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やり直し公女の魔導革命 〜処刑された悪役令嬢は滅びる家門を立てなおす〜 遠慮?自重?そんなことより魔導具です!  作者: 二八乃端月


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第187話 戦争のはじまり


 バージル司令の言葉に、会議室は静まり返っていた。


 前に貼り出された地図。

 赤鉛筆で引かれた線。

 几帳面にメモをとるソフィアのペンの音だけが、やけに大きく聞こえる。


「バージル司令」


 私は斜め前に座る老将に尋ねる。


「それは、経験からくる勘ですか?」


 ソフィアのペンが止まり、皆が彼の次の言葉を待つ。

 出席者全員から注目された老将は、穏やかな顔で頷いた。


「今のところは」


 つまり、確信するにはもっと情報が必要だということ。


「判断するのにどんな情報が必要ですか? 分かることは全てシェアしますし、足りない情報はとりにいきます」


 私の言葉に彼は姿勢を正した。


「では、“根拠”を揃えてみましょう」


 そう言って地図に視線を向ける。


「今回動きがあった公国の各領地軍の、規模や兵種は分かるかね?」


「はい」


 情報室長のノアが手元の書類をめくる。


「現在までにこちらが把握している兵数は、北西地域がおよそ四千、南西が六千、北東が三千、計で一万三千ほどです。兵の内訳は、いずれも主力は歩兵で、そこに弓兵隊や騎馬隊、それにどの領軍も相当数の幌馬車と荷馬車を連れているようですね」


「幌馬車に荷馬車?」


「はい」


 聞き返す老将に、首肯するノア。


「ふむ……」


 バージル司令は地図を見つめる。


「何か分かりますか?」


 私が問うと、彼は「確証はありませんが」と前置きして話し始めた。


輜重しちょう……荷馬車が多いということは、ある程度の期間、部隊行動することを想定しておるんでしょう。そして幌馬車が運んでいるのは……おそらく魔法使いかと」


「魔法使い? 公国の魔法使いって、あの?」


「さよう。公国が誇る、長射程連携複合魔法使いです」


 バージル司令を目を細めた。




 公国の魔法使い。


 昨年の王城襲撃事件以来、竜操士の方が有名になってしまったけれど、元々公国で一番用心しなければならないのは魔法使いだった。


 北大陸の各国軍は、昔からそれぞれ異なる兵科に強みを持っている。


 ハイエルランドは魔導武具装備の歩兵。

 ペルシュバルツは騎兵。

 ウッドラントは弓兵。

 アルディターナは長槍歩兵。

 そしてブランディシュカは魔法使いだ。


 これにはそれぞれ歴史的背景があるのだけれど、ブランディシュカ公国の場合それは彼らが元々海洋勢力であったことに由来する。


 この世界の歴史を紐解くと、かつて海の戦いは船同士を接舷させての白兵戦が主だったという。


 風が強く足場が揺れる船上では、弓矢はなかなか当たらない。せいぜい火矢で火災を狙うくらい。

 だから直接相手の船に乗り込んで、剣や斧、棍棒なんかで打ち合っていた訳だ。


 だけど魔法技術の発達が、戦いの様相を大きく変えた。


 複数の魔法使いが協力して発動する連携複合魔法。その発明と発展により、魔法は威力、射程とも飛躍的な向上を遂げることとなった。


 単独ではせいぜい百mほどだった有効射程は数百mにまで伸び、火事を起こすのがせいぜいだった火球の魔法は、一撃で大型船を小破させるほどの威力を持つようになったのだ。


 連携複合魔法は手順が多く発動に時間がかかるデメリットがあるものの、その射程と威力は侮れない。

 特に海の戦いや攻城戦では。


 実際過去の侵攻では、公国の長射程魔法によりファルグラシムの外壁に大穴を開けられ、そこから市街に侵入されたこともあったらしい。


「北と西を海に面した公国にとって、魔法使いはまさに虎の子。港湾都市の守りのかなめです。そんな彼らを陸での演習のために一度に大量動員するとは考えにくい」


 バージル司令の言葉を、ライオネルが引き継ぐ。


「そこに大がかりな輜重部隊まで連れているとなれば、もう疑いようがねえな」


「……つまり、公国は『本気』ということね」


 頷く老将。

 私は一度だけ深く息を吐くと、顔を上げた。




「分かりました。『公国は我が国へ侵攻すべく軍勢を集結させつつある』––––そう判断します。ヴィクター、オズワルド」


「「はっ!」」


 新領の代行と隊長が即座に反応する。


「オウルアイズ新領全域に避難命令を発令します。直ちにエインズワース領への住民避難を進めて下さい。鉄道も避難民の移送に使います。ダンカン工房長、魔導列車の準備を整えてくれる?」


「おう、任せとけ」


 力強く頷くダンカン。


「ソフィアとロレッタは避難民の受け入れ準備を。状況が落ち着くまでエインズワース領の内務の全権をソフィアに委任します。私の指示は待たなくていいわ。必要なことを最速で実行して」


「承知いたしました。すぐに手配を進めます」


 ソフィアの落ち着いた声が心強い。

 私は再び地図へ向き直った。




「次に、軍の指揮についてだけど––––」


 私は老将を見つめた。


「バージル司令、総司令官をお引き受け頂けますか?」


「私がですか? ––––私は陛下から『いざという時はエインズワース伯の麾下に入り協力するように』との命を受けているのですが」


 珍しく驚いた顔を見せる老将。

 私は首を振る。


「それだと私が自由に動けないわ。指揮系統も混乱する。あなたを総司令として王国軍、新領の領兵隊、伯爵領の領兵隊の三軍が一体的に動いた方が絶対にいいと思うの。私は知恵と魔導具でみんなに貢献できるけど、人間相手の戦争の経験はないのよ。この場で一番戦場を知っているのは、あなただわ」


「ううむ……」


 唸る司令。

 私はうちの領兵隊長を振り返った。


「ライオネルはどう思う?」


 ふっ、と笑うライオネル。


「議論する迄もない。それがベストだろ」


「オズワルドは?」


「もちろん賛成です。司令はうちの連中にも慕われてますからね」


 新領の領兵隊長もニッと笑った。


「––––という訳で、よろしくお願いしますね。バージル総司令官」


 私の言葉に苦笑する老将。


「やれやれ。老人は労わって欲しいものですな」


「この戦争が終わったらね」


「おっさん。お嬢の人使いの荒さは折り紙つきだ。諦めな」


 私とライオネルから逃げ道を塞がれた老将は、観念したように頷いた。


「承知しました。至らぬ身ではありますが、総司令の任、お引き受け致します」


「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


 そう微笑んだ時だった。




 ゴンゴンゴン!!


 激しく叩かれる会議室の扉。


 直後、「失礼します!!」という声とともに扉が開き、血相を変えた通信担当士官が部屋に転がり込んできた。


「き、急報っ! ファルグラシムより緊急連絡です!!」


 ただならぬ様子に、全員の視線が彼に集まる。

 兵士は青ざめた顔で、信じられない報告を口にした。


「『北部グレイモール山脈、および南西部クレミージ森林にて魔物の大群を確認。指示を乞う』とのこと!」


「「…………」」


 その場が凍りついた。


 きっと、みんな思ったことは同じ。


 『またか』と。


 そして『まさか、このタイミングで』と。



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― 新着の感想 ―
既に一度やられた手であり、無事に乗り切った手ではありますが、有効であるのは変わりない 人間の兵だけでなく魔物も対処しなければならないとなれば、負け戦になるのは必定 なんとか魔物だけでも誘導して敵戦力に…
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