16 再会
ニーナとドニは早速扉を使ってネオコルムに帰ってきた。
「ドニはマリーさんのこと知ってるの?」
「お会いしたことはありませんけど、猫族の記録には残っています。でも、ワタシからお話しするのはさすがに。」
「そうね。シロが話さなかった事をドニに聞くのは良くなかったわね。ドニ、素敵な家を建ててくれてありがと。あ、コウさまいらしてたね。」
ニーナが二階の階段からシロたちの会話を聞いていた時、窓の外をコウが通ったのが見えた。
「今もゾーイ様の家を見にいらっしゃる事があるんですよ。」
「会いたいのかな。」
「きっとそうです。」
その夜、ドニはゾーイの家のキッチンでお茶を飲んでいた。玄関が開く音がしたので、ドニは玄関へ向かった。
「ゾーイ!いるのか?ゾーイ!」
「おかえりなさいませ、コウさま。」
「ドニ!すまない。家の明かりがついていたから。」
コウは帰ろうとしたが、ドニはコウの腕を掴んだ。
「コウさま、お待ちください。今日は聞いてもらわなければいけない事がございます。どうかお座りください。今日が終わればまた避けていただいても構いません。」
ドニは椅子を勧めた。
「ごめん、ドニを避けてるつもりはなかったんだけど、ゾーイのこと思い出しちゃって。」
「いいんですよ。誰だってそうです。ゾーイ様は猫族の間で有名ですから。何があったのかは伝え聞いています。」
「そうなんだ。ルドルフのことも?」
「はい。ルドルフ様は多くの猫族に感謝されていますからね。もちろんコウさまもですよ。」
「俺も?」
「功労者ですから。」
「ゾーイ様が最期までお世話するとアルジに選んだのはコウさまです。」
コウは顔を上げてドニを見た。
「我々は護衛もしますから、アルジと決めた人以外を護ることもあります。あの場面で、ゾーイ様は戦うことより護る方を選びました。ルドルフ様を