ミスコン占拠注意報
36.
本選の前に、予選というものがあったらしいが、ちとせにとって、予選という言葉は、どうやらいらなかったらしい。
順当に勝ち進んだというよりは、いきなりシード権を握っていた。
どういうことかというと。
無事15時に開催されたミスコン。
開始と同時に、ステージの上では予選が行われていた。
ちとせも1回戦目は正式に出場していたのだが、その結果、投票率99%、さらにミスコンの客である男性が、次々と卒倒して、近くのイスで安静にしているのだ。
そんな様子に気づいた大会主催のスタッフに、「あなたはチートですねぇ。もう本選決定でいいですよ」と言われ、本選への切符を、いとも容易くゲットしてしまったのだ。
ちとせの美貌恐るべし。
まぁ、ファンクラブあるくらいだしな。
だとしても、外界で通じる可愛さっていう証明にもなるんだなぁ。こりゃチートだわ。
ちとせは、何が何だかわからないという顔をしていたが、本選決定の報告を聞くと、大層嬉しそうな顔をしていた。
「たけるー! 私嬉しい!」
目が商品券になってるぞちとせ。
なんか今日のちとせは、なんかちかげと似ているな。まぁ、今は関係ないか。
本選は、予選からのし上がった、5名から選ばれる。
はずだったのだが・・・。
肝心の投票者の男性方が、ほとんど卒倒してしまったため、投票率のバランスに支障が出てしまった。
さらに大会側も、「ここまでハッキリ勝敗がわかるミスコンは初めてだ」と絶賛していたので、優勝は自動的にちとせに決まってしまった。
ちなみにちとせは、あまりのスピードの速さに、キョトンとしている。実感がないのだろう。
優勝者には10分後くらいに、ステージで受賞式を行う、とスタッフから言われ、俺とちとせはステージの裏で待機していた。
本来、舞台裏は男子禁制かと思っていたのだが、デパートミスコンは、来店したときのままの恰好で勝負するため、特に問題はないとのことである。
「とりあえず優勝おめでとう、ちとせ」
ちとせは不思議そうな顔である。
「もう、何が何だかさっぱりわからないわ。いつの間にか優勝してるし。まぁ商品券はゲットしたからいいけどね!」
すげえ、嬉しそうだな、オイ。
「ちとせは、洋服屋行くの好きなのか?」
ちとせはコクリと頷く。
「うん、いつぞやに言ったでしょ。私オシャレするの好きなのよ。だから、1年間1000円均一なんて聞いた時には、もう卒倒しそうになったわよ」
ミスコンでは違った理由で、実際に卒倒してしまっている人もいるわけだが。ここは突っ込まないことにする。
「ちとせさーん、準備お願いしまーす」
スタッフの威勢のいい声が聞こえる。
「あぁ、後ですね」
スタッフは何か説明するようだ。
「授賞式と一緒に、ウイニングランみたいなのもステージ場で行うので、さっきより可愛い恰好してもらえると、主催側としては光栄です!」
要は、さっきと違う雰囲気で出てこいってことなのかな?
って言ってもこれ以上魅力を引き出すようなオシャレアイテムなんてあるのか?
ちとせにも聞いてみたが、今日はこのハンチング以外は帽子は持ってきていないらしい。
う~む。
あ、そうだ! さっきのヘアピン・・・。
口実がましい感じはしたのだが、渡すなら今しかない。
俺は思い切って、ちとせにヘアピンを渡すことにした。
「ち、ちとせ。コレ!」
プレゼントを差し出す。
「え? 私にくれるの?」
驚くちとせ。
「お、おう。俺、昨日ちとせのこと、怒らせちゃったしな。お詫びの気持ちも込めて、お前に渡そうと思って、買ったんだ」
ちとせはとても嬉しそうな顔をしている。
よかった。
「ねーねー、開けていい?」
「おう、いいぞ」
プレゼントを開けるちとせ。
「うわぁ」
喜びの声が舞台裏を包む。
「ヘアピンだぁ」
ウサギがアクセントのアクアブルーのヘアピンを見つめながら、まじまじと見つめるちとせ。
「コレ、ほんとにもらっていいの?」
こりゃプレゼント作戦大成功か?
