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やり直し公女の魔導革命 〜処刑された悪役令嬢は滅びる家門を立てなおす〜 遠慮?自重?そんなことより魔導具です!  作者: 二八乃端月


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第186話 演習という名の軍事行動

 

 一月六日。

 その報告が私の元に届けられたのは、ペルシュバルツの侵攻開始から三日後のことだった。


「具体的に、公国のどの辺りで動きがあるの?」


 私は立ち上がり、執務室の壁に貼られた地図の前に歩いて行った。


「こことここ、そしてここだ」


 ライオネルが指示棒で指したのは、ブランディシュカ公国の北西部、南西部、そして北東部。


「うちとの国境からずいぶん離れた土地ばかりね」


 ハイエルランドと接するのは公国の南東部だ。

 地図で言えば、右下がうちとの国境で、動きがあったのは左上と左下、右上ということになる。


「ああ、だがそれらが同時に動き始めたとなれば十分キナ臭い。演習を口実に各領の兵がどこに向かおうとしているのか、だが––––」


 ライオネルは公国の中央からやや南に位置する盆地を指した。


「集まった情報を総合すると、どうも目的地はここの可能性が高い。『ヴェスナ盆地』……公国で唯一の穀倉地帯。そして交通の要衝だ」


「南に行けばアルディターナ王国、南東に進めばオウルアイズ新領、という位置ね」


「そうだ。もっともアルディターナへの道は山越えになるから、向こうに大軍を送り込むつもりなら海路を使うだろう」


「なるほど。つまり遠い領地から順に兵を出発させて、ヴェスナ盆地で合流。大軍を以て一気に新領に侵攻しようとしている可能性がある、と。そういうことね。––––ヴェスナ盆地から国境まではどのくらいかかるの?」


