1-10. 5月……勉強しよ? (2/4)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
「ちゃんと使うのはほぼ初めてだから、興味あるんだけど、ちょっと緊張しちゃうね。最初の学校案内で図書室の説明をしてくれた司書さんは女の人で優しそうだったけど、2年とか3年とかの先輩とかいたら、もっと緊張しちゃうかも!」
美海と階段を降りていると、美海がそう言ってワクワク半分ドキドキ半分な感じを伝えてくる。
よし、ここは男の見せどきだな。
「うん、俺も若干緊張してるわ。まあ、でも美海と一緒だから大丈夫な気がしてる」
決まったな。この一緒感、美海も心なしか嬉しそうだし、ガツガツ感ないし、これはポイント高いだろう。
「本当に? 良かったあ。でも、ウチは仁志くんと一緒の方がドキドキして緊張しちゃうなあ」
不意打ちっ! 予想外っ! 美海のカウンターが強烈すぎるんだけど!? ズルすぎるでしょ、なにそれ。かわいい子にこんなん言われて、イケメンじゃないから、これ以上の返しなんかできるわけないだろ……。
どうする? どうするよ、俺……。
「お、おう……」
いや、あまりにも手札がなさすぎて、緊張し過ぎの0点回答を出しちゃったわ……。
「うん! あ、ここだね」
「あ、あぁ……俺が開けるわ」
「ありがとう」
ようやく辿り着いた図書室を前に、俺は気を取り直して、図書室の扉を開けた。
この高校の図書室は独特の雰囲気がある気がする。
ガラス扉になっている入り口を押して開けると、一番に目に飛び込んでくるのは奥にある一面に連なっている窓と背の低い本棚で、窓からは学校のバカでかいグラウンドが見えていた。いつもなら野球部やサッカー部がいるだろうそのグラウンドはテスト週間でがらんとしていているから殺風景な砂漠みたいなもんに見える。だからか、図書室自体も少し寂しく感じるくらいだ。
「こんにちは。あら、青いサンダルってことは1年生ね。最初のテストで1年生がテスト勉強に来るなんて珍しい」
「あ、はい」
「は、はい」
「仲良しさんね。今日はあまり人がいないけれど、仲良くし過ぎてはしゃいじゃダメよ?」
「あ、はい」
「は、はい」
「本当に仲良しね。青春の1ページね……羨ましい……」
「ははは……」
「えへへ……」
俺と美海は司書さんに声を掛けられ、話しかけられるたびに同じ返事をほぼ同時に出す。若干最後に司書さんの闇を垣間見た気もするが、美海が気付いていなさそうなのでスルーすることにした。
ということで、改めて見渡すと、入ってすぐの左側には「関係者以外立ち入り禁止」という立札が置いてあって、その奥には書庫へ続く階段がある。さらにその立札の隣に司書さんのいるカウンターがあって、カウンターの奥に図書準備室という小部屋があるようだ。
「どうしたの、仁志くん? こっちだよ?」
「あ、あぁ……」
右側にはお目当ての長机の自習スペースや本棚があるといった感じだ。
まず手前には自習スペースで、折りたたみができないタイプでしっかり目の木製天板のパイプ机はいかにも学校らしい感じがして、そこに適度な感覚でしまわれているキャスター付きの椅子は職員室からのお下がりだろうか、教室のパイプ椅子よりも若干上等な感じがする。
「あ、これ、面白そうな本だね」
「意外だな。美海がアニメや漫画系の科学読本に興味を持つなんて」
自習スペースの奥には、人より少し背の高い程度の本棚が背中合わせのペアになっていくつか並んでいて、壁に張り付くようにして天井まで届きそうな大きな本棚がある。その辺りの本棚にある本は小説やちょっと興味を引くような科学読本系が置いてあって、パラパラとめくるにはちょうどいい感じのライトさがある。
「うーん、ウチは正直あんまりやけど、でも、仁志くんが興味持ちそうだったから、気になっちゃって」
ちょいちょい不意打ちくるんだよな……。
「あ、ありがとうな」
「ううん、ウチが気になってるだけだから。今度、奥の方にも行ってみようかな」
ちなみに、さらに奥に本棚ばかりの第2本棚スペースみたいな場所もあって、そちらには辞書やら昔の教科書やら小難しい本やらがあって、ザ・学校の図書室って感じの本が多い。
「そう言えば、歴代の卒アルがあるらしいな」
「え? 本当? 今度一緒に見よ? 今日は勉強だから我慢っ!」
「それは楽しみだな」
「えへへ……楽しみかあ、嬉しいなあ」
歴代の卒業アルバムもあると聞いたことがあり、ふとそのことを口にしたら、美海が食いついた。
そして、この破壊力である。
なんで、こう、いちいち、かわいいかなあ。
「べ、勉強するか」
「そうやね」
そう言って、俺と美海は適当な椅子に並んで座り、テスト勉強を始めた。せっかくなので、2人とも同じ教科にしようってことで、現代国語を選んだ。
「これ、この執筆当時の作者の思いを答えよ系が絶対に出そうだよな」
「それ、分かる。でも、作者の思い系って合ってないってSNSで見たことあるよ」
「まあ、人の考えを後から当て込むほど、いい加減なものないよなあ」
「そうやね」
そんなこんなで、1時間ほど一緒に勉強するという至福の時間を過ごし、あっという間に夕方になってしまう。
楽しい時間は過ぎ去るのが実に早い。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「……うん……ふぁっふぅ……」
一生懸命にかみ殺した欠伸もかわいいかよ。
一旦トイレに行くために俺は離席することにした。
美海は少し疲れた様子で教科書に目を向けつつ、俺の言葉にへなへなな感じで返事していたのでそろそろ終わりかな。
「あと、もう少しで終わりか」
俺はこの勉強会を名残惜しく感じながら、ハンカチで手を拭きながら図書室に戻った。
ふと、カウンターに司書さんがおらず、奥の図書準備室で作業しているのが見えた。それと、ほかの生徒は帰ったようで、美海しか残っているように見えない。
まあ、もう夕方だし、切り上げるか。
「お待たせ……美海。なあ、もうそろそろ帰らないか? ん? 美海?」
ここで最大級のイベントが発生する。
美海が眠っていたのだ。
美海が、少し閉じ気味の教科書の上に、器用に頭を乗せて眠っているのだ!
はい、大事なことなので2回言いました。
ご覧くださりありがとうございました!




