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19 王


 アンナの手配で聖堂を介して王への謁見が叶った。王宮にはシロ、ニーナ、ジャンが向かう。橋を通って聖堂へ行き、聖堂からは馬車で移動した。初めて乗る馬車でシロは最初は喜んでいたが、段々文句が増えた。ニーナが膝枕を提案したら大人しくすぐ横になった。


 王宮の入り口では一人ずつ知らずに魔道具に触れた。シロたちが触る度に魔道具が光るので王宮の者は騒ついた。シロはなぜ騒ぐのか分からなかったが、ジャンは聖堂で使っていた魔道具と同じものかもしれないと思った。


 王の謁見室に案内された。


「昔魔暴走があったのを知っているか。」

シロがいきなり切り出した。

「何十年も前の話だ。」

衛兵が無礼な奴だと騒いだ。

「その魔暴走していた者が被っていた王冠だよ。遺体は聖堂にある。今どうなっているかは知らないけど。」


 シロは亜空間から王冠を取り出した。

「それは王と共に消えた王冠ではないか!」

セルジュの傍にいた男が、指を差しながら声を荒げた。

「僕は知らない。もし王の物だと言うならその王が魔暴走したんだろうな。」


 ドニに邪魔されて、なかなか劇を観せてもらえなかったシロは、一人で劇を観に行った。そして亜空間に放り込んであった王冠を思い出したのだった。


「一先ず王冠の事はどうでも良い。」

セルジュが傍らの男を嗜めた。

「法律も変わって、王冠がなくとも今は俺が王だ。そんな事よりも、三人ともに魔道具が反応した。全員王太后の得体の知れない魔力と同じものを持っている。」


「僕ら三人に共通するとしたら、僕の龍の魔力だろうな。ニーナは龍玉があるし、ジャンはコウと僕の眷族だ。得体の知れないとは失礼な。」

「なぜ王太后の魔力も同じなんだ。」

「僕は与えていないから分からない。」

セルジュは衛兵を呼んだ。

「王太后をうまく誘導してここに連れてこい。」

「承知しました。」


「なんにせよ、その龍玉を王に献上せよ。」

「なんのために?」

「国のためだ。」

「意味が分からない。龍玉はニーナを選んだ。」

「ならその女ごと渡せ!」

「断る。」

「やはりその女はお前の『愛し子』なのか?」

「愛し子だからなんだ?確かにニーナの事は愛しいが。だからなに?」

「マリーという女も『愛し子』だったのだろう?その女の龍玉は王太后が持っているではないか。俺にも渡せ!」


「王冠を持った美しい男とはお前のこと?」

若く美しい女が謁見の間に入ってきた。

「オルヴィエカ!どうしたんだ。寝てなくて大丈夫なのか?」

「あら、首飾りを取るのを忘れてしまったわ。」


「何を言っているんだ?王太后を呼んだのに来たのはオルヴィエカ。どう言う事だ?」

セルジュはオルヴィエカの傍にいる側近を見た。その男は龍玉の調査でいつも有益な情報を持ってきた男だった。セルジュは困惑していた。


 シロは女の胸元にある龍玉に気づいた。龍玉は特殊な金属で固定されて首飾りになっていた。

「お前は誰だ?なぜマリーに贈った龍玉を持っている?マリーは王宮にいるんじゃないのか?」


「そんなはずあり得ませんでしょう?マリーなる下賤な者がなぜ王宮に?」

シロの魔力が膨らんだ。ニーナはシロの手を握った。

「シロ、冷静になって。」

シロはニーナを見た。


「マリー、あの気の毒な女。この石はそのマリーの家で見つかった飾り箱に入っていた物よ。一度も開けらなかった箱。この箱を最初に開けたのはワタクシですわ。この石はワタクシに捧げられた物。あら?あなたもしかしてシロ?あの女の日記にありましたわ。それにその顔、どこかで見た事がありますわね。」


「マリーが気の毒ってどういうことだ!」

「あの女が龍を操っていると言われて孤立した話はご存知ありませんの?」

「孤立?」

「女の家から龍が飛び立つのを見た者がいましたの。この国を結界で覆って孤立させたのは龍の仕業だ、あの女がやらせたんじゃないか、と。執拗に付き纏われて、寂しい最期だったそうですわ。その女の家から見つかった石をワタクシに献上した者が居ましたの。」


 シロは無言だった。

「本当の事を言っているか分からないわ。惑わされちゃダメよ。」

ニーナはシロの手を強く握りしめた。


「知らないとはおめでたい事ですわね。直接女の家で確認したから間違いないありませんわ。ああ、そうですわ。あなたあの時魔暴走した王を止めようとした方ですわね。思い出しましたわ。」


「魔暴走したのは本当に王だったのか!王太后なのか・・・」

セルジュは膝から崩れ落ちた。


「この石を身につけた途端、力が漲りましたの。

他にも何かないかと家に行きましたら、絵本と日記くらいで。折角ワタクシがわざわざ来たのにつまらないこと。でも帰りに面白い物を観ましたのよ。魔暴走した王を止めようと結界を張リましたわよね。でも役に立っていませんでしたわ。大したことありませんのね。」


 シロは黙って女を見た。ジャンはいつでニーナを護れるように周囲を警戒していた。


「ご存知?魔力を無理やり込めると魔暴走するのよ。王だと威張り腐った者があれでは。ふふっ。愉快でしたわ。」

「何のために?」

王太后が理解できずセルジュは思わず聞いた。


「ワタクシが王になるためよ。結界で閉じたこの世界がどう発展しますの?この国はもう詰んでいるわ。他国と交流もない閉じた箱庭。ワタクシのために全て動かして何が悪いんですの?王はワタクシよ!」

「なんだと?なんということを。」

「偉そうに女を取っ替え引っ替えし、ワタクシを蔑ろにしたあの男。狂っていく様は本当に愉快でしたわ。」


「お前こそ狂っている。オルヴィエカはどこへやった!衛兵、捕らえよ!」

王太后は衛兵を衝撃波で薙ぎ払った。ジャンが結界を張ってニーナたちを護る。

「シロとやら、哀れですわ。マリーはあなたを愛しておりましたのよ。あなたへの愛に苦しみ、他の男に逃げた。その人にも裏切られ、なんとか生きていたのに久しぶりに現れたいつまでも若くて美しいあなたに、母親呼ばわりされて絶望した。あの女を誰よりも何よりも傷付けたのはあなたですわ!」

王太后は高笑いをし、龍玉を手に持ちシロを攻撃しようとした。


「うわあぁぁぁぁ!」

「シロ!」

「ブンッ!」

シロから無意識に放たれた大きな魔力の波。シロたちを中心にして波紋を描くように人が倒れていく。高魔力に晒されて気を失ったようだ。ニーナはジャンが護った。


「パリン!」

王太后の胸元の龍玉が割れた。

「ぎゃあぁぁぁぁー!」

人とは思えない声。王太后は萎びていく。若さも美しさも失った。萎びた人のようなもの。もう意識もないようだった。


「うぅぅ。」

ニーナも崩れ落ちた。苦しそうだ。

「シロ…ま…りょく…とめ…て…りゅ…ぎょ…くるし…」

「シロさま!ニーナが!」

ジャンの声で我に返ったシロは、

「龍玉!ニーナから出ろ!」

「シ…ロ… む…り…」

「コウ!クロ!」

シロは二匹の龍を転移させた。



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