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2月14日

40.


 家に帰ったのは夜10時を過ぎてからだった。

 外で特別何かをしていたわけではない。

 ただひたすら、頭の中で色々な想いが駆け巡っていたのだ。

 ちかげとの昔からの思い出、そして最近の思い出。

 幼馴染の動向は、かつて体験したことのない悩みを俺に与えた。

 幼馴染の動向は、かつて体験したことのない悲しみを俺に教えてくれた。

 小さいころからの思い出。

 俺以上に、ちかげはこの歴史を大切にしているのだろう。きっとそうなのだろう。

 


 

 ちとせとの思い出。

 それは数えるほどしかない。

 それでもとても濃密で、俺にかつてない刺激を与えてくれた。

 ちとせとは小さいころの思い出なんてない。

 クラスだって違う。

 毎日顔合わせるのが不思議なくらいだ。

 でも、ちとせは毎日のように教室に顔を出してくれた。俺に会ってくれていた。

 身近であって、苦しい、そんな悩みを俺に教えてくれた。

 ちとせはきっと、このたった一週間の思い出を大切にしているのだろう。 きっとそうなのだろう。

 二人に優劣なんてない。

 二人に差なんてない。

 二人の一途な想いは、まぎれもなく本物なのだろう。

 そんな想いに、決定的な答えを出さなければならない。

 出さなければならないのではない、出すんだ。

 これは義務であって義務ではない。

 誰かに頼まれてやるものでもない。

 全て自分の手で決めることだ。

 その結果がどうなるかは、神様に聞くしかない。

 形の見えないもの。

 だけど、形あるもの。

 今俺は、半分埋まっているピースを、俺のもう半分を使って、一つのパズルを完成させる。

 それを明日あす、バレンタインデーに決行する。

 必ず誰かを傷つけてしまう。

 必ず誰かを喜ばせてしまう。

 一つの行動が二つの感情を生み出す。

 今まさに、一大決心の時だ。

 俺はもう決めている。

 結果とか過程とかは、もうどうでもいい。

 俺は、俺の決意を言葉にするだけだ。

 夜の月明かりが、部屋を幻想的に彩る。

 海馬にある記憶は、走馬灯のように脳内を駆け巡る。

 そして俺は、深い深い眠りにつく。

 


 太陽が2月14日を告げた。


41.


 俺はいつものように身支度を整えて、学校へと向かう。

 通学路では、いつも会うはずのちかげには、会わなかった。きっと寝坊でもしているのだろう。

 俺だって、今日しっかり起きているのが、奇跡なくらいだからな。

 歩くこと10分、俺は学校に到着し席に着いた。

 クラスメイトは、今日も変わらず日常を過ごしている。

 相変わらず教室は寒いが、天気は良好で、いつもと変わらぬ日々を感じさせる。

 ただ、いつもと違うのは俺の心の中だけだ。

 そんなの皆知る由もないんだろうな。

 ま、関係ないか。

 ちかげは遅刻したかと思っていたが、俺より先に学校へと到着していた。

 ちかげを見かけなかったのは、いつもより早く家を出ていたからだったのか、なるほどね。



 授業中、何回かちかげと目が合った。

 気まずい訳ではないが、なんか照れるというかなんというか。

 俺は目を逸らしそうにもなったが、ちかげは俺と目が合うと、優しく微笑んだ。

 その微笑みには、憂いさを感じさせるようなものがあった気がした。

 


