第13話 刺客はストーカー
視力検査等を終え、ものの十数分でメガネの購入を決定すると待ち合わせのファーストフード店に向かおうと眼鏡店を後にする。数歩歩いたところで私の袖口をつかみ良心の呵責に耐えかねたのかこの状況の真相をかたるべく由早が口を開く。何か重苦しい雰囲気を感じ取る。
由早 「あんな、紗希がいないときにいっちゃんとみぃちゃんと話すことがあって、紗希を紹介して欲しいって男子がいるって話で盛り上がったことがあってん。」
モテでいうなら他の三人の方がモテそうなのですが、という事はあれですか、モテない私の事が好きとかウケるって話ですか?ネガティブが止まらない。
由早 「それでね、紗希そういうの嫌がるやん?」
そうですね。
由早 「でもそういう経験って重要やと思うねん。」
雲行きが怪しいですね。
由早 「紗希って誤解されやすいと思うねん。そんなんやから。」
そんなんってどんなんですか。ディスられてます?
由早 「だから三人で紗希の恋のサポートをしようという事になってん。」
紗希 「余計なお世話ですね。その第一弾が茶園場で第二弾が今日ですね。」
なるほど少し理解しました。だから由早は知らされていなかったが驚かなかったのですね。
由早 「ごめん。でもちゃんと厳選してるから。」
そこ問題点じゃないですよ。後失礼。
紗希 「直接言ってこない時点で無いですよ。」
由早 「直接言ったらもっとないやん!」
紗希 「そう、ゆえに難攻不落。無敵。」
私かっこいい。マリカーのスターとか無敵大好き。
由早 「無敵ちゃうわ!」
確かにマリカーだとスターでも落ちると駄目ですね。あれ?サンダーは防げましたかね?と、かみ合わない事を考えていても仕方ないので真剣な眼差しで由早を安心させる。
紗希 「大事な人は自分で選びますよ。」
由早 「ほんまに?紗希は自分が思うよりもコミュ障やで。」
つらい。由早さんひどい。いい話しようと思ったのに。
紗希 「そこまで言うなら由早が好きになった人私がとっちゃいますよ。勝負です。」
ふふふ。これは妙案です。こう言えば由早が先に好きになる人を見つけなければなりませんね。後は私が負けてやればいいのですよ。
由早 「じゃあ私茶園場君が好きやから奪ってね。」
いや無理です。それって親が子供言いくるめる的な物言いじゃないですか。
紗希 「そうやって馬鹿にしてるといいですよ。今日のこの集まりも今から終わらしてあげますよ。コミュ障じゃない本気の私を見せてあげますよ。」
由早に煽られた私はこみ上げてくる怒りを胸にファーストフード店を目指す。由早が待ってと追いかけてくるが無視。こんな理不尽な集まりは終わらせてやります。言ってやるんだ。「私は帰ります。解散!」と。目視できる範囲に目標店舗を捕捉。ガラス張りの店内に対象を発見。自動ドアに近づき開くのを待つ。自動ドアが静かに開くと一歩二歩と対象に近づき言葉をかけるタイミングを計る。ここだと少し遠い。あと一歩、もう一歩と距離を縮めると後ろから伏兵。
蒼甫 「あ、早かったね。この後カラオケ行こうって言ってんねんけど大丈夫?」
紗希 「え、あ、大丈夫です。」
承諾してしまいました。不意を突かれました。雰囲気に飲まれてしまいました。
瑞希 「こっちこっち。もう注文しといたからね。」
大きく手を振る瑞希。お姉ちゃんそういうの嫌って言ってませんでしたか?由早から「今から向かいます」のLIMEを受けていた瑞希が注文をしてくれていました。
由早 「かわいいなぁ。」
そういっていつの間にか私の後ろに立っていた由早は私の頭を撫でた。やめてください髪乱れますから。恥ずかしいやら腹が立つやらが顔に出てぷいっと横を向くと上ノ丸が反対側にいたのを忘れてました。
蒼甫 「どうかしたん?」
紗希 「あ、いえこっちの事です。御気になさらず。」
取り繕う私を面白そうに由早が割って入る。
由早 「えーっとね。」
しゃべりかけた由早の口を慌ててふさぐ。
