第14話「英二サイド」
「それじゃ。あいつらが向かった俺たちの初期地点の反対側に行くぞ。そこからあいつらの行動を一望することが出来る高いところを探しにな。」
「なんで、そこに行くべきだと思うんだ。」
「敵のリーダーは俺が知っている人物だ。そいつの考えることは冷静になったらすぐにわかった。俺たちがあの強いやつに手も足も出ずに負けるところを見てみたいと考えているはずだ。性格は最低だからな。」
「知り合いなのか。なるほどね。向かった先には敵リーダーがいても取り巻きがいるよな。それは俺たちで対処すればいいのか。」
「そうだ。ただし、樋田は逃げ出すと思う敵リーダーを俺が近づくまで逃さないようにしてくれ。あいつは俺が直々に叩きのめす。気分も悪いからな。」
そういうと樋田は目を逸らしながら空笑いをする。俺の顔が怖かったのか。普通に笑っていただけなのだが。
(佐藤の笑顔って怖いな。ヤクザと見間違えられても仕方ないよ。)
敵の索敵に引っ掛かっていないかを警戒をしながら進んでいく。見つかると敵リーダーは雲隠れのように消えてしまうからだ。
俺は中学生の頃までは不意打ちや監視などを散々やられてきたので見られているという視線には敏感だ。だからこそ、今は早く敵の位置を把握することが重要だ。
「宗斗があいつ、騎士を倒すことが出来るかは未知数だからな。このクラスの中で一二を争う強さであることは間違い無いのだけど勝てるかはわからない。さっさとケリを付けよう。」
独り言をぼさっと呟きながら突き進んでいく。
目的の場所まで少し走り続けると先に続いている脇の道路から人影が見えた。
「お、あれって藍田とかじゃん。周りは敵だらけだな。」
「つまりは、この辺りにいるってことだ。敵のリーダーがな。」
さっと辺りを見回してみると近くには一軒家ばかりの中に少し高いマンションがあった。そこは宗斗がいるところのすぐそばであり灰色で新しいわけではなく古いわけでもない、建物のデザインも無難ってとこだ。
屋上もありそうなので敵のリーダーであるインテリくそメガネがいることは間違いなさそうだ。
心の奥底にある苛立ちを思いっきりぶつけてスッキリしたい。
「早速乗り込むぞ。屋上に向かって思いっきり進んでいけ。敵がこちらに気がついても気にするな。先手必勝‼︎悪・即・斬。俺がリーダーをぶっ潰すから邪魔なものを消していけ。」
通称『ロボ娘』が真っ先に走り出し樋田がそれに続いていき俺はその次にいく。
遠くから戦闘音が聞こえてくる。ちょうどいいタイミングでこちらの音を消してくれているだろう。
マンションの階段をすぐさま見つけ出し駆け上がっていく。
自分の足音が以上に耳に入ってきていつの間にか現れていた緊張が階段の音を大きくして苛ついてしまう。
(邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ。なにもかもが邪魔だ邪魔だ。足音もこの階段だけの視界もインテリくそメガネもだ。俺が目指している夢までの障害が物理的なものならこの拳で破壊したい。)
そう思っているとふと頭の隅に宗斗が出てきてほんの少しだけモヤモヤが晴れた気がする。
あいつなら、宗斗ならこの先も今の最悪な状況も変えてくれる気がすると期待してしまう。
階段を上がり切った先には鉄の扉がある。
「その扉を豪快に吹き飛ばせ。」
ロボ娘がいきなり手からごっつい銃へと変化させて扉のノブを破壊し蹴り飛ばして開け放つ。
その扉の先には大人4人が驚いた顔をしてこちらを見ている。
「な⁉︎なぜここがわかった。索敵されたような気配は一切なかったのに。くそ、お前ら俺を守れ。俺はここから逃げっ。」
インテリくそメガネは驚いたが、すぐさま逃げようとする。それを俺からの指示を受けていた樋田がその進路を塞ぐようにムチをふるう。
「ここからは逃さないぜ。お前はここで全てが終わるんだ。覚悟しろよ。」
Dクラスの樋田以外の2人は早速敵に向かっていき敵リーダーから離していく。
樋田は中距離から敵を牽制して仲間のアシストといまだに逃げ出そうとする日々成の進路を塞いでいく。
俺はまっすぐにクソやろう、日々成に向かって走り出していく。抜刀して一歩一歩殺気を込めながら斬りつける。
刀を振り下ろして違和感に気が付く。斬った感覚が少しだけしかしなかった。
それもそのはずだ。日々成の体が風に煽られた紙のように揺れていたからだ。その揺れている体からこちらに向かってくる刀身が見えたのですかさず刀で軌道をずらして身を守る。
「幻覚系の能力か。けど、刀の使い方は全然だな。」
「それはそうだ。力ではなく知恵でここまできたのだからな。」
今度は揺らいでいる日々成の体が分裂して2人からいや、さらに分裂して4人へと増えた。
「ははは、高校生ごときが粋がるなよ。子供は大人に逆らってはいけないことをここで教えてやる。お前たちは学校のゴミなんだからな。」
4方向から偽物と本物が迫ってきたが問題はない。簡単に見つけることが出来るようにヒントを丸出しにしてくれているからな。
「武技『剛気斬』声と気配まではごまかせないようだな。」
瞬発力を活かして幻覚の中の本物からの攻撃が来る前にすれ違う形で背後に周りながら胴体を二つに分割する。
「な、なぜ。俺の場所がわかった。能力は確かに発動しているのに。」
「なぜって、お前の作り出す偽物は足音まではしないだろう。ドタドタと汚い足音はどれだけ知恵が回っても消せはしないからな。」
日々成が形成した幻影はゆらゆらと消えていき最後に本体が白目を向きながらゲームから脱落をする。
視覚を騙すという使い方によればかなり強烈な能力なのだがタイマン勝負をまともにしたことがないであろう日々成は本体を特定するための情報をばらまきすぎていた。
「これで俺たちの勝ちだ。一撃で決めるのはやはり気持ちいい。最高。」
刀を鞘にかっこよくしまうのと同時に勝利のアナウンスが流れてきた。