脅迫状
27.
俺は気を紛らわすためか、その場の思いつきか。学校へ向かう間、スマートフォンで、お気に入りのロックを聞きながら、通学路を歩いていた。
このプレイヤーは、父親から譲り受けたものだ。どうやら、新しいものが手に入ったのでお前にやる、とのことである。
父親は言っていた。
「最近のスマホにせよ、ミュージックプレイヤーにせよ、進化したよなぁ。昔音楽を聞くのには、CDをわざわざポータブルプレイヤーに入れて、聴かなきゃいけなかったんだ」
さらにこう答えた。
「しかも、長さによってだが、最大で12曲しか入らないんだ。今は、そんな媒体も要らないし、何千曲入るんだよまったくって感じだな(笑)」
などと笑って話していた。
まぁ、俺にとってはなんのことだか、さっぱりわからんが。父親が歩んでいた時代は色々、試行錯誤でもされていたのだろう。
一応俺が持っているのは、最新の型の一つ前のらしいから、対応してるアプリケーションやら、ツールやらは多い。
俺が使ってるのは、メール(メルマガ)と電話とインターネットくらいか。
ソーシャルゲームはマサトの薦めで、恋愛シュミレーションをやってみたのだが、いかんせんマサトが、
「うひょー! ここみちゃん(仮名)、かわいい!」
と興奮し始めたり、
「ことりちゃん(仮名)、ぶひいいいいい!」
と養豚所顔負けの(大げさ)鳴き声で、叫んでいたので、満足にプレイすることは、できなかったのである。
それ以降、やってみたのだが、面倒なステータスやら、LVアップやらがあって、俺向きではなかったようだ。
あと課金はダメと親に釘刺されてるし、結局のところ、連絡手段以外では、使用することはない。
全然使いきれてないな俺。
そうこうしている内に、俺は学校へと、たどり着いた。
時間はお昼休み中だ。そんなに、周りの目を気にせずに下駄箱へと向かう。
教室に入ると、マサトが俺に向かってきた。
「おーい、たける。なにやってたんだよ。お前欠席扱いになってるぜ」
まぁそうだろうな。
「でも、大丈夫。俺がちゃんと、先生に頭痛ですって話しといたからな」
ほう、マサトにしては珍しい気遣いだな。どういう風の吹き回しだ?
俺は少し疑問に思いながらも、マサトと別れて、自分の席に着くことにした。
ん? 俺は自分の机に少し違和感を感じた。
普段から、机に落書きなどしない、させない、とらせない(?)俺の机は、もちろんピカピカである。
だが、そのピカピカの机には、机を覆うくらいの、大きな貼り紙が貼ってあった。
『ダーリンへ。あとで屋上』
と、赤文字で書かれていた。
なんだこの恐怖感は?
字面を見るだけなら、愛の告白をされると、ウキウキしてしまいそうな文章だが。
一人称が『ダーリン』って書いてあるな。俺の知り合いか?
こんな呼ばれ方、普段されないしな。
うーん・・・。
あ、そういえば、一人そんなやついたような。
もしかしてちかげか? メールの時にしか『ダーリン』と見ていないが。(認知したわけでもない)
それだけで、ちかげと判断するにはまだ早いかもしれない。
しかしながら、この文章からは、殺意しか受け取れない気がするのはなぜだ。俺の気のせいなら、いいんだが・・・。
俺はとりあえず、机全面の大きさで貼ってある、その張り紙を剥がすことにした。
まったく、こんなイタズラするのは一体誰なんだ。こんなもん、剥がしてやる。
いそいそと、紙を剥がし始める。
丸めようと思ったのだが、紙の裏面にも何か書いてあるかも、と思ったので、裏面を見ることにしてみた。まぁ、どうせ何も書いてないだろうけどな。
ペラッ。
『剥がしたわね』
と裏面に大きな赤文字で書いてあった。
「ぎぃやぁああああ」
思わず声を出してしまった。
まわりのクラスメイトが、大声に驚き、少しこちらを向いていた。が、すぐに話していたグループと会話を再開していた。それほど、気にならなかったのだろう。よかった。
それにしてもなんだ? これはホラーか?(驚愕)まさか、相手の心情を読み取るとは。
これは、恐ろしい。屋上に行くと殺られる気がするが、行かない方が、もっとひどいことを、されそうな気がする。
そう決断(選択肢なし)した俺は、恐る恐る屋上へと向かうことにした。
あれ? でも時間指定とかは、なかったような。行ったところで、ちゃんといるんだろうか? と屋上へ向かう階段で、俺は疑問に思い始める。
しかし、そんな不安はすぐに消える。
突如、俺の携帯が鳴り始めた。
思わず、ビクっとしながらも、携帯を取り出す。
なんか事件に巻き込まれでも、してるみたいだな。ドラマはあまり見ないから、シチュエーションこそ微々たるものしか、わからないが。
こういう時は、犯人から『非通知設定』で電話が掛かってきて、
「(犯人)約束通り、金は持ってきたんだろうな」
「(被害者)は、はい」
「じゃあ、そのまま屋上に来い」
みたいな、緊迫した流れが待っているのだろう、と俺は思っていた。
携帯はまだ鳴り響いている。これを取るのには、相当な勇気が求められる。
しかし、このままじゃ、前に進めない。
俺は思い切ってボタンを押すことにした。
ん? そういえば緊張のあまり、俺は着信画面を見ていなかったな。いけない、いけない。
少し緊張が解けた俺は、着信画面を改めて見ることにした。
着信画面は・・・。
『184たける まだ早いって///』
・・・と奇抜な名前が画面に表示されていた。
あぁ、完全にちかげだわコレ。
ていうか、犯人とか被害者とか、全然関係なかった件。(茫然)
ちかげめ。QRコードで、メルアド交換したときは、ちゃんと「ちかげ」と、名前で書いてあったのに。これは一体どういうことなんだ。
いつ、俺の携帯いじったんだ。渡した覚えもないし。まさか、ちかげには、トンデモ能力あるとでも言うのか。あと、頭に184付けてるけど、番号につけないと『非通知設定』にならねぇからな。
と突っ込みどころ満載な、着信画面がそこに繰り広げられていた。
「はぁ」
とため息をついた俺は、とりあえず受話器ボタンを押すことにする。
しかし、押そうとした所で、電話が切れてしまった。もうわけがわからん。
ちかげは一体何を考えているんだか。
それにしても、赤文字で書かれていた、あの張り紙から察するに、俺が何かしでかしたのか?
そんな悪いことをした覚えはないのだがな。
と内心ドキドキしながら、屋上へ通じる扉を開ける。
「うわっ、まぶし」
うちの学校は屋上の付近になると、窓が設置されていないため、終日暗い。
そのため、屋上へ上がる時は、常に日の光の恩恵を、感じすぎてしまうわけだ。
ゆっくりと、扉を開けてみると、そこには仁王立ちした、女の子のシルエットが、見えたような気がした。
眩しくて、まだ誰だかわからない。誰なんだろう。
そのシルエットはゆっくり、ゆっくりと、俺に歩み寄ってきた。