「ああ、いいぞ。きっとちとせに似合うと思うよ」
「さっそく着けてみるね!」
ハンチングをカバンにしまって、いそいそとヘアピンを着けるちとせ。
「ど、どうかな?」
上目使いでこちらを見てくる。うっ、ヘアピンの破壊力、想像以上だぞこれは。
元々、髪の毛がサラサラなちとせは、帽子を脱いだその後でも、実に魅力的だった。
「せっかくだから、髪型も変えてみようかなー!」
そう言うと、鏡に向かって、アップサイドポニーテールにしたり、ツインテールにしたり、はたまた、おさげにしたりと、色々髪型をいじっていた。
うっ、おさげがムチャクチャ可愛い。
「これに決定―!」
ちとせはまるで俺が望んでいたのをわかっているかのように、おさげ姿で登場することを選んだ。
おさげヤバい! ヘアピンとの相性もヤバイ!
心中落ち着かない俺は、ちとせから目を逸らしていた。
「たける?」
ちとせの心配する声が聞こえる。
俺は恥ずかしくて、下を向いていた。
するとちとせは、俺の目線に合わせるように、下から顔を覗かせてきた。
「どう? たける? ヘアピン似合う?」
自信満々な顔でウインクをするちとせ。
追い打ちとはこういう事を言うのだろうな。
俺はもう卒倒しそうだ。
「か、可愛いよ、すっごく。お、おさげも似合うし」
あぁ、まともに言えてねえ。
「え?」
ちとせは、恥ずかしそうにする。
「か、可愛いって今・・・」
頬に手を当てる。
「や、やだ、たける。そんなこと・・・」
ちとせは俺をとろけたような目で見つめる。
俺もそんなちとせをジッと見つめる。
静かな舞台裏と、外の喧騒とのギャップが、より、今の雰囲気を増進させる。
俺とちとせは、もう互いに顔を近づけていた。
「た、たける・・・」
「ち、ちとせ・・・」
二人の距離はもうすぐ0になる。そんな時だった。
「あの~、授賞式始まるんだけど~」
俺たち二人はハッと我に返った。
スタッフがどうやら、いつまで経っても来ない俺たちに、声を掛けにきたようだ。
「いけませんね~、授賞式始める前に、別のイベント発生させないでください(要訳:リア充は爆発ry)」
「「す、すいませんでした」」
俺たちはスタッフに謝罪をした。
授賞式では、おさげ姿でヘアピンを着けたちとせが、手を振りながらステージ上で、笑顔を振りまいている。
さすが、オシャレ好きだけあって、場馴れしてるのかな。全然緊張した様子が見られないし。
その後、優勝景品の商品券をもらったちとせは、高々と商品券を掲げ、ステージ上からアピールしていた。
なんか小切手とかなら映えるんだが、商品券って地味だな。
ともあれ機嫌が戻って良かった。
ミスコン様々だな。
「たける!」
ステージから降りてきたちとせが、俺に近づく。
「今日はありがと!」
不意打ちだった。
チュッ。
ほっぺにキスをされた。
ちとせはニヒヒとした顔である。
俺はというと・・・もう嬉しさと安堵感が入り混じって、絶賛混乱中である。
「このヘアピン、大事にするね!」
ちとせは、少し顔が赤かっただろうか。
そのまま舞台裏を通り抜けて走り去ってしまった。
うぅ、恥ずかしすぎる。
次どんな顔して会えばいいんだよ。
世の男性を魅了するちとせ。
彼女は俺の中で、特別な人になりつつある。
なんだこの気持ちは?
あぁ、そうか。もしかしてこれが・・・。
未だ鳴り止まぬ歓声を聞きながら、俺はかつて体験したことがないくらい、感慨にふけていた。




