修羅場だよ3人集合
32.
午後のハチャメチャで、明るい授業風景とは裏腹に、外では季節外れの大雨が降っていた。
うぅ、ただでさえ寒いのに、雨なんか降ったら、寒冷前線のせいで、今後もっと寒くなるじゃないか。やめてくれ。
内なる心が愚痴を言っていると、時間は既にHRを終えて、放課後になっていた。
他の生徒は、部活動に行ったり、中には雨を突っ切って、帰宅を始める生徒もいる。
俺も帰ろうとは思ったのだが、あまりの大雨に外に出れないでいた。
「こりゃあ、しばらく雨宿りだな」
とりあえず俺は、雨が小降りになるまで、教室で待機することにした。早く止んでほしいもんだね。おー、寒い寒い。
しばらく教室で待機をしていると、開きっぱなしのドアから、美少女が一人やって来た。
「たけるー。たけるいるー?」
ちとせであった。
そうか、ちとせもこの大雨で、帰れずにいたのか。
聞くと、どうやらちとせは、雨が止むまで暇つぶしがしたいらしい。そりゃあ、この雨じゃな。
「付き合ってもらって、ごめんねーたける」
ちとせは可愛らしく『ゴメンネ!』のポーズをする。
「いやいや、どうせ俺も暇だったんだ。ホント雨すごいな」
互いに大雨の話で盛り上がる。
天気の話題って、ホントどんな時でも話しやすいよな。
そういえば、今まであんまり意識してなかったけど、ちとせはいつも、俺のクラスに来てくれるのな。
なんか、「来てもらって悪いな」という思いもあるのだが、「毎度ひょっこり来てくれるのが可愛い」という思いも実はあったりする。
ちとせは、可愛らしく俺の顔を覗き込む。
「ん? なんか考え事?」
見ているだけで卒倒しそうな美少女と、至近距離になる。
整った眉、プルンとした唇、パッチリとした瞳が、俺を魅力の渦に巻き込む。
頭がボーっとしてくる。
嫌じゃないんだが、これはこれでキツイもんがあるな。
顔がニヤけてしまいそうだ。
ちとせは眉毛をへの字にする。
「ニヤニヤしちゃって、変なたける」
え? 俺ニヤニヤしてた!? マジか? ハズカシー!(KBC風←)
しばらくは、ちとせと他愛のない話をしていた。
雨の方は時間が経っても、勢いを増すばかりである。
にしても、さっきから俺から少し離れたところで、大雨とは違う音が聞こえるんだよな。
なんなんだろう?
仮に擬音語にするなら、『ゴゴゴゴ・・・』っていう音だ。
なんか以前にも聞いたことあるような、ないような。まぁ、俺の気のせいであろう。
「・・・」
どうやら、気のせいではなかったようだ。
前方から、背景に炎の壁を纏った、黒髪の美少女がこちらにやってくる。
その雰囲気は殺伐としていて、確実に獲物を仕留めるような目をしている。
怖い、なにこれ怖い。
俺なにかした?
黒髪の美少女は、悪党が弱者を追い詰めるかのごとく、ゆっくりゆっくりと歩幅を刻む。
そして、俺の席の前までくると、言葉を発した。
「たーけーる?」
「は、はい!」
ビビリすぎだろう俺。
理由はわからんが、ムチャクチャ怒ってる様子だ。
「たぁーのしそぉうーだねぇー?」
未曾有の恐怖が俺を包んだ(言い過ぎ)
はぁ、誰か俺を助けてください。
世界の中心にでもなんでも行きますから、俺を助けてください・・・。
そう、命乞いをしていると、ずっと俺の隣にいたちとせが、明るい口調で口を開く。
「あー! あなたもしかして!」
黒髪の美少女に、人差し指を向けるちとせ。
「たけるの幼馴染さん!?」
何かを発見したかのような声で、黒髪の美少女に質問をする。
「ちかげさんでしょ? うわぁ、スタイルいいな~可愛いなぁ~」
ちとせの言葉で、雰囲気が一転して和やかになる。
当の黒髪美少女ちかげは、少し困惑している様子だ。
お構いなしに、ちとせは褒め殺しを続けている。
「ちかげさんスポーツでもやってるの? いや、実はモデルとかやってるんでしょ~? そうじゃなきゃ、こんなスタイル良くないって!」
ちとせの褒め言葉に、頬を赤くするちかげ。
「べ、別に特別してることなんて、な、ないわよ」
ちかげ、顔がニヤけてるぞ。
俺は、今まで見たことないちかげの表情に、笑いそうになる。
ダメだ、まだ笑うな、堪えるんだ。
「ブフーッ!」
見事に吹き出す俺であった。
残念、だめでした。
ちかげは、慌てふためきながら、俺に人差し指を向ける。
「ち、ちょ、たける。笑ったわね!」
笑いながらも、否定する俺。
「いやいや違うって。ちょっとカワイイなーって思っただけだよ」
そう言うとちかげは、さっきより顔が赤くなり、首を左右に往復させる。
どうしたちかげ?