紗希 「なんなんですか。本当に。」
由早 「言えてたらもっとこじらせとったで。」
恨めしそうに由早を見ると由早は反省していない表情で「ふふふ。」と不敵な笑みを浮かべている。また由早との関係がギスギスしそうです。
宗磨 「仲ええなぁ。あ、まさかそういう関係じゃないよな。」
いけない事をひらめいた日富美は少し引き気味に尋ねる。私が否定する前に上ノ丸が日富美を嗜める。
蒼甫 「カズまた失言。」
宗磨 「いやほら、女子特有のこういうのようわからんわ。男子でやったらキモいで。」
上ノ丸×日富美・・・キモい。確かにキモい。BL好きにはたまらないのかもですが、腐ってないのでキモいとしか思えません。
泰河 「いや、BL好き女子って結構おんで。」
影の薄かった大蔵谷がここで発言。意外とキャラ濃いですか?少し凍りついた場の空気を暖めるべく瑞希が場を執り成す。
瑞希 「由早ちゃんは紗希が大好きやからねぇ。」
ねぇ。と都花の方を見て同意を求める。都花はうんうんと頷く。あなたたちの方が仲いいんじゃないですか?私と由早はよく喧嘩をしますよ。
由早 「紗希も私の事好きやんなぁ?」
何でしょうこの自信。さっきギスギスしてましたよね。
紗希 「まぁ嫌いではないですよ。」
目を合わさず答えると再び大蔵谷が口を開く。
泰河 「なに?金ヶ崎姉さんってツンデレ?」
この人爆発力ありますね。いますよね、場になれると急に饒舌になる人。初めは好印象だったけどやっぱり関わりたくないかもです。姉さんて同い年ですよ。後ツンデレとか言わないでください。キャラ作ってるみたいじゃないですか。私がイラっとしているのを気付いたのか瑞希がフォローを入れる。
瑞希 「デレはないかなぁ・・・ほぼツン。」
フォローになってませんでした。谷八木がスマホでカラオケの予約をすると混んでいるらしく後半時間程時間をつぶさないといけないようだ。ポテトをつまみながら会話を弾ませている輪から距離を置く。ポテトといえばトランス脂肪酸。私にとって危険物質ですが悔しいけど美味しいです。話がそれましたが正直大勢での会話は苦手です。
蒼甫 「ごめんな。カズも悪気はないんやけどね。」
上ノ丸はことあるごとにフォローを入れてくるがこれは見当違い。まず、日富美に対しては怒っていない。さらに悪気が無いから許してという論法は嫌い。フォローって難しいですね。私が難しい子?
宗磨 「どうしたん?」
少しそわそわして席を立つタイミングを見計らっていたのを日富美に見つかってしまいました。
紗希 「いえ、そろそろメガネが出来上がる時間なので先に取ってこようかなと。」
団体行動の出来ない私。でも効率的に動くにはここでメガネを回収した方がよくないですか?それは私目線の話で、自分勝手な論理なのでしょうね。
蒼甫 「よかったらついていこうか?」
何言っちゃってくれてやがるのですかこの人は。そんな事したら由早が喜ぶだけで私は窮屈じゃないですか。
紗希 「いえ、一人で行けますよ。」
耳聡く私達の会話を聞きつけた由早がにんまりとこちらに視線をやる。
由早 「帰っちゃうかもしれへんから上ノ丸君ついて行ってあげて。」
この人も何言っちゃってくれてやがるのですか。私が男子と二人きりで行動するとか無理なの知ってるくせに。ほら、コミュ障だし。こういう時は自分の欠点さえも武器にしますよ。
紗希 「いや帰らないですし。心配なら由早が来てくださいよ。」
そう由早が来れば問題ないのですよ。
由早 「あ、私まだ残っているからゆっくり食べさせて。」
そう言ってゆっくりとポテトを口に運ぶ。ひどい。由早と私の関係もここまでですね。ちらりと瑞希の方に目をやると盛り上がっているしまだ食べ終わってない。遅い。食べるときは集中して食べる。父上に怒られますよ。
紗希 「じゃあ一人で行きます。」
蒼甫 「いや、最近姫路不審者多いから危なくないかな。」
確かに最近不審者の目撃があったとか学校で言ってたような。でも公衆の面前なので大丈夫でしょう。
