さまよう気持ち
37.
ちとせとのミスコンイベントの後、俺はちかげと合流した。
「もう、たけるったら、ちとせさん見つけたんだったら、早く電話してよね」
すまん、ちかげ。ホント色々あってだな・・・。
「ふーんだ」
ちかげはしかめっ面をする。
ダメだ、気持ちの整理が追いつかない。
ついさっき、ちとせとあんなことがあって・・・。
あぁ、もうどうしたらいいんだ俺は!
「変なたけるー」
ちかげは不思議そうな顔をしていた。
そりゃあそうだよな。俺自身だって今どんな顔しているのかわからない。
傍から見たら、ただの変人と思われるかもしれない。
「とりあえず目的果たしちゃったね」
ちかげは少し残念そうに言う。
「気のせいかもしれないけど、たける、すごく嬉しそうな顔してる」
図星を突かれて、俺は何も反論ができない。
「あー、やっぱりそうなんだ! ちとせさんと何かあったんだ! うわーん」
ちかげはそのまま、走り去ってしまった。
ちかげには悪いけど、ちょうど良かった。
今は誰に対しても、まともな会話ができそうにもないからな。
俺はあえて、ちかげ引き止めたり、連絡を取ることをしなかった。
家に帰る途中も、ずっとちとせの事で頭がいっぱいだった。
こんな気持ちになるのは、今までなかったのだ。
ほっぺにキスされたのも初めてだったし、混乱に混乱を重ねている。
ベッドに潜り込んだ俺は、目を瞑る。
うっ、ダメだ。ちとせがやたら可愛く思える。
苦しい。
愛おしい。
もしかしてこれが、人を好きになるってことなのか? いまの今まで気づくことが、できなかった。
映画や漫画などのあらゆるメディアにおいての、恋愛ストーリーで、『恋は理屈じゃない』というセリフをよく見かける。
今まさにそれを頭で、そして体で感じているところなのかもしれない。
仮にちとせのどこが好きかを挙げろ、と言われても、『卒倒しそうなくらい可愛い女の子だから』というあまりにも稚拙で、外面しか見ていないような部分しか上げられない。なんとも情けない次第だ。
もうダメだ。何も考えたくない。今日は疲れた・・・。
俺は枕に顔を埋め、ゆっくりゆっくりと瞼を落とした。
週の始まりの朝を迎える。
俺はいつも通り身支度を整え、通学路を歩く。
もう、何度目だろうか。
ちかげの事で頭を悩ませた日があった。
ちとせの事で頭を悩ませた日もあった。
どうして俺はこんなに悩んでいるのか、その答えがやっと見つかった。
俺は二人のうちどちらかを、選ばなければならないのだ。
こんな上から目線な言葉しか出ない俺を、殴ってやりたい。
殴れないなら、今すぐ穴にでも埋まりたい。
二人の気持ちを知った今、俺にできることは、ちゃんとそれぞれの気持ちと向き合うこと。ただ、それだけだ。
ただ、それだけのことなのに、恋愛事に疎い俺は悩みに悩んでしまう。
ちとせもちかげも、魅力的だ。
優劣なんてつけることができない。
傍から見たら、ヘタレとか言われるんだろうな。
けれど、俺は真剣に悩んでいるんだ。それのどこが悪い。
俺はこんな調子で、歩いている最中、ずっと自分の世界に入っていた。
もう周りの目など、気になどしていなかった。
学校へ着くと、仲のいい人同士でしゃべっていたり、本を読んでいる生徒がいたりと、いつもと同じ風景が繰り広げられていた。
いつもと違うのは、俺の心の中だけか、へっ、笑っちまうな。
1時間目までまだ余裕あるな。
「たけるー!」
高らかな声で俺を呼ぶのは、ちかげだ。
「おはよっ、たける☆」
昨日の出来事なぞ、既に忘れているかのように、明るいちかげ。なんか女の子って、メンタル強いんだなと、勝手に思ったり。
「あぁ、おはよう。昨日はデパート楽しかったな」
「うん、すっごく楽しかったよ!」
可愛らしい笑顔で喜ぶちかげ。ちかげのこういう所、すごく魅力的だと思う。
「ん? どうしたの? ボーっとしちゃって」
ハッ!? また自分の世界に浸っていたのか? 俺のメンタルまずいな、オイ。
「どうせ、ちとせさんのことでも、考えてたんでしょ? プイッ」
怒り出すちかげ。いや、まぁ間違ってはいないんだが。
俺の頭の中は、ちかげの魅力と、ちとせの魅力が行ったり来たりしている。ずっとだ。
これじゃあ、会話になんてなりゃしない。
「たける、明日が何の日か知ってる?」
突然ちかげは話題を変えた。
「何の日って、火曜日だろ?」
頭がいっぱいいっぱいの俺は、曜日くらいしか思い浮かばなかった。
「もう、いじわるなんだから。明日は待ちに待った、バレンタインデーでしょ! 私、腕によりをかけて、チョコレート作るんだから☆」
舌を可愛く出しながら、まかせなさいのポーズをとるちかげ。
「まったく、毎年私があげなきゃ、たけるは誰からももらえないんだから」
ちかげの声が少し小さくなる。
「もらえ・・・ないんだから・・・」
少し顔を落とす。
「そ、そういえば、今年はちとせさんがいたわね。私ったら自意識過剰よね、アハハ・・・」
渇いた笑いを浮かべるちかげ。急に元気がなくなったちかげに俺は戸惑う。
「そんなことねーよ」
俺はちかげをフォローする。
「毎年くれるの、正直今はすごくうれしいと思ってるんだ」
俺は話を続ける。
「去年までは、何も思ってなかったんだけどな、お前が俺に悩みを打ち明けてくれた時からか、ちかげからチョコもらえるのって、とても大切だと思ったんだ」
ちかげは真剣に俺の話を聞いている。
「だからさ、今までないがしろにしててごめんな。俺お前のこと大事にしたいからさ」
「ちょ、ちょ・・・」
ちかげは慌てふためいている。
「み、みんながいる前で、こんな恥ずかしいこと言わないでよー、もう!」
え? 俺そんな恥ずかしいこと言ってた?
「言ってるわよ! バカ!」
ちかげは恥ずかしそうにする。
「バカ・・・」
口を尖らせてる割には、嬉しそうな顔をしている。
「す、すまんちかげ。俺も言われてから、恥ずかしくなった」
よく考えたらプロポーズに近いじゃないか、俺やっちまったか。
二人で会話をしていた時間は、始業のチャイムによって止められた。
「じゃあね、たける。私席戻るわね」
ちかげはいそいそと席に戻る。
「おう、じゃあな。また変な英語の文章作るんじゃないぞ」
もうっ、という顔をするちかげ。
「たけるに、大事って言われちゃったら、もうあんな雰囲気のアピールなんて、できないよ」
ちかげが、何か喋っていたみたいだが、机とイスを動かす生徒たちのせいで、ほとんど聞き取れなかった。
そうこうしてる間に、授業はいつも通り、俺たちを無視しながら、開始されるのであった。
5日目と混同してますが、話の流れ的に一緒にしてます。すいません。




