第24話 終業式
翌朝待ちに待った終業式を迎える。ここ最近のあらぬ噂やいつの間にか私の周辺に住み着いた男子達から解放され、これでしばらくは誰にも会わずにゴロゴロできるとか最高なんじゃないでしょうか?しばらくは見納めとなるといつもの通学路も感慨深い。あきらめたのか、理解したのか上りと下りで電車は違うものの似た時間帯に来る日富美が通学途中では話しかけてこなくなったのは僥倖です。それでもあれ以来周りの目が気になります。でも噂も春休みをまたげば収束していくでしょう。だいたい受験生です。そんなに暇ではないはずです。私はいつも通り素知らぬ顔で身なりを整え教室に入る。先に来ている都花に挨拶をして何事もなく三学期最後の日を過ごすつもりでした。しかしながらそれは私の都合であり、他人の行動は制御できないのです。
宗磨 「そうそう。春休みどうするよ?」
なぜか自分の教室に行かずに違う教室に入ってきてあたかも当然のように人の時間に予定を入れようとする厚かましい輩に対し、私の中で感情が沸点に達してしまい荒い言葉を発してしまいました。
紗希 「話しかけんな。」
いつもと違う声のトーンに気付き談笑していた瑞希と都花もこちらを向き緊張が走る。
宗磨 「え?」
乱暴な言葉を吐いた私は多少の後悔はあるものの輩と話す口は持っていませんとばかりに顔を背けスマホを取り出す。
瑞希 「紗希ちゃんどうしたん?」
私の変化に気づいた瑞希が声をかける。こういう時は気づかれるのもうざったい。何も答えたくなかったがそれもよくないと思い手短に話す。
紗希 「特に。」
瑞希も『特に』で納得はしなかったと思いますが空気を読んで放っておいてくれました。
由早 「おはよう。ん?また拗らせてる?」
重い空気と完全に停止している日富美をよそに由早がいつも通り元気に登校してきた。『拗らせている?』は百歩譲って認めるとして『また』ってなんですか?もっと拗らせますよ?
瑞希 「沸点が分かんなかった。」
何故か救いを求めるように由早にすがる。
由早 「お姉ちゃんに詳しく話してみ。」
いや、確かに二ヶ月ほど年上でしょうけど、ってか瑞希はあげませんよ。私の妹です。瑞希が由早に話しかけている間に男子の制服が顔を背けて伏せている私の視界に入った。
宗磨 「ごめん、気に障ったんやったらあやまるから。何があかんかったん?」
こんな性悪放っておけばいいのに、関わらなければ誰も傷つかないのに。
紗希 「・・・」
私は何も話さず相手の顔も見ず席を立ち廊下に出る。どうしようもない空気が私の周りに充満する。こんなことがしたいわけではないのに。
宗磨 「いやいや、それじゃあ分からんから。」
私の後をついてくるそのこと自体が煩わしい。この行為自体が昨日の茶園場の質問につながるのかと思うと憎悪しかない。追いかけてこられないよう女子トイレに入る。暫くアプリをポチポチしてからトイレを出ると諦めた様で誰もいなかった。廊下まで出ると由早が待っていてくれたようで頭をガシガシと撫でられた。
由早 「機嫌悪いなぁ。」
機嫌が悪いと分かっていて御髪を乱してくるとか良い度胸ですね。
由早 「皆体育館行ってもうたよ。」
ああそうだ今日は終業式ですね。気分が優れませんし私が出なくても分かんないんじゃないでしょうか?
紗希 「さぼたーじゅる。」
決め顔で由早に伝えましたが、私のささやかな抵抗など意にも介さず由早に引っ張られて体育館まで連れてこられてしまいました。瑞希と都花の周りには例の男子達が群がっていたのでなるべく気づかれないように席に着いたのですが、目ざとく見つけた瑞希が手を振ってくる。都花も手を振り嫌な予感がしてくる。案の定日富美や上の丸が便乗して手を振る。この空気の読め無さはもはやSSRランクのレアキャラ。ってことは何気に結構いるって事ですね。しかしながらどうしても彼らとは仲良くなれる気がしない。式が始まると壇上で先生方が何やらしゃべっていましたが耳に入ることはなくもやもやした感情だけが巡っていました。そして全く耳に入ってこない終業式はいつの間にか終了し、気づけば周りの生徒達は起立し壇上の校長先生に礼をして解散するところだった。静けさの緊張から解放された館内は解放感でざわついていた。ぼーっとしていると瑞希がこちらに向かってきた。
瑞希 「お姉ちゃん行くよ。」
瑞希に催促されてようやく立ち上がる私。その後ろから不意に声をかけられた。
宗磨 「さっきは、ほんまごめんな。」
この一言が私の引き金を引いた。
紗希 「もう私に話しかけんなって言ってるでしょ!」
やってしまった。力が抜けた私はて両手で顔を覆いぺたんと椅子に座ってしまった。館内に響いた私の声は注目を集めるのに十分な声だった。館内にいた生徒達の視線を集めざわつく館内。教師たちも何事かとこちらに歩み寄ってくる。
教師 「おい、金ケ崎どうした?大丈夫か?」
私は泣いていたのだろうか?恥ずかしさから?苛立ちから?情けなさから?
