始まりの始まり
42.
俺はついに言ってしまった。
だけど言わなきゃいけなかった。
「ちかげ、俺の話を聞いてくれ」
力強く抱きしめたせいか、ちかげはおとなしくなる。
「俺は・・・」
緊張感をほどくように一呼吸をする。
「俺は、ちとせのことが好きなんだ。どうしようもなく、ちとせのことが好きなんだ。理由なんて分からない、言葉にできない」
なんと稚拙な言葉だろうか。
小学生以下、いや、人類が言語を持った意味すら疑ってしまうほど、幼稚で、簡素で、意味不明だ。
だけどな、俺はこう思うんだ。
仮にちとせを好きだという理由を、箇条書きにして述べたとしよう。
それは、『可愛い』という部分であったり、『お嬢様キャラ』という部分であったり、『ギャップがあって良い』と思ったり・・・。
挙げればいくらでもでてくるはずだ。
それはちとせに限ったことじゃない。
誰もがそうして人を好きになるからだ。
恋に恋をしてるのかもしれない。
一時の感情かもしれない。
何かしら過ちがあるのかもしれない。
でもちとせに対する感情は、これだけでは表すことができないのだ。
『好き』という感情は意識をし始めたら、胸が苦しくなったり、体が縮こまったりするような感覚に襲われる。
これは無意識に起こるから、またやっかいだ。
でも俺は気づいたんだ。
「ちかげ!」
「う、うん・・・」
ちかげの肩が震える。
「ごめんな」
ちかげは大粒の涙を流した。
量なんて測りきれないほど、ずっと、ずっと、ずっと。
どれくらいの時間が経ったろうか。
ちかげが落ち着くまでにかなりの時間がかかった。
「ハハハ・・・」
地面に座り込みながら脱力するちかげ。
「負けちゃった・・・」
「・・・」
俺は何も答えられない。
「そうよね、最初からわかってた。ちとせさんには何一つ敵わないって。たけるの顔見ればわかるもん」
ちかげは泣き顔のまま、精一杯声を振り絞る。
「あーあ、私も自信あったのになぁー。特にたけるに抱きしめられた時なんて・・・」
そう言うとちかげは、それ以上なにも言わなかった。
「ううん、もういい」
ちかげは笑って見せた。
「たけるは私の初恋の人、ずっとずーっと初恋の人」
ちかげはゆっくりと立ち上がる。
「恋人にはなれなかったけど・・・たける、これからも幼馴染として、付き合ってくれる? これは私からの最後のお願い。たけるが大好きな私からの、最後のお願い」
俺は力強く頷く。
「ああ、いつだって俺はお前の味方だ」
ちかげは満面の笑みになる。
「ウフフ・・・」
ちかげに無邪気さが戻った。
「・・・ありがとう、たける☆」
43.
寒風になびく明るみのかかったキレイな茶色髪。
サラサラとしていそうなロングストレートは世の男性を皆、虜にしてしまいそうなくらいだ。
ちとせは俺の目の前にいる。
放課後は、今日という日を何倍にも彩り、勇気をくれる。
そんな日なんだ今日は。
夕暮れが笑った。
「ちとせ」
「うん」
風が一間置くかのように、流れ去る。
「答えを、言いに来た」