紗希 「御幸通りなんで大丈夫ですよ。路地には入らないです。一本道ですし。」
私がトレーを持って席を立つと日富美にどこに行くのと尋ねられたが、メガネを取りにと言うとそれ以上は追及されなかった。ファーストフード店を出ると至って普通の風景で心配していた不審者の影なんてありません。白昼堂々とこの人通りで何か起こるなら誰がついてきても結果はそう変わりませんよと斜めに構えて歩く。念のためメガネ装着。やはり何事もなく眼鏡店に到着する。変なこと言うから少し身構えたじゃないですか。
店員 「耳のあたり大丈夫ですか?」
紗希 「大丈夫です。」
店員 「おかけのメガネ洗浄しましょうか?」
紗希 「お願いします。」
テンプレートのやり取りを終わらせメガネを受け取り店から出ると視界の端の方に違和感を覚える。誰かに見られている。ゆっくりと気配のする方向に振り替えると誰もいない。気のせいですか。あんなこと言うから過敏になってるじゃないですか。
蒼甫 「終わった?」
紗希 「うわっ。びっくりした。」
思わず大きな声が出てしまいました。小心者なんですから気を付けてください。というか不審者ってあなたですか?ストーカー?
紗希 「ストーカーですか?」
私の発言に通行人がちらりとこちらを見る。大抵は「ひどい」とか怒ったりするのですが上ノ丸は申し訳なさそうに対応する。
蒼甫 「ごめん。みんな移動したから。案内しようと思って。」
ああなるほど。って鵜呑みにはしませんよ。
紗希 「LIMEでいいじゃないですか。」
ちらっとスマホを見るとLIMEが2件来ていた。あ、見てないですね。
蒼甫 「そうだね。でも見ない事も有るみたいだし、ちょっと路地通らないといけないんでごめんね。案内させてくれる?」
はい見ていませんでした。御足労すみません。そしてこれは見たことあります。叱るのではなく提案をして駄々っ子園児を懐柔する保母さんの手口じゃないですか。私ってそんな駄々っ子ですか?
紗希 「確かに見ていませんでした。すみません。」
未読のLIMEを開く由早からだ「3分以内に返信しないと王子様を派遣します。」「欲しがるなぁ。素直に来て欲しいって言えばいいのに。」時限爆弾と虚偽の二重トラップこれで上ノ丸はここに行くように言われたのですね。申し訳ないです。しかも由早に行けと言われたからとか言い訳しなかったのは高評価です。意外といい人ですか?
紗希 「よろしくお願いします。」
失礼もあったので私はペコリと頭を下げた。頷くと上ノ丸はさりげなく自然に手を差し伸べたが丁重にスルーさせていただきました。どういう意図かは計りかねますがそういうのはいらないです。すぐに触りたがる男子は危険。行き場を失った上の丸の手は苦笑いとともに消えて行った。
カラオケ店に着くともう盛り上がっている様子でテンションが高い。雰囲気に気おされているとおもむろにタブレットを渡される。
泰河 「金ケ崎姉さんも入れて。熱いやつね。」
いや、だから姉さんて・・・曲の予約リストを見るとロングホライズンのOPが入っている。誰ですかこの選曲は。紅井エールさんが入っているので瑞希ではなさそうだ。都花の歌が終わりロングホライズンのOPが始まると大蔵谷がマイクを取る。あ、やっぱりこの人爆発力ありますね。英語のところの発音が妙に良いのが変。微妙な歌声ながらそれでも気持ちよさそうに歌っています。
泰河 「俺もアニソン入れるから遠慮せんと入れてね。」
ちょっと、どこから漏えいしているのですか?私がオタクなのは薄々感付かれていると思いましたが面と向かって言われるとちょっと恥ずかしい。困った顔をしていると瑞希が一緒に歌おうとマイクを渡す。まぁどうせバレているのですし楽しみますか。瑞希の美声に谷八木はご満悦の様子。まだ瑞希はあなたの彼女じゃないですからね。
宗磨 「うわ、めっちゃ上手いやん。意外。」
一言多いですねこの人。意外ってどう言う事ですか?