「も、もう! たけるのいじわる!」
何がいじわるか、わからんが、動揺するちかげは可愛いな。
もうちょい、このままにしておきたいくらいだ。
にしてもちとせ、サンキューな。
お前のおかげで、ちかげの機嫌が戻ったみたいだ。
大雨はまだ止まない。
ん? 何か教室を取り巻く雰囲気がおかしい。
俺とちかげが話している隣で、不思議と氷のような冷たい視線を、感じるのだ。
え? 何? ちかげの機嫌は戻ったはずじゃあ・・・。
一体誰だ、まさかちとせじゃないだろうな。
まさかとは思い、気配のする方へ振り向くと、ちとせの背景には、触れれば皆凍らしてしまいそうな、吹雪が渦巻いているではないか。
あれ? どうかなさいましたか? ちとせさん?
無意識に恐怖を感じたせいか、自然と敬語を使い始める俺。
ちとせさん、なんか怖いですよ。
どう見ても怒っている。理由はわからんが、これは怒っている。
まったく、ちかげといい、ちとせといい、一体なんなんだ。俺が何したっていうんだ。
ちかげが『炎』で、ちとせが『氷』って、彼女らは、何か強大な敵に立ち向かうために、属性でも持ち合わせているのだろうか。それに弱い俺は、『草』ってか。
―って全然関係ないか。
ちとせのゆっくりとした声が聞こえる。
「たぁーけぇーるー?」
「は、はい!」
ビビりすぎだろう俺2(ツー)。
だってムチャクチャ怖いぞ。
さっきまで、胸をドキドキさせていた人と、同一人物とは思えない。
「さすが、幼馴染ね~。仲 が よ ろ し い こ と」
さっきのちかげと、同じような恐怖を感じる。
誰か俺を助けてください。何でもしますから、俺を助けてください。
再び命乞いをしていると、ずっと俺の隣にいたちかげが、元気な声で口を開く。
「あなた、ちとせさんでしょ!? 絶対そうよ!」
ちとせ同様、何かを発見したように、ちとせに人差し指を向けるちかげ。
「噂には聞いてるわよ。Dクラスに、キレイな茶髪で、お嬢様みたいな女の子がいるって!」
ちかげは頬に手を当てながら、褒め殺しを続ける。
「実際見ると、ホント可愛いのね。触りたくなるくらい髪の毛キレイだし、顔のパーツがここまで揃っている人見たことないくらいよ」
ちかげの言葉で、雰囲気が和やかムードに戻る。
ちかげの褒め殺しはさらに続く。
「ちょっと、スタイルいいとか言ってくれたけど、ちとせさんの方が、全然スタイルいいじゃない! もう遠慮しちゃって☆」
ちかげは実に無邪気な顔で続ける。
「しかも、笑い方とか、仕草とか、遠慮しちゃうとことか、イチイチお嬢様っぽくて落ち着いてるわねー。すっごく可愛い!」
あんまり褒めると、嫌味に聞こえそうだが、ちかげからは、そういう雰囲気を一切感じさせない。
ちかげの褒め言葉もまぁ、よく出るなーと思うが、ちとせのスペックも、それに見合っているからな。ちとせ恐るべし。
ちとせはというと、普段から褒められなれているせいか、すぐさまちかげに、褒めセリフを返している。
「いやいや~、ちかげさんの方が、スタイルいいよ~。なんか活発で元気っ娘って感じだし」
ちかげもそれに応じて、セリフを返す。
「いやいや、ちとせさん、そのスタイルでそれはないよ~☆ それにスタイルいいお嬢様なんて学校に、いないよ☆」
「いやいや、ちかげさんの方が―」
「いやいや、ちとせさんの方が―」
お互い褒め合う二人。
「いやいや―」
「いやいや―」
ん? なんかいつの間に、女子トークが開始されてるな。俺置いてけぼりだし。
まぁ、いいか。ちとせも機嫌戻ったみたいだし。良かった良かった。
俺は心象落ち着いた二人に声をかける。
「いやぁ、理由はわからんが、二人とも機嫌戻ったみたいで安心したぜ」
と高らかにサムズアップする俺。
「「は?」」
二人のドス声が見事なハーモニーを奏でた。
あ、あれ? 俺なんかまずいこと言った?
二人は眉をへの字にしながら、俺の方を見ると、呆れたような顔で、
「バカ―(ちかげ)」
「バカ―(ちとせ)」
とため息をつく。
もう何なんだよ一体。
結果を言うと、和やかな雰囲気は俺のせいで崩れてしまったようだ。
ちとせは頬をプクーッと膨らませて、先に教室を出て行ってしまった。
あぁ・・・。
一体なにがいけなかったんだ。
ちかげはというと、残ってくれていた。
お前もこの場から、去ってしまうかと思ったよ。幼馴染、マジ感謝。
終始悩んでいる俺に、ちかげは説教を始める。
「全く、たけるったら・・・。ちとせさん帰っちゃったじゃないの」
強く反省する俺。
「お前も怒ってるのか?」
ちかげは、少し照れた様子で、
「わ、私はたけるが不器用なことくらい、昔から知ってるんだから、このくらい大丈夫よ」
と答える。
ありがとうちかげ。マジ幼馴染。
解決策が見いだせない俺は、ちかげに頼るしか頭になかった。
「ど、どうしたらちとせは、機嫌直してくれるんだ? 何しでかしたか、俺には全然わからないんだ」
ちかげは、ため息を付きながらも、俺に救いの手を差し伸べる。
「しょうがない、教えてあげるわよ。一番いい方法をね」
ちかげは自信満々で腕を組みながら、助言する。
「それはね・・・」
それは―?
「プレゼントよ!」




