたことがあったろうか。いや、ない。
それを聞いたことで、俺ももっと美海のことを知りたいと思うようになる。
「それに、ふふふ……ひーくんが自分じゃ絶対に教えてくれなさそうなちょっと恥ずかしい系の話も聞けたし、ふふふ……」
「……美海?」
恥ずかしい話? 怪しい笑い声と不敵な笑み? え? 弱みでも握りたいの?
急に雰囲気が変わり過ぎて、冷静になる俺がいた。心なしか室温も下がったように俺の身体が徐々に冷えていく。
「あと、ひーくんのちっちゃいころ、かわいかったあ! ニコッと眩しい笑顔で写真! それに、ひーくんもちっちゃいころはやっぱり身長低かったんやね!」
「美海?」
「んふー! 今のうちよりも小さいひーくんなんて信じられないんやけど! やっぱ、アルバム見られて良かったあ! うちがひーくんのこと分かるのは中学の時のアルバムからやもん。ちっちゃいころのが見れて本当に良かった!」
おーい、戻ってこーい。
興奮のあまりに話が暴走している美海にそう言いたくなる。
嬉しそうに両手をぶんぶんと振り回して大きな口でニカッと笑っている美海はかわいいのだが、目的が高確率で親の持ち出してくるアルバムだと思うと、先ほどの感動も若干薄れてしまう。
いや、母さんが子どものころのおねしょの話とかしなくて本当に良かった。子どもならみんなするんだろうけど、改めてその話を持ち出されると恥ずかしいしな。
というか、俺だって、生まれたときから大きいわけないよ? たしかに、小学6年生のころに急に大きくなったけど……。
「……美海、今日の目的、もしかして、それなのか?」
「……ソンナコトナイヨ?」
美海の視線が明後日の方向へズレる。
そのままじぃーっと美海を見つめてみると、一切視線をこちらによこそうとしなかった。
「急にカタコト?」
いや、まあ、たしかに、叡智なことだけ目的に来るなんてありえないだろうけどさ。
まさかのアルバム狙いだったか……。
「……ソンナコトナイヨ?」
イントネーションも変わらない二回目に吹き出しそうになる。
「いや、言い方変わってないから」
「……えへへ」
美海がハッとした感じで一瞬だけバツ悪そうな顔をしてしまった後に、ニコッと俺に露骨なくらいに貼り付けていますって笑顔を見せてくる。
まったく。かわいい。
「本当かなあ?」
「むーっ……信じてくれないんだ?」
「い、いや、信じたいよ?」
「信じたいかあ」
「ごめん、ごめん、うっかりね」
しまった。信じているよ、の方が良かったな。
ぷくっと頬を膨らませる美海を見て慌ててしまった俺は思わず本音が出てしまい、美海から訝し気な表情を向けられる。
いや、待て、なんで攻守逆転しているんだ?
でも、これくらいの方が緊張感も薄れていいかもしれない。
すっかりいつもくらいのラフさに戻っている。
「それもなんだかやけど……もう。そう言えば、部屋、すごくオシャレやね」
美海もこれ以上は口論になるかもと思ったのか、曖昧にして何も言わずに話を変えてきた。
「ああ、普段はここまでじゃないけど……まあ、彼女を呼ぶし……綺麗にしないとなって。ちょっと趣味のものも片付けたから、俺の部屋感が俺も感じられないけどな」
まあ、ここは本音で勝負だ。いつもこんなに片付いていると思われても嘘吐いている感じがしてちょっとばかり居心地が悪いしな。
「好きなものまで片付けたん? うちやせーちゃんのためにありがとう」
俺はさすがに美海の言葉に引っ掛かった。
「……今は、美海だけ、だろ?」
聖納は関係ないはずだろうと遠回しに言う。いや、たしかに2日後には聖納だって来るけど、今日は美海だけだから聖納を引き合いに出す必要はないはずだ。
「……そうやね、ごめん」
少し言葉が強かったようで、美海がしょんぼりと俯き加減に謝ってきた。
しまった、俺が雰囲気を壊してどうするんだ……。
「いや、俺は……ごめん、謝ってほしかったわけじゃなくて、今、俺は美海に全力だって言いたかっただけで……」
俺も俯いてしまう。
「…………」
「…………」
無言に耐えきれなくなってちょっと上目遣いでちらりと美海の方を見ると、美海も同じだったようで俯き加減に俺のことを上目遣いで見ていて、ばっちり目が合ってしまう。
そのとき、お互いに、ふっと笑みがこぼれる。
「うち、なんか、せーちゃんにちょっと遠慮してたんかも。でも、今日はうちだけやし、それにうちが1番やもんね!」
「そうだな」
なんとか収まり、美海も安心している様子だ。俺も正直似たような表情を美海に向けていると思う。
そこからまたちょっと無言の時間が流れる。
だが、宿題を始めるわけでもない。
お互いに分かっている。親や妹がいることも分かっている。ベッドが目の前にあることも分かっている。今日の目的も分かっている。お互いに緊張していることも分かっている。
そう、全部、お互いに分かっているんだ。
だからここは部屋主の俺がと思ったが、それよりも美海の方が早かった。
「ひーくん、えっと、それじゃ、ちょっとくらいなら……あ、スカートの方が良かったかな……自転車やし、パンツにしちゃったけど……」
美海にそう言われて、俺は美海の脚の方に視線が移る。
すべすべそうで柔らかそうで血色の良い太ももの先に見える黒いショートパンツ。
するなら……それを……脱がすってことだよな……。いや、脱がすのはマズいか。あ、だから、スカートの方が、ってことか。手を入れやすいし、隠しやすいもんな。
いや、ショートパンツの中に手を滑り込ませるのもそれはそれで……。
考えれば考えるほど、俺は妄想と緊張のあまりに喉をゴクリと鳴らしてしまう。
つうか、美海にばかり言わせるのは良くないな。
「あ、あぁ……い、いや、ほら、母さんや彩もいるって言ったから、最後までは難しいだろうし……」
コンコンコン。
俺がわけのわからないフォローめいたことを言っていると、急に部屋のドアからノックの音が聞こえてきた。
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