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第十三話 「機械に心は生まれますか?」






……



…システム、レッド。機能維持に重大な損傷を確認。

右腕、肘部より欠損。

脊柱骨格、胸椎部亜脱臼。

脚部装甲粉砕、負重不能。

頭蓋内メインボード基底部に亀裂発生、絶縁装置損傷。

動力用バッテリー外殻損傷。B−012機体内への漏電の可能性あり。外部への漏電の可能性現時点なし。


システム、レッド。機能を維持できません。









 左腕だけで瓦礫を押し退ける。押し退けることは出来たがその勢いのまま私は仰向けに倒れた。


脊柱部断裂。


 異常ステータスが増えた。下半身の連動が絶たれ、左腕のみの私は最早起き上がることも出来ない。これはこの機体としての私の死が近いことを意味している。だが私はマシナリーで、例えこの機体が修復不能だとしても大きく問題にはならない。



 しばらく黒煙上がる宙を見上げていたが、小さな振動があって私は目線を胸部に落とした。



……


 ああ、私には最後まで心は生まれなかった。

 私が造られた理由は人の思考機能をまね、人との交わりを経て、経験を積み重ねることによって精神活動、つまり心が生まれるまでの過程を明確にすること。

 だが、私には最後までわからなかった。


 私たち機械には心は生まれない、それが私のたどり着いた結論。



…どうして私は目の前にいる少年を泣かせてしまっているのだろう。彼にはまだ未来がある。私は機械だ。例えこのような事故にあったとしても彼らのような有機体よりも、修理可能で強靭に構成されている我々の方が生存する可能性が高い。


…私がしたことは間違っていない。だがしかし、私にしがみついたまま少年は泣いている。助かったことを喜んでくれていない。きっと私は間違えたのだ。

理論的に間違っていなかったとしても、きっと私は間違えたのだ。





心がわからなかったから。








…くやしい。

 どうして、機械には心が生まれないのだ。

 どうして流れる涙を止めることができないのだ。

 この子は私と出会った時から私を兄と慕ってくれた。

 そんな子の泣き顔を見たくなど無いのに。


 何とか泣き顔を止められないか。

 私は口角を上げて、笑顔を作る。辛うじて動く左腕で修一の頭を撫でた。かつてお母さんが私の頭を撫でたように優しく、落ち着かせるように。

 だけど修一は笑ってくれない。むしろ一層哀しそうな顔をした。


……どうして笑ってもらえないのだ。


破顔にならない私が憎い。変わることが無い機械が憎い。

私は… どうして機械として生まれたのだ。

変われない機械として生まれた私には心が、…心が最期までわからなかった。


……引き裂かれそうだ。






……


…そうか。ようやく理解した。どうしてこの子が泣いているのか。

ならば私には、この涙を止めることが永遠に叶わない。






 もう、私の予測を超えるほどの衝撃を受けたこのボディは機能を維持することができない。

 程なくして私のメモリーもこれ以上更新されることもなく、そして消失する。

 バックアップは常に取り続けられてきたので、これまでの膨大な私の記録が失われることは無い。それを元に私と同じ目的で別のボディが作られるのであれば、私の後任として機能し、いずれ心が生まれる過程を明らかにできるのかもしれない。





だが、それは私ではない。



私では、ない。







 このボディが触れたもの、このボディに触れたもの。微小な傷、汚れ、僅かな軋み。私の記録のバックアップに残されることが無かったような些細なもの。そんなすべてがこのボディには残されている。それらがすべて、私とともに無くなってしまう。

 そして今日目にした、私から離れ、自分で一つのことを成した修一の姿もバックアップにとられていない。


次へと残されることなく、今の私とともに、無くなってしまう。


こんなに嬉しかった記録が…




……


だから、次に作られる私は、私ではない。









それが… 何より… 




悲し…






… … … …








 ご読了ありがとうございました。

 最初から最後までれいちぇる作品の中でもやや異色な仕様の子だったわけですけど、お楽しみいただけたなら幸いです。

 突然このような終わり方をして心象を悪くしたかもしれません。もしそうでしたらお詫びいたします。


それではまたいつの日か。れいちぇるでした〆


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