一週間のバレンタインデー
44.
一週間。
それは、一年の内のほんの7日間。
一週間。
それは、一か月の内の7日間。
だけど、長い一週間。
そんな物語を紡いできた、俺達の思い出。
かけがえのない思い出・・・。
ちとせと出会って俺は少しづつ変わっていった。
女の子と付き合うなんてことは、考えもしなかった。
もちろん興味がないわけじゃない、だけど、行動に移すことは、もしかしたらなかったのだろう。
それくらい、ちとせは俺の心を動かした。
「ちとせ!」
ちとせはかしこまる。
「少し長いが、俺の今から言うことを聞いてくれ」
ちとせは可愛らしくコクンとうなずく。
これで準備はできた。
「ちとせ、俺はお前のことが好きだ」
ちとせは驚いた表情だ。
俺はもう一度言葉にする。
「ちとせのことが好きだ」
俺は続ける。
「でもな」
冷たい風が俺のセリフに間を与える。
「これは俺の本心かどうか、本当の気持ちなのかどうか、俺自身にもわからないんだ」
ちとせはどうしたらいいかわからない、という顔をしている。
まぁそうだろうな。俺だって何言ってるか自分でもわからない。
だけど、俺みたいな不器用なやつは、思ったことを有りのままに言うしかない。
それがたとえ間違った方向に進んだとしてもだ。
俺は一呼吸を整える。
「正直に言うな。俺はちかげのことも好きだ。幼馴染としか思ってなかったあいつが、キレイになって、変わらず俺に接してくれて、弱い一面も見せてくれて、俺のことを好きと言ってくれたんだ」
「だから俺はちかげのことが好きだ。あいつの弱さを守ってやれるのも、元気印のあいつを見守るのも、俺しかいないんだ」
ちとせは黙って俺の話を聞く。
「ちかげを女の子として意識してるんだ俺は。あいつと付き合ったら、どうなるんだろうとも妄想したし、あいつの魅力にどんどん惹かれている自分がそこにいたんだ」
ずっと黙っていたちとせは、俺の異端な考えにようやく口を開いた。
「たける、たけるの言ってること、私にはわからないわ。やっぱりちかげさんが、好きなんじゃないの」
少し困惑気味な顔で話すちとせ。
「たける、私はね、ちかげさんと比べたら、たけると会ってる時間がものすごく短い。短いのよ」
「だから、たけるがちかげさんのこと好きって言うのが本心だと思うな」
ちとせは話を続ける。
「だから、無理しないでよたける。今あなたが言ったことが本心。たけるの本心なのよ。歴史の長い二人に、私は到底かなわないわ」
俺は反論ができない。
「それに、ちかげさんにはたけるが必要なのでしょう? 私にはそう聞こえた」
聞き取れはするが、だんだん小声になっていくちとせ。
これから何もかもを失うような、そんな絶望的な声にも聞こえた。
「私のことを好きって言ってくれてありがと、たける。まぁ、私の想いは報われなかったけど、いいよ、いいのよ。たけると会ってから、私大分変われたもの」
ちとせは続ける。
「たけるがいなかったら、ずっと、ずっと偽りの自分で、今後を送らなきゃ行けなかったかもしれない。だから感謝してる。私、前よりずっと強くなれたもの」
強気なセリフとは裏腹に、ちとせは声が震えていた。
聞き取るのもやっとなくらい、小声になっていた。
「だから、たけるは自分の気持ちに嘘つかないで。少し前の私みたいに、大きい悩みになっちゃうかもよ、アハハ・・・」
ちとせの弁解が終わる。
正直俺は、ここまで言われるとは思ってもみなかった。
ちとせがここまで俺のこと考えてくれてたなんて、思ってもみなかった。
色んな想いが交錯する俺の心の中。
だけどこれだけは言わなきゃ、言わなきゃダメだ。
ちかげと紡いだ歴史ではなく、俺は、現在の気持ちを選ぶということを。
「ちとせ!」
俺はちとせを抱きしめる。
「俺は、俺は、それでもちとせが好きだ!」
何度でも言える。
「ちかげとの思い出も大事で、譲れない、忘れない、誰にも壊させはしない!」
何度でも言うんだ。
「俺は初めて女の子に・・・ちとせという女の子に一目惚れしたんだ!」
俺は続ける。
「こんなキレイな女の子がいるんだって、びっくりした、驚いた」
胸の辺りから、微かに伝わるちとせの呼吸。
かつてない緊張が辺りを包む。
「単純でバカだろう? 本当にそうだ、その通りだ。最初はこんなキレイな女の子と、話すらできないんだなと思ってた」
「けれど、ちとせの落とし物拾って、話すキッカケができて、それから毎日のように、教室に来て俺とくだらない話してくれて・・・」
想いがどんどん言葉になっていく。
「俺に悩みだって打ち明けてくれて・・・、イベントにも参加してくれて・・・」
言葉が次々と紡がれる。
「ミスコンの時に、俺はちとせにドキドキしたんだ。ヘアピンを付けて、おさげ姿のちとせを見てだ。この胸が苦しくなる気持ち、だけど、心地良い気持ちになるのは、生まれて初めてなんだ。それがなんだかわかるまで、時間が掛かった」
決定的な言葉が脳内に再生される。
「人を好きになるっていうのは、こういうことなんだなって俺は思った。好きという気持ちを無意識に隠してしまっていたんだ」
もう息を吸う暇などなかった。
「でも胸の苦しみが、それを俺に教えてくれた」
脳内にある決定的な言葉が、音となって、ちとせに伝わっていく。
「この胸の苦しみを感じるのは、ちとせ、お前だけなんだ! これ以上ちとせを好きだという証明はない!」
もう、苦しい・・・。
「俺の一方的な思いかもしれないけど、これが俺の本心、俺のウソ偽りない気持ちだ!」
静寂が俺たちの周りを包む。
「だからな、ちとせ!」
これで最後だ!
