15 白虹の思い出
虹色の龍、白い龍、黒い龍が居た。白い龍が作り出した亜空間を根城に、自由に暮らしていた。
白い龍は人を眺めては、気に入った動きを真似るのがお気に入りだった。亜空間にはない森や川も好きで、亜空間に作ろうかな、と言って黒い龍に止められた。真似て遊びうち、人型になれる事に気づいた白い龍は、黒い龍と虹色の龍を呼んだ。何事かと慌てて飛んできた二匹の龍に、その場で人型に変化して見せた。黒い龍は呆れていたが、虹色の龍は
「人の世界に遊びに行ってみれば?」
と言った。
白い龍は上から見ていて気になっていた川に飛び込んだ。流されるのが面白い。流れたり沈んだりを繰り返していると川底に沈んだ。そのままひっくり返って水の中から空を見た。景色が揺らいで綺麗。白い龍はしばらくそのまま眺めていた。景色が急に濁って川の外に引っ張り出された。
「大丈夫?溺れてた?息できる?」
女の子が自分を見ていた。
「え。たぶん。」
「よかったー!びっくりしたわ。溺れたかと思った。川で一人で遊ぶのは危ないのよ。」
「おぼれる?」
おぼれるって分からなかったけど、シロはなんだか心地よかった。
「あなたどこの子?お名前は?」
「なまえ。」
マリーは自分を指差した。
「私マリー、あなたは?」
シロを指差した。
「・・・・・・」
「あ、ナイショにしないといけないお家の人?じゃあ、シロって呼ぶわね。髪の毛白いし。あっちで遊びましょう!」
白い龍は『シロ』になった。気に入った。マリーと草原を走った。川に石を投げた。水面を飛ぶ石。面白かった。花を見た。風に揺れる木立の下で昼寝をした。マリーはシロの特別になった。
シロは亜空間を広げて固定した。大地から木や花を転移して植えた。コウに手伝ってもらって、泉を作った。クロが拾ってきた癒しの魔石を泉に入れた。泉は大小合わせて五つできた。泉に浸かるとちょっとした傷は癒やされ、疲れが減った。シロは大きな泉をねぐらに決めた。
シロは家を教えてもらって、何度もマリーのところへ遊びに行った。
「シロ!虹よ!」
「にじ。」
「ほらあれ!綺麗ね。」
「うん。綺麗。」
虹色の龍が飛んでるみたいだ、とシロは思った。
「しろいにじってある?」
「あるわよ。はっこうっていうのよ。白い虹と書いて白虹。一度見てみたいわ。」
シロは虹色の龍と黒い龍に久しぶりに会った。
「なまえができたんだ。シロって呼んで。白虹でもいいよ。」
「呼び名か。我々にはなかったな。俺はコウでいいかな。黒いの、お前は?」
「白いのがシロならわしはクロか?」
「人とは面白いものだな。シロ、クロ。」
「コウ。」
シロは嬉しそうだった。
「シロはかわいいなぁ!」
コウは笑って飛んでいった。
クロはコウを見送って苦笑いをした。
「シロ、またな。」
と、コウとは逆に向かって飛んでいった。
しばらくすると、マリーに恋人ができた。
「シロは友だちだから特別に教えてあげる。」
とマリーは色々な夢を語った。白い服で嫁に行くとか、どんな家に住んで子どもは何人で、と嬉しそうなマリー。
「私今幸せなの。」
そう言って微笑んだマリーは今までで一番綺麗だった。
「お話はここでおしまい。」
話し終えたシロは、アンナが淹れたお茶を飲んだ。
「じゃあ、マリーさんはシロじゃない人のお嫁さんになったの?」
「これよりあとの話はまた今度ね。今日はもう帰ろう?そうだ、亜空間の家と直接行き来できる扉を作ろう。」
シロはニーナの頭を撫でると、あっという間に扉を作った。
「ニーナまたね。」
シロは片手を上げて挨拶をすると、玄関から帰っていった。