ちとせ探して三千里
35.
俺とちかげは二手に分かれて、ちとせを探すことになった。
ちかげはヘアピン売場で、ちとせを見かけたと言った。
つまり、まだこのデパート内のどこかにいるということだ。
まだそんなに時間は経っていないし、もしかしたら、近くにいるかもしれん。
「たけるは、3階と4階さがして! 私は1階と2階探してるから!」
ちかげはそう言うと、ヘアピン売り場から近いエスカレーターで、下へと降りて行った。
さぁて、俺も探し始めるとするか。一体どの辺にいるのだろうか。
女の子が一人で行くような場所か。うーん、さっぱり思いつかないな。ちかげに聞いとくべきだったか。
そんな不安をよそに、土曜日の今日、1階のセンターコートでは、ミスコンが15時から開始するとの、大きな看板が目に入る。
下を覗くと、係員がいそいそと準備を始めている。
まったく、今はそれどころじゃないってのに。
4階に上った俺は、洋服売り場を手当たり次第散策していた。
女の子が来る店と言えば、まずここだろう。
一人で来るかどうかは知らんけどな。この際仕方ない。
1軒、2軒、3軒と、テナントを回っていくが、一向にちとせらしき姿は見つけられない。あぁ、もうどうしたらいいんだ!
「ちとせさん見つかった?」
ちかげから電話だった。
「いや、ダメだ。洋服屋を重点的に探してるんだが、一向に見つからない」
「そう・・・。私も探してるけどまだ見つからないわ。もう少し探してみるね」
ちかげもまだ見つかっていないのか。
「わかった。俺ももう少し探してみるよ」
そう言って、電話を切ろうとした瞬間だった。
俺は前方にいるデパート客に気づかず、勢いそのまま、正面からぶつかってしまった。
いてて・・・。こりゃあ完全に、俺の前方不注意だわ。
「す、すいません、大丈夫ですか? 俺全然前見てなくて。ケガとかは?」
俺は慌てて、相手に謝罪をする。
「いえいえ、こちらこそ。私も考え事をしてたもので」
透き通るような、女性の声。
よりによって、女の人を跳ね飛ばしてしまうとは。こりゃあ男として罪が大きいぞ。
俺は跳ね飛ばしてしまった、女性の元へと向かい、座り込んだままの女性の手を取る。
「本当にごめんなさい。服汚れちゃってますよね? クリーニング代とか出しますよ」
女性は、ベージュのハンチングに、ブルーのホットパンツにファー付きの茶ジャケット、ニーハイと、おしゃれな恰好をしていた。うっ、高そうな服。
「本当に大丈夫ですから、そんなしょげた顔しないでください。この服なんて安物ですから」
世の中には、心の広い人がいるもんだ。
俺は女性の手を引こうとする。
そのとき、帽子からチラリと見える顔に、少し見覚えがあった。
明るみのかかったキレイな茶色髪で、サラサラとしていそうなロングストレート。
「あっ!」
女性は驚くような声を出す。
「あっ!」
俺もその正体に気づく。
やっと見つけた。
ぶつかった相手はちとせだった。
帽子を深くかぶっていたのと、制服とは180度印象が違う、ボーイッシュなその姿に、ちとせと気づくことは、どうやらできなかったようだ。
ちとせは俺から目を逸らす。そうだよな、まだ怒ってるんだよな。
どうしたらいいものか。
せっかく会えたのに、このままじゃ気まずいままだ。
しばらく悩んでいる俺の視界に、ある大きな看板が目に入った。
『デパートミスコン開催! 15時から開始いたします!』
こ、これだ!
ムスッとしたままのちとせに俺は、話しかける。
「ちとせ! お前今時間あるか?」
開始まで、あと30分だ。
「え? ま、まぁ時間はあるけど・・・」
「じゃあ決まりだ!」
俺はちとせの手を引っ張る。
「ちょ、ちょっと何するのよ! というかどこに行くのよ!」
構うもんか、もうこれしかちとせの機嫌を直す方法はなさそうだからな。
1階のセンターホールまで、俺たちは走る。
時間はまだ十分ある。これなら、大会のルールとかも熟知できそうだ。
とりあえずここで待っててくれ。
不思議そうな顔をするちとせを、センターコートのイスに座らせ、俺は会場へと向かう。
1階ミスコン開催会場では、大会の説明付きのポスターを配っていた。
俺はその説明部分を読む。
『当ミスコンは、本日いらっしゃったお客様の中から、最も可愛い女の子を決めたいと思います』
ほうほう。
『対象は女子高生、服装は自由』
ふむふむ。
『優勝者には、このデパートの洋服店で使える、1年間全ての商品が1000円均一になる、商品券が送られます!』
なんか随分ピンポイントな商品券だな。
「たーけーる?」
後ろから声が聞こえる。
さらに肩を掴まれたようだ。
振り向くと、欲望丸出しの鋭い眼光がそこにあった。
「ち、ちとせ? なんか怖いぞ?」
これはもしかしなくても、商品券が原因か?
「たける、私、このミスコンでるわ!」