紗希 「大丈夫です。」
すくっと顔を見られないように立ち上がった私は一言だけ返答して人の少ない出入り口へと向かった。
教師 「おい・・・」
由早 「私がついて行きまう。」
こんなシリアスな場面でかまないで下さいよ由早さん。でも少し楽になりました。小走りで近寄ってくる由早に肩を抱かれて私は体育館を後にした。それから瑞希たちが何か言ったのか、公の場で言われたのが堪えたのか日富美は姿を現さなかった。
今年度最後のHRも終了し、しばらくぶりに4人で帰ることになった。男子たちは気を使ってくれたのか愛想をつかしたのか、今日は別に帰るという。元々は由早が仕組んだ事なのに(推測)由早も今日は別々に帰ろうといっているみたいです。同じクラスの上ノ丸は目が合い「じゃあ。」と短く挨拶したが、それは由早達にもしているようだった。谷八木は瑞希と帰りたかったのでしょう、廊下で見切れていました。ばればれです。下手くそです。
由早 「じゃあ私たちも帰ろっか。」
由早の一言で帰り支度を始めたが昇降口まで何も話さないまま来てしまいました。
由早 「もう関係ないかもやけど通知簿どうやった?」
どうやら気を使ってくれているようで全く別の話題で話を回そうとする由早。
都花 「うーん。世界史と地理が弱いかも。」
歩きながら通知簿を細く開き自己分析する都花。歩き通知簿はいけませんよ。危険です。
瑞希 「私はぼちぼちかなぁ。」
でました、関西人の『ぼちぼち』便利な言葉ですね。この場合『上々』という意味でしょうね。
都花 「良かったね。」
自分の事の様に喜ぶ都花に仲がいいというところが窺えます。
瑞希 「あっ。」
歩き通知簿をしていた瑞希が躓いた。だから言ったじゃないですか。歩き通知簿は危険ですって。
由早 「大丈夫?紗希は?」
倒れそうになった瑞希を由早が支えて事なきを得たようです。都花は歩き通知簿をしていたので瑞希の救出には間に合わず後から『大丈夫?』とだけ声をかけた。
紗希 「ぼちぼちですよ。」
この場合の『ぼちぼち』は良くも悪くもない『普通』という意味です。
由早 「そっかぁ。ぼちぼちかぁ。」
ニュアンスだけで受け取っていただいたようです。他愛もない話を続けて駅に着くと都花が手を握ってきた。そうだ都花とは暫く会えない。次に由早の手を握り最後に瑞希の手を握る。
由早 「なんかもう会えないみたいやね。」
私もそう思いました。何このフラグっぽいの。由早が意地悪そうに言うと都花は泣き出しそうになった。たった2週間程度ですよ。そうだ、あと1年過ぎるとどれだけ由早と会えるのかわからない。そういう気持ちなのでしょうか?
瑞希 「連絡するから。大丈夫やで。」
感極まったのか都花は瑞希の胸に飛び込んだ。
都花 「会えないのは寂しいな。」
春休みや夏休みを経験しているはずなのにどうしてなのでしょう?瑞希も予想外の展開に少し戸惑っているようです。
瑞希 「会いに行くから。」
おお。頑張ってください。ZOOOMじゃ駄目ですかね?
都花 「私ん家遠いよ?」
都花って結構面倒くさい系女子ですかね。
瑞希 「瑠希ちゃんに車出してもらうから。」
そこ他力本願なんだ。それでも納得したのか約束とばかりに小指をつなぎ、ぶんぶんと腕を振ってハグをした。都花と別れた後も二人の会話は続いているらしく瑞希のLIMEの画面は忙しく新着のメッセージをアップしている。
紗希 「忙しそうですね。」
瑞希 「なんかね。もう後1年切ったと思ったら感情があふれちゃったみたい。皆にごめんねって。」
さっきまでとは打って変わってクールな瑞希さんに戻りましたね。
由早 「そうか・・・もう1年ないんやね。」
由早の言葉に昔を振り返ってみた。保育園から小学校、ずっと由早、瑞希がいた。中学からは都花も加わって楽しかった(仲介役の人はモザイク表示)。高校・・・3学期から変な奴らが加わりましたね。(顔がよく思い出せない4人組もモザイク表示)うーん・・・迷惑だったけど、煩わしかったけど、ほんの少し楽しかった様な気がしないでもないですね。色々考えているうちに電車は最寄り駅に到着した。電車のドアが開くと周りの景色など目に入らないほどふらりと私は心もとない足取りでベンチまで移動し座り込んだ。
由早 「どうしたん?」
由早が慌ててハンカチを私の目に押し当てる。どうやら私は泣いているようだ。
紗希 「私は悪くないのに・・・」
その先の言葉を吐きたくない。私はどうしようもない嫌悪感、孤独感、罪悪感どれが正解とも言えない負の感情に困惑していた。こんなことは初めてです。置いていた鞄をそっと瑞希が拾い、小さく『後よろしくね。』とささやいて私たちを残し階段を駆け上がっていった。
由早 「紗希は悪くないよ。頑張ったね。」
ちょうど階段と階段の間にあるこのスペースは普段からあまり人が通らない。今日は時間が早いこともあってホームにも人はまばらだ。瑞希が気を使ってくれたのか由早と二人だけで話すのは久しぶりです。由早の言っていることはよくわからない。慰めてくれようとしているのはわかるのですが。そもそも私が自分の言っていることが分からないのです。怪訝な表情でハンカチと指の間から由早を見る。
由早 「わかるよ。何言ってるかわからないんでしょ?」
きょとんとする私に由早は続ける。
由早 「それは良い事だと思うよ。これだけ紗希の事わかっている私が行ってるんだから信じて。紗希は悪くない。そして頑張った。」
よくわからないながらも暫く由早に介抱されて私は落ち着きを取り戻した。
紗希 「ありがとうございます。そろそろ。」
そういうと由早が先に立ちあがり手を差し伸べてくれた。おかんスキル。
由早 「じゃあいこっか。」
今日は塾が無いらしく一緒に帰ることになった。小腹の空いた私たちは駅前のパン屋でクリームパンとカレーパンとお土産のメロンパンをそれぞれ購入し頬張りながら帰路を進んだ。
由早 「懐かしいね。」
小学生の頃私と瑞希と由早で、よく塾帰りにパンを買ってもらい頬張りながら帰った。行儀はよくないですが、美味しかった事を覚えている。しかしそのパン屋はもうない。
由早 「パン屋無くなっちゃったね。」
由早も同じことを考えているみたいだ。
紗希 「少子化の波には勝てませんよ。」
由早 「あそこ塾の生徒で持ってたからね。塾も無くなっちゃったしね。」
そう思い出の場所はもう無い。月並みに言うなら「形あるものはいつか無くなる」です。
由早 「でもさ、新しいパン屋できてるし、美味しいし、紗希ともこうやって食べられているわけだから。一つの形にこだわらなくてもいいんじゃない?」
由早の言っていることはわかります。でもそれは結果論であって、変わっていくことに私は不安を覚えます。あ、そうか私は不安だったんだ。人付き合いも、変わっていく環境にも私は向き合えていなかったんだ。
由早と別れ家に着いた。昼過ぎの自宅には先に帰っていた瑞希以外誰もいない。
瑞希 「お帰り。お昼どうする?」
私は購入していたメロンパンを無言で差し出した。
瑞希 「あ、ありがとう。どうだった?」
私の表情が暗かったのか躊躇しながらパンを受け取った。何が聞きたいのかわからないがたぶん由早の事だろう。
紗希 「私は不安なのですよ。」
そう言って私はルームウェアに着替えるため自室に向かった。
瑞希 「え?それだけ?」
それから数日後、瑞希が買い物に行きたいというので珍しく地元のデパート「ダイワテイ」に出かけた。16時を回っていたが特に何を買う様子もなくトングでパンを買ってぶらぶらと商店街を歩いた。
瑞希 「この前のお返しね。」
メロンパンのことを言っているのでしょうか?でしたらもう少し近場がよかったです。でも私の好きなパン屋を選択してくれたことには感謝です。ハード系のパンはこの辺ではここが一番お気に入りです。
紗希 「どこまでいくのですか?」
帰るのかと思っていたら駅から随分と離れたところまで来てしまいました。
瑞希 「土手まで散歩しいひん?」
遠いと思いましたが案外近く、河川敷に降りることができました。適当に芝生の柔らかそうなところを見つけると瑞希はレジャーシートを広げて座り込んだ。「ん。」と横を手でとんとんと叩いた。どうやら私に座れと言っているようです。もはや単語ですらない。たまには何もなくただぼーっとしている時間は悪くない。しかし18時をまわると急に暗くなり気温が下がってきた。
紗希 「そろそろ。」
言いかけた私を制して瑞希は鞄を開けた。
瑞希 「まぁまぁ、せっかく持ってきたんだから飲んでよ。」
鞄から取り出したステンレスボトルには温かいコーンスープが入っていた。どうやらパンを買ったのも遅くなるのも瑞希は想定内のようだ。また何か企んでいますね。統計的因果推論からして良い事であるはずがありません。
紗希 「遅くなると補導されますよ。」
予想されるのは4人組(顔モザイク)。この前の事があって心の準備ができていない。早急に撤退したい。
瑞希 「おお、そう来ましたか。我姉ながら面倒くさいね。」
瑞希ちゃんお姉ちゃん聞こえてますから。そういう事は心の中で呟いて下さい。
瑞希 「紗希ちゃん。匿名希望さんからLIME来るみたい。既読だけつけてあげてね。」
そういえば一時間ほど前から瑞希のLIMEが騒がしい。瑞希が誰かにLIMEを返信して数分後私の鳴らないスマホがLIMEの着信を告げた。基本普段は開かないのですが新着のポップアップが「☆☆☆デコナイ☆☆☆無料レアガチャ情報。下記URLにアクセスして」となっていた。ああ、運営ですかと油断して開く。
「☆☆☆デコナイ☆☆☆無料レアガチャ情報。下記URLにアクセスして・・・・・・・・・・・・・本文 君のことが好きな男子からの精一杯の想いです。受け取ってあげてください。」
そう言えば運営からなんてLIME来たことなかったです。してやられました。LIMEに既読をつけるとそれが合図だったかのように川の対岸から一筋の光が空に上がり見上げたキャンバスに刹那の灯りを点した。少し遅れて「パン」と言う乾いた音と共に季節はずれの花火が暫く充分な程に繰り返し明かりを灯していた。気が付くと豪華な季節はずれの灯りに数人の人だかりが出来ていて私は訳も分からずまた涙を流していた。
春休みは残り僅かになっていた。私は由早の誘いすら断り家で過ごす日が続いていた。あんなことをする心当たりは人付き合いの少ない私には数人しかいない。私が何気に花火が好きだということを覚えていてくれた。ネットがあるとはいえ季節外れで調達が大変だったと思う。経済的負担も学生の身分であれば相当なものだと思う。何?セレブでもいるのですか?そういえば、私は彼らの事を何も知らない。精一杯の想いとやらに答える術を持たない私は自分の殻に籠っていた。私の負のオーラに瑞希すら萎縮させていた。それでも何かを、説明の出来ない何かが、不安という感情よりも、申し訳なさという感情よりも、私の中で何かをしなければという感情を生成しつつあった。
そして高校三年生の始業式を迎えた。二十四節気では清明の頃。万物が清々しく明るく美しい頃。新しく年度を迎えるには打って付けではないでしょうか。今日は久しぶりということで由早も同じ電車に揺られていた。いつもの時間帯。いつもの風景。あと一年しかない私の中にある「いつもの」。感慨深く久しぶりに学校の最寄り駅の改札を出ると片耳イヤホンをした見覚えのある男子生徒が前を通り過ぎる。一瞬目があった様に思えましたが何もなかったかのように通り過ぎる。あ、スルーされるのも癪に障りますね。我儘ですか?気付いた由早が苦笑いを浮かべ心配そうにする。
由早 「まぁ、気にしなくていいと思うよ。」
瑞希 「だねぇ。」
瑞希も気を遣って相槌を打つ。私は少し駆けて男子生徒に声の聞こえるであろう位置まで詰め寄った。その行動は瑞希と由早の意表を突いたようで二人は呆気にとられていた。
紗希 「おはようございます。」
私は見覚えのある男子生徒に声をかけた。男子生徒はちらっとこちらを気にしたが自惚れず自分の事とは思っていないようです。まどろっこしいなと思いながら私はもう一度一回り大きな声で声をかける。
紗希 「おはようございます。」
周りに誰もいない状況で流石に自分ではないかと思い、信半疑ながらも男子生徒は振り返る。
宗磨 「え?」
由早か瑞希に私への接し方についてくぎを刺されているのか、初めての私からの挨拶に戸惑っているようです。そしてどや顔で注意してやりました。
紗希 「挨拶は『え?』じゃなくて『おはようございます。』ですよ。」
私は外の世界に一歩踏み出せた気がした。
まだまだ続きが書きたいところですが、一旦ここで終了します。ご拝読ありがとうございました。
あー時間が欲しい。