「俺と付き合ってくれ!」
俺はちとせの肩を掴んで、そう言った。
告白してから、何分経ったかわからない。
けれど、それはとても長く感じた。
気付けばちとせは、大粒の涙を流し、座り込んでいた。
「ううっ、ううっ」
ちとせは号泣していた。
きっと俺の強く思う気持ちが、伝わってくれたのだろう、そう思いたい。
「フフフ・・・」
静寂につつまれた中で、ちとせが第一声を挙げる。
「たけるったらもう、不器用なんだね・・・」
ちとせは心なしか笑っているようだった。
「私は・・・もっともっと、不器用だけど」
涙を拭きながら、ゆっくりと顔を上げるちとせ。
かつてない笑顔をそこで、垣間見えた。
「こんな私だけど、これからもよろしくね、たける」
『俺の想いは、
ちとせに通じた』
45.
うぅ、慣れないことをしたせいか、俺はもう頭がクラクラしている。
あぁ、誰か俺にビタミン剤でも提供してくれ。
この際、栄養素は何でもいい、とにかくこの疲れ切った頭を癒せれば・・・。
とかなんとか言ってる内に、泣き止んだちとせから、可愛らしい包装が施された、四角い物体を差し出された。
「ハイ、これ。手作りでちょっと上手くできてないかもだけど」
ちとせは可愛らしく両腕を伸ばして、それを渡す。
「たける」
ちとせのキレイな声が響く。
「ハッピーバレンタインデー☆」
ちとせは今まで見たことの無いような笑顔だった。
それはとてもキレイで。
それでいて、心から俺のことを思ってくれているような。
そんな安心感を持たせてくれた。
~エピローグ~
ちとせに告白したあの日から、俺たちは一緒に登校することになった。
「おーい、たけるー」
20mくらい先から聞こえる声は、ちとせだ。
「早くしないと遅刻するよー!」
ったくわかってるって。
実は時間的には、かなり余裕だったりする。
「まだ時間あるだろー、もうちょいゆっくり行こうぜー」
「だって、たけるとクラス違うんだから、登校する時が一番楽しみなの! もう!」
プクーっと顔を膨らますちとせ。
心の底から怒っているわけではないようだ。
「ハイハイ、ありがとな。俺も楽しみだよ、ちとせと毎日登校するの」
蒸気機関車のようにプシューと、煙を上げるちとせ。
「な、な、なにそんな恥ずかしいことをサラリと言うかな、た、たけるはっ!」
え? ちとせが先に言ったような気が・・・。
「あー!」
聞き覚えのある元気印の声は、紛れもなくちかげだった。
「二人ともまたイチャイチャして~。ちかげちゃん嫉妬しちゃうぞ☆」
元気そうに言われてもあんまり説得力ないなオイ。
「ちかげちゃんはまだまだ、たけるのこと好きなんだから。なんなら愛人候補に加えてもらっても・・・」
「わーわー!!」
道端でなんてことを言うんだこいつは。
「おしおきチョップ!」
「あでっ!」
聞いたことのない擬音語で痛がるちかげ。
こいつは相変わらずだな。
長いようで短い、短いようで長い。
気づかなかったことに気付いた、気づいたことに気付いた。
過去も大事だけど、現在は、もっともっと大事だ。
そんなことに気づけた一週間だった。
そうこれが俺たちの、
『一週間のバレンタインデー』だ。
おわり