泰河 「ClarissAとか歌える?」
少しくい気味に大蔵谷が迫る。あ、この人ガチなんですね。オタクで女子二人でハモれるとなれば分からなくはない選択です。
由早 「歌えるよ。入れとく?」
また勝手に答える。そう言えばLIMEの件も許したわけではないですよ。
泰河 「これは入れるしかないでしょう。」
そっちも勝手に盛り上がらないでくださいね。都花さんも無言でサムズアップしないでください。知らない人たちは「ClarissAって何?」ってなるじゃないですか。勝手にタブレットを操作する由早に抵抗をする。
紗希 「歌うとか言ってませんよ。」
由早 「どうせ入れるでしょ?今入れないと「児のそら寝」みたいになるで。」
それは格好悪すぎますね。無駄な抵抗でした。
紗希 「仕方なくですよ。今回だけですよ。」
渋々の承諾も大蔵谷には大好物だったみたいです。
泰河 「でた。ツンデレ。」
私が犬の神様なら「黙れ小僧!」と言っている展開ですよ。序盤の寡黙な人に戻って暫く話しかけないでください。期待されると歌いにくいもので私的には納得が行かなかったが、それでもギャラリーは満足してくれたみたいです。
泰河 「うまいなぁ。惚れそうやわ。」
そうならないことを祈っています。
宗磨 「あほ。俺はもう惚れてるっちゅうねん。」
都花 「ははは。」
優しい都花のみが愛想笑いを浮かべる。誰に向けていったのか分かりませんがとりあえずスルーしておきましょう。触らぬ日富美にたたりなしです。次の順番を確認して飲み物入れてきますと立ち上がる。次の曲あまり好きではない曲なのでこのタイミングですね。次が日富美だから立ち上がったわけではありませんよ。曲です。曲。多分曲。
都花 「あ、私も手伝うよ。」
みんなの分のオーダーをとっていたら優しい都花さんが手伝ってくれました。正直グラスがわからなくなったらどうしようと少し不安でした。4杯なら余裕です。私と都花の組み合わせは珍しい。いつも瑞希にべったりなのにどうしたんだろう?瑞希と私間違えましたか?
都花 「今日はごめんね。」
ああ、そういうことですか。気にしてたのですね。
紗希 「由早から聞いているので、いっちゃんが気にすることないですよ。瑞希は後でちょっと話し合いが必要ですが。私ってそんなに ダメですかね?」
あ、しまった。この聞き方はそんなことないよって言って欲しいみたいじゃないですか。
紗希 「いや、ダメというか、変わらないといけませんか?」
都花 「うーん、ダメではないよ。」
ほら、気を遣わせてしまいましたよ。
都花 「言いたいこと言えてすごいなぁとは思うけど、その分誤解も増えるし、人の立場に立って考えるようにしてもそれって結局自分が考えてるから自分本位なんだよね。」
都花さんほんわかしてるだけかと思ったら結構しっかりしていらっしゃるのですね。
紗希 「私は人の立場に立って考えてませんけどね。」
思ったことだけを端的に言う。相手の思考なんて知ったこっちゃないですよ。だから将棋強くなれないのかな。
都花 「いや、立とうよ。」
都花に苦笑いをさせる。これが私と都花の関係です。気のおけない4人で居れば私は外の世界なんて要らないのに。ほかの3人は私に外の世界を勧める。彼女たちの選択の方が正しいのは自明の理。でも私はまだ外の世界は欲しくない。後1年ちょっとはこの4人で過ごしたい。私一人のわがまま。