 昼休み、俺はちかげに呼ばれて、中庭まで来ていた。

 きっとちかげは、あの事で俺を呼んだのだろう。

「たける・・・」

 ちかげはか細い声で俺を呼ぶ。

「昨日の答え・・・聞きに来た」

 ちかげは手を後ろに回し、うつむいている。

「ま、まずはコレ! ハッピーバレンタインデー☆ たける☆」

「お、おう」

 俺はちかげから、ハート型の大きなチョコレートを渡された。

 ・・・でかっ! 直径10cmくらいないか? コレ。

「ハハハ、ありがとなちかげ、嬉しいよ」

「や、ややややややだ、嬉しいだなんて、今までそんなこと言ってくれなかったから・・・じゃなくて、嬉しい! ホントに嬉しい!」

 ちかげは、慌てた様子なのか、嬉しくてテンパっているのかわからない様子で、喜んでいた。相変わらずよくわからんヤツだ。

「も、もう! 丹精込めて作ったチョコレートなんだから! お残しは許しまへんで!」

 ちかげは某番組の食堂のおばちゃん(?)のような口調で話したかと思うと、頬に手を当て恥ずかしそうにしていた。

 そんなちかげを見て微笑ましく思った俺は、

「ちかげ、いつもありがとうな」

 と優しくお礼を言った。

「い、いいのよ。私がたけるを好きでやったことなんだから」

 こいつ恥ずかしいことをサラリと・・・。

「え? 今私なんてことを。ハ、ハズカシー!」

 お前はKBCの申し子か! 決して家のキーボードは壊すんじゃないぞ。

 他愛のない会話をしながら、雰囲気が和やかになっていく。

 あぁ、やっぱりちかげと話すのは楽しいな。改めてそう思う。

 チョコレートも貰って嬉しいし。コイツは、ホント、ホント・・・。

「たける? 泣いてるの?」

「べ、別に泣いてねえよ!」

 嬉しさと、これから話すことへの緊張感からか、二種類の混ざり合わない物質が、一つの涙となって、俺の瞳から溢れていた。

「ご、ごめん。私なんか悪いことした?」

 心配そうに見つめるちかげ。

「だ、大丈夫だ。悪い、急に泣いちまって」

「そう? それならいいんだけど」



 今しかない。



 

 俺の気持ちを伝えるには。




 和やかなムードから一転、俺は雰囲気そのものを全て覆した。

「ちかげ」

 俺は真面目な顔をする。

「ち、ちかげぇっ・・・」

「ど、どうしたのたける? 泣きながらじゃわからないよ」

 ちかげは俺の両肩を掴んで、心配してくれている。

 俺はしばらく声が出なかった。いや、出せなかった。

 何分か、何秒か、どのくらい声が出なかったかわからない。しばらく俺は、俺を心配するちかげに体を揺すられていた。

「大丈夫たける? 体調でも悪いの?」

 不安そうな顔になるちかげ。

 も、もうこれ以上この状態は維持したくない。

 俺はちかげの両肩を掴み返した。

 


「ちかげ、聞いてくれ」

「は、はい!」

 直立で驚くちかげ。

「俺は、俺は」

「う、うん」

 ちかげは俺の言おうとしていることを、感じ取ったかのように、黙ってうなずく。これが・・・最後のチャンスだ。





「俺は、俺は、お前とは付き合えないっ!」











 言葉を発してから、どれくらいの時間が経ったろうか。いや、もう時間などどうでもいい。

俺は目の前で泣き崩れているちかげを見て、泣いている。

ただそれだけが、今伝えられる現状だ。

「ヒッグヒッグ・・・」

 ちかげは座り込み両手で目を覆いながら、ずっと泣いている。

「どうしてよぉ! な゛んでよぉ! こんなにたけるのこと好きなのにぃ! 好きなのにぃぃ! うわぁぁぁああん」

 大声で泣き叫ぶ。

「たけるはやっぱり、私のこと嫌いなんだぁああ」

 叫び続けるちかげに、俺は強く、力強く抱きしめる。

「嫌いなわけあるか!」

「・・・」

 ちかげは黙り込む。

「俺も、俺もお前のことが好きだ! 昔の思い出だって必ずちかげが出てくるし、綺麗になった今のお前も本当に好きだ!」

「放して!」

 ちかげは俺を振りほどこうと、暴れ始めた。

「な゛んでよォ! どうしてよぉ! なんで好きって言ってくれたのに、私じゃダメなのよォ! うわぁぁぁああん!」

 俺は暴れるちかげをギュッと強く抱きしめて抑える。

「放してぇ! 放してェェ!」

 



「放すもんか!」




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