「二日から三日というところだ。加えて言えば、新領の領都ファルグラシムまででも頑張れば五日で到達できる。かなりの強行軍になるがな」


「そんなに早く?!」


 背筋が寒くなる。




 ハイエルランドの戦力は今、そのほとんどが王国東部に振り向けられている。


 飛行騎士を擁する統一騎士団とオウルアイズ領軍も同様。

 うちの領地と真反対の南東部にいる。


 西部国境までは飛行靴フライング・ブーツで休憩なしで飛んだとしても丸一日はかかる距離。

 しかもそんなことができるのは王国でも有数の魔力持ちであるお父さまとお兄さま、それに王太子殿下と他数名だろう。


 普通の飛行騎士は飛行靴のために大量の魔石を消費しながら飛ぶから、補給と休憩を考えれば三日はかかる。

 歩兵部隊にいたっては、どんなに急いでも二週間はかかるだろう。


「侵攻……あると思う?」


「現時点で五分と五分。公国騎士団が動くとなれば確実に来るだろうな」


 私の問いに即答するライオネル。


「公国がペルシュバルツと通じている可能性は?」


「ある、と俺は思ってるぜ」


 いつも軽口を叩いている領兵隊長の厳しい眼差し。


 私は地図に目を戻した。




 今、王国南東部のカンターニャ地方では、敵に数で劣るハイエルランド軍が厳しい防衛戦闘を繰り広げている。


 騎兵を主力とするペルシュバルツの兵力は現時点で四万にまで膨れ上がり、それを八千のハイエルランド軍が迎え撃っている状態。


 こちらの戦力はカンターニャ周辺の領軍と、各領から先遣隊として送られた騎兵部隊、それに統合騎士団とオウルアイズ本領の飛行騎士たちだ。


 各領の主力たる歩兵部隊の大半は未だ移動中。

 いくらこちらに飛行騎士がいても、二個大隊百名ではできることは知れている。

 私が開発した魔導ライフルや機関銃が配備され始めているとはいえ、全体から見ればごく一部。


 五倍の兵力差は、正直厳しい。


 王都からの情報では、国境付近の住民を避難させた上で、待ち伏せと空からの奇襲による遅滞戦闘を行い、防衛線を下げながら戦っているらしい。


 各地からの援軍を待ちながら。




「とてもじゃないけど援軍を要請できる状況じゃないわね。今、下手にこちらに兵を振り向ければ、右往左往しているうちに挟撃されて国が滅びるわ」


 私はため息を吐いた。


「公国が最大戦力で攻めてきたとして、兵力差はどのくらい?」


「三万対三千」


「十倍の戦力差って……。笑えないわね」


「同感だ。だがまあ、まだ公国が来るとは決まってないんだ。俺らとしては今できることをするしかないだろう」


「そうね。公国の動きは王都に報告するとして−–––」


 私は地図をにらみ、思案する。


「…………」


 しばしの熟考の後、私は口を開いた。


「まずは新領の住民に避難勧告を行いましょう。公国騎士団が動いた時点で、避難命令に切り替えるわ」


「了解した。避難先はファルグラシムでいいのか?」


「領都から離れた集落の人はまずはファルグラシムへ。ファルグラシム周辺の人たちはエインズワース領へ。……こちらでも受け入れの準備が必要ね」


 うちの内務を動かすなら、ソフィアとロレッタに話をしないといけない。


 ––––いや、これはオウルアイズ新領とエインズワース、二つの領地の存亡に関わる緊急事態だから、


「すぐに幹部会議を召集します」


 私はベルを鳴らしてアンナを呼び『みんなを集めるように』というソフィアへの指示を託したのだった。



 ☆



 その日の夕方。

 ココメルの屋敷の大ホールには会議机が並べられ、うちの家門の幹部が集まっていた。


 エインズワース領からは、領兵隊長ライオネル、副隊長ヘイデン、情報室長のノア、秘書官のソフィアとロレッタ、ココメル工房長のダンカン、そして私とアンナ。


 オウルアイズ新領からは、領主代行のヴィクター、領兵隊長のオズワルド、ハイエルランド王国軍グラシメント派遣軍のバージル司令。

 ちなみに新領の三人には、魔導列車を使って急遽こちらに来てもらった。


 さらに今回は特別にオブザーバーとして『氷のクマたち(アイゼビョーナ)』のみんなにも参加してもらっている。


 外国籍の彼らの会議参加については少し悩んだのだけど、現状を知った上で彼ら自身がどうするかを決めてもらう必要もあったので、参加してもらうことにした。


 いくら機密に関わる事項とはいえ、私の大切な仲間に何も知らせない訳にはいかないし、知らせるならできるだけ正確な情報の方がいいだろうから。




 全員が着席したところで、私は前に出た。


「みんな、集まってくれてありがとう。急な会議でごめんなさい。緊急に話し合わないといけない情報が入ってきたの。––––ノア室長、東部の戦況を踏まえて状況説明をお願いします」


 私はそう言って、情報室長のノアに目配せする。

 ノアは頷き、立ち上がって一礼した。


「失礼致します。エインズワース家門の情報室長、ノア・ブラックウェルと申します。元々はオウルアイズ騎士団に所属しておりましたが、侯爵様と伯爵様の命により、昨年末より家門が必要とする情報の収集と分析に携わっております」


 そう。

 物腰柔らかなノアは、こう見えて元々オウルアイズの騎士だ。


 ただ本人が商家の次男坊ということもあるのか、剣を振るよりも派遣された先での情報収集や交渉ごとに長けていて、そこを見込んだお父さまが彼を情報室長に抜擢したのだ。


「まずは東部の状況についてご説明します」


 ノアの説明は簡潔でとても分かりやすかった。


 前に貼り出した地図に部隊を表す画鋲を刺しながら、ペルシュバルツとハイエルランド、そして未だ動きのないウッドラントの部隊の位置と状況を説明してみせた。


 そして、本題に移る。


「さて。東部はこのような状況ですが、今朝方、公国より新たな情報が入ってきました」


 そう言って、今度は公国の領土に色の違う画鋲を刺す。


「『演習を実施する』ということで、公国の三つの地方の領兵が召集され、移動を開始したようです。彼らの動きから予想される集結地点は、ここです」


 ノアが指示棒でその場所を指し示すと、皆がどよめいた。


「ヴェスナ盆地、ですか」


 新領の領主代行、ヴィクターが白眉を顰める。

 彼も元々は本領で長年執事長を務めた人だ。


 数年前に高齢を理由に引退していたのだけど、お父さまはその経験と能力、そしてエインズワースへの忠誠心を高く買っていて、三年という期限つきで領主代行を引き受けてもらうよう口説き落としていた。


「本当に演習なんでしょうか?」


 新領の領兵隊長を命じられたオズワルドが隣に座っている元上司に尋ねると、ライオネルは首をすくめた。


「さあな。だが、もしもの時のことを考えて準備はしておくべきだろう」


「…………」


 重苦しい空気が漂う。


 その時、それまで静かに話を聞いていたバージル老司令が口を開いた。



「これは、来ますな」



 そのひと言に、全員が凍りついた。




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― 新着の感想 ―
ロシアのウクライナ侵略がそのパターンだったよね。 ベラルーシで共同演習とか言いながら、キエフ(キーウ)に侵攻したのだし。 日露戦争とか大東亜•太平洋戦争の戦力差も5〜10倍あったよねぇ。
やはりオウルアイズ新領を、というかレティシアを潰しに来るんでしょうね 他国より数世代は進んでいる帝国の魔道具技術 それに唯一追いつき、追い越す可能性を秘めるレティシアは彼らにとって絶対に排除しなければ…
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