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第19話 白い日の攻防

放課後を迎えるまでは私の自意識過剰な心配をよそに平穏に時は進み特にイベントがある日とは思えない日常を過ごしていた。そういえば女子に何やら渡しているような光景は見当たらず、我校でのこのイベントの浸透率は低そうですね。そんなイベントに自意識過剰にチキンな私はなんだかなですね。

由早 「じゃ部室行こうか?」

何かいつもと違う静かで業務的なアプローチに違和感と恐怖を覚えます。いよいよ由早計画発動ですか?

紗希 「今日は図書室で勉強したい気分ですね。」

由早 「私は指したい気分。誰が将棋部に誘ったんかな?」

ここまで強引だと絶対何かありますよね。行きたくないし、今日一日由早と喧嘩してもいいですが、私が行かなかったことで由早が茶園場に頭を下げるのは私としては面白くありません。由早の事なんか知った事じゃないですがなんとなく。なんとなくですよ。

紗希 「いろいろ咀嚼して聞きますが、この前の女子みたいに言いがかりつけられないですよね?」

今思い出しても腹が立ちますね。私が何をしたというのですか。

由早 「さぁ?紗希ちゃん次第ちゃう?」

やっぱり何かあるのですね。取り繕わず、ばれてもいいという口ぶりが逆に怖い。

紗希 「その返答は認めるという事ですね。」

由早 「もう、分かってるくせに面倒くさいな。」

え?面倒くさいと思うのは私の方なのになんで由早に言われないといけないのですか。

紗希 「面倒くさいのは由早ですよ。面倒くさければしなきゃいいのに。」

由早 「はいはい。行くよ。」

本当に面倒くさそうですね。イラッとします。仕方なく半ば諦めてついていく。部室の前に着くともうすでに何人か来ているらしく雑談と駒を盤に打ち付ける「パチン」という小気味良い音が響いていた。ここで意識して茶園場の事を意識すると負け。という思考がすでに負け。なんでだろう私ってすごく小者。

由早 「こんにちは。」

部員 『ちーっす。』

由早が挨拶をして入ると数人が挨拶を返した。

紗希 「こんにちは。」

部員 「・・・」

私が挨拶をすると部員の挨拶に挨拶を返した形になったと認識されたのか挨拶が返ってこない。嫌われているわけじゃないですよね?何このアウェー感。

静臥 「こんにちは。」

誰も返さないと思っていたところに返ってきた挨拶に少し動揺する。私の挨拶への返しだしこれに返す必要はないですよね。失礼ではないはず。誰も席を立つ気配はないのを確認して、棚から盤を取り指定席で広げる。鞄の中から駒を出し盤の上に広げると由早が絡んでくる。

由早 「なんやかんやで駒持ってきてんねんな。」

紗希 「鞄から出してないだけですよ。家では相手いないのでアプリですし。」

別に乗り気じゃないのに変な誤解をしないでください。後輩ちゃん達とも対局し何事も無く時間が過ぎていく。由早が投了し感想戦を行う。教室の時計の針は16時半を過ぎていた。今日は頗る調子が良かった。そろそろ待ち合わせの時間もあるので片付けをしていると茶園場を先頭に数人の男子がこちらに向かってきた。もういい予感は何一つしない。

静臥 「この前はありがとう。はいお返し。」

そう言うと茶園場は似合わないかわいいラッピングの袋を手渡そうとする。「来た。」と思いどうやってこの場を回避しようかと周りに目をやると他の男子が由早と後輩ちゃん達にも同じものを渡していた。あ、やられましたね。チロルの逆でこれは私が受け取るのが自然なパターンの奴ですね。

紗希 「いえ、お気遣いなくですよ。」

しかし、定跡にはまらないのが私。どうですか?この返しは予想していなかったでしょう。

由早 「面倒くさいから早く受け取って。」

冷ややかに言い捨てる由早に委縮し返事をする。

紗希 「はい。」

怒られてしまいました。この件に由早が絡んでいるのかは不明ですが後輩ちゃん達は素直に受け取りました。遠慮してくれれば私も回避できたのに。と人の努力を無にする算段を後輩に頼るとか駄目な私。

