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披露宴

22.


 6限が始まる少し前くらいに、俺は教室へ戻ることができた。

 さっきの出来事とは裏腹に、教室では友人同士でグループを組み、楽しく談笑している様子が伺える。まぁいつもと変わらない日常風景だ。

 ちかげとの一件があった今、俺の心象はそんなに落ち着いた様子ではないが、ちかげが嬉しそうな顔をしていたのを見て、多少は和らいでいる。

 しかし、なんでこうも今日は忙しいんだ。ちとせにはチョコを貰えると言われ、かなり焦ったし、そのあと、ちかげは泣き始めるし。それに・・・。



『俺はちかげを無意識に抱きしめた』



 うわああああ!

 俺は顔が真っ赤になっていたのだろう。

 胸の奥から喉を伝って、顔が火照ってきている。

 というか誰だ、俺の心に勝手にしゃべりかけてきたやつは!?

 今の俺不安定すぎるだろう・・・。

 そうしてしばらく頭を抱えて悩んでいると、ふいに肩をポンポンと叩かれた。

 誰だ、今俺は絶賛取り込み中なのだ、用事なら明日にでも。

「ダーリン☆」

 ん? 聞き覚えのある声だな。

「ダぁリン☆」

 さらに甘い声でつぶやかれる。

「あ・な・た☆」

 耳元でささやきやがった。誰だ一体!?

「私よ、わ・た・し☆」

 あー、もうなんか誰だかわかってきた。

「彼女かと思った? 残念正妻でしたー☆」

 先ほどから、可愛らしい演技で甘い声を出す声の主はちかげだった。はぁ・・・。

 見ると少し薄めのリップでも塗っていたのだろうか、唇がツヤツヤしとる。う、ちょっと可愛い。

 そして、ちかげは、今までに見たことのない、猛スピードで俺の腕を組んできた。

 おい、今全然動きが見えなかったぞ。

「ちょ、ちかげ。周りにクラスメイトいるんだぞ。ちょっとやめろよ」

 という、俺の忠告も聞かず、ちかげは俺の腕を組みながら、満面の笑みで顔を終始スリスリしている。う、ムチャクチャ可愛い。

 全然いやな気分はしないんだけどな、やっぱり周囲の目が気になるんだよなぁ。このクラスには、こういうのを目撃すると、必ず反応するやつが何人かいるんだ。

「た、たける。おまえ・・・」

 早速来やがった。

「ち、ちかげちゃん? こ、これはいったい?」

 どこか恨めしそうな声で問いかけるのは、まぎれもない、マサトだ。

 かなり動揺した様子で、人差し指を俺たちの方に向けている。

 こりゃあ面倒くさいことになりそうだ。

「ち、ちかげ。あんた・・・」

 うわぁ、もう二人目来ちゃったよ・・・。

「おめでとう、ちかげ! んで、結婚式いつ?」

 こやつは、これしかセリフがないのだろうかってくらい、結婚式について言及するのは、ちかげの友人だ。さとみとか言ってたっけ。

 あんま覚えてないけど、こいつはこいつで厄介な気はする。

 というわけで、

 厄介なやつらがこれで全員揃いましたとさ。

 めでたしめでたし。

 あぁ、面倒くせぇ・・・。



 結婚式について言及されたちかげは、俺の腕を組みながら、無言でさとみの方に顔を向けた。

 すると、さとみは、

「ちかげ、やったじゃん! お姉さん祝福しちゃうよ~」

 と言った。

 お前ら同じ2年だろうが。

 この調子だと、ちかげは間違いなく調子に乗る。ある意味厄介者3人目の登場である。

「んで、結婚式いつ?」

 と間髪入れず、ニヤけた顔で再び問いかけてたさとみに対して、ちかげは、ハッとした表情になる。

 そして、しばらく俺の顔を見上げたかと思うと、若干モジモジした様子で、すぐに下を向いてしまった。なにこれ可愛い。



 そのあとも、ちかげは一言も発さないまま、唇をアヒルのような口にして、指をクルクルとしながら、俺のことを見ては逸らし、見ては逸らしを繰り返している。

 うっ・・・。

 さっきから、時折しおらしくなるちかげに、戸惑う俺。ちかげってこんなに可愛かったっけ。

 そんな様子を見てだろうか、さとみは、

「披露宴開催キターーー!」

 などと、かなりハイテンションになっていた。

 一方、マサトの行方を確認したのだが、既に教室内で姿を確認することはできず、よく見ると、ベランダの奥で、一人うずくまっていた。

 もう放っておこう・・・。



 クラスメイトがそれぞれのしゃべりに夢中になってるのが幸いしてか、盛り上がってたのは、俺を冷やかすこいつらだけで済んだ。

 ちかげはというと、珍しく一言もしゃべらないまま、バイバイと小さく俺に手を振って、自分の席へと戻っていった。

 6限のチャイムが鳴り響き、授業が開始した。もう、俺に授業を聞くような体力は残されていないに等しい。俺は、ダメだと思いつつも、深い深い眠りに入った。


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