由早 「お礼は?」

由早ママ発動中。表情は笑っているが、目が笑っていない。包み紙をしっかりと片手で持ち、両腕を胸の前で組み私より背が低いのに威圧感のある仁王立ちで私を追い詰める。

紗希 「ありがとうございます。」

静臥 「どういたしまして。ごめんね、なんか無理やりで。」

そう思ったら渡さないでくださいよ。

由早 「ほら、自然でしょ?なんか言われても理屈合ってるし。」

その点だけは間違いがなさそうですね。全員にチョコを渡してそのお返しを全員にした。義理の中の義理。形式的なものという点では問題なさそうです。

紗希 「そうですね。」

多分この後にまっている瑞希のもなるべく自然な形で受け取らす算段がされているのでしょうね。

静臥 「渡すのだけでもドキドキするね。」

知らないですよそんなの。乙女ですか?

紗希 「それよりも、瑞希と持ち合わせなので失礼します。」

静臥 「お疲れさん。またね。」

流石爽やかチャラメン引き留め工作をしない所は良いですね。その点だけは良いと思いますよ。


貰った包みの中も確認せず、部室を後にした私と由早は瑞希と都花が待つ校門へと向かうため昇降口へと足を運んだ。屋内にいて気が付きませんでしたが雨が降ったらしく気温がぐっと下がっていた。

紗希 「寒っ。」

思わずコートの襟を掴んでコートの前を締めて背を丸めそうになった。春分間近になり日は長くなりつつあるものの、。北風と通り雨が気温を奪ってまだ冬に力があることを誇示していた。

由早 「腕組んであげてもええよ。」

私から組むと今後の免罪符になりかねないリスクやら上からの態度が腑に落ちないので丁重にお断りします。

紗希 「いえ、結構です。」

由早 「ほんま素直やないんやから。寒いんやろ。」

そんな事を意にも介さずぐっと私の腕を引き寄せ体に押し当てる。確かに温かい。幸せ。

由早 「どないや。」

温かいでしょと言わんばかりにドヤ顔で私を見据える。

紗希 「温かいです。」

由早 「素直でよろしい。それをほかの人にも出来たらええのに。」

紗希 「素直だからこうなっているのですよ。むしろ人付き合いが誰とでも上手くいくなんて妥協と虚偽の賜物ですよ。」

ここで都花がいれば苦笑してくれたのに。

由早 「あながち間違えてはないと思うけどひねくれた解釈やね。見ないの?」

お返しの事を言っているのでしょうが特に興味があるわけでもなく見ようとは思わなかった。それよりもひとつ終わったという達成感の方が大きかった。

紗希 「由早も同じ物もらってるじゃないですか?」

あなたは見ないのですか?と問い返してみた。

由早 「あ、私のは義理やから。」

あ、理解。包み紙はほぼ同じで中身が違うのですね。貰った私が気付いてなかったのですから仕組んだ本人たち以外は気付いていないはず。由早さん策士再び。しかし義理と本命があるのですかね?ホワイトデーってバレンタインのお返しとか返事ですよね。本命とか言われても「え?」なんですけど。でも誰の口からも本命とは言われてないのでこの推考は早計ですかね。

紗希 「いらない物だったらここで捨ててしまいますよ。」

由早 「人としてどうかと思うわ。」

呆れ顔の由早に体を寄せられて校門へと向かう。どちらかの性別が違っていれば今ある問題も解決するのになと思いましたが、その場合出会ってない可能性が大きいので現状でよしとしておきます。

瑞希 「ほら、大丈夫やったでしょ。」

校門に到着すると瑞希が心配そうにしている都花の肩に頭を預けて満足そうにこちらを見ている。

都花 「ほんとだね。流石由早ちゃん。」

紗希 「何の話ですか?」

断片的にしか聞き取れませんでしたが私の事を言ってそうだったので興味津々。

都花 「紗希ちゃんが怒ってないかな?と思ったんだけど、由早ちゃんと仲良さそうにやってきたから良かったなって話だよ。」

なんか私が短気で直ぐ怒ると思われているようで恥ずかしい。面倒くさい子ってわかっているのに付き合ってくれて有難うございます。ですが「流石由早ちゃん」の件は私が飼い慣らされているようで何だか複雑です。あながち間違いではないんですが。

瑞希 「どうしたの?」

さっさと要件を終わらしたい私がきょろきょろと辺りを見渡しているのを見て瑞希が訪ねた。

紗希 「いえ、上ノ丸君と日富美君がいないので。」

瑞希 「えぇ?期待してたの?」

とぼけた表情の瑞希。あ、しまった。トラップだった。流れ的にいるであろうという思い込が口からこぼれてしまいました。これじゃ瑞希の言う通り期待していたみたいじゃないですか。瑞希の罠なのでしょうが。

紗希 「いえ、警戒しているだけですよ。」

瑞希 「仕方ないなぁ。ちょうどサッカー部とテニス部終わったみたいだから合流しよっか?」

わざとらしい「仕方ないなぁ」にイラッとする。終わったみたいってそんなことが分かる瑞希の情報網すごい。情報源は谷八木と日富美でしょうか?いえ、別に連絡とかいらないですけど。

紗希 「いえ、結構です。帰りましょう。」

瑞希 「そっか。残念。でも氶君が私に渡したいものがあるらしいからちょっと待っててくれる?由早ちゃんいい?」

あれ?やけに簡単に引き下がりますよね。ん?断ることも予定調和で谷八木に呼ばれているのが確定しているという前提の行動?

由早 「私は構わないよ。」

あ、由早も巻き込まれた。

瑞希 「じゃあ、いっちゃん、由早ちゃんちょっと待っててね。」

あ、断ったのに状況変わらなかった。どうせこのまま時間が過ぎて「あれ?待っててくれたの?」とか空々しい事を言いながら上ノ丸か日富美がくるパターンですね。というか、この寒空に待たすとか瑞希さん鬼。数分経って寒さに耐えきれなくなった都花が提案をする。

都花 「寒いね。ちょっと寒いから部室で待ってよか。」

紗希 「部室の鍵は?」

じゃーんと効果音が聞こえてきそうな勢いで都花が部室の鍵を差し出す。

都花 「まだ持ってるよ。」

ナイス都花ちゃん。これであわよくば通りかかった上ノ丸、日富美両氏とのニアミスを避けられますね。

由早 「そうやね。」

紗希 「賛成です。」

異を唱える者もいる筈もなく茶道部の部室へと向かう。寒さをどうにかしたい一心で思考に欠如がある事に気が付きました。今日の瑞希、由早、都花は敵。案の定茶道部の部室に向かう道中の食堂から両氏が出てくる。運動部の部室は反対側なので明らかに不自然。

紗希 「いっちゃん?」

聞かされてなかったのか段取りが違ったのか都花の様子がおかしい。

都花 「あれ?部室反対側だよね?」

宗磨 「いや、食堂にやかん戻しといてってマネに言われて。」

いや上級生がパシリとか不自然でしょ?

都花 「でも一年生いるよね?」

そう不自然。なぜか上ノ丸、日富美両氏の味方だと思っていた都花が問いただす。謎は深まるばかり。

蒼甫 「一年はグランド整備。いや、待ち伏せじゃないよ。」

都花の追求の意味に気付いた上ノ丸が取り繕うように早口で否定した。彼の紳士な態度は以前お見受けしているので嘘ではないでしょう。日富美も悪びれる様子もなく「どう言う事?」みたいな顔をしているので確信犯ではないとすると偶然?

紗希 「じゃあ、邪魔しても悪いので失礼します。」

過程は何であるにせよ現状を打破することの方が重要です。

蒼甫 「もう終わり?」

紗希 「もう帰ります。」

校門とは反対に移動しながらの不自然なもう帰りますはこれ以上かかわらないでくださいの意思表示ですよ。

蒼甫 「あ、ちょっとまってもうすぐ終わるからだめかな?」

今日はやけに押しが強いですね。食い下がる上ノ丸に駄目ですよと言うよりも早く由早が割って入る。

由早 「うちらもみぃちゃん待ってるとこやから大丈夫やで。」

ほんと余計なことをしてくれますね。

紗希 「大丈夫じゃないですよ。」

何ですかこの状況男子と下校とか息が詰まります。

宗磨 「ほんなら着替えてくるわ。」

日富美も参戦。あーもうどうしてみんな勝手に話を進めるのですか?話の主導権を握れないのはコミュ障の致命的な弱点ですね。

蒼甫 「ごめんね。」

由早 「いいよ。いいよ。」

良くないし、ごめんと謝るならばしないでください。このパターン多すぎですよ。私に謝っているはずなのに勝手に許してしまう由早も嫌い。

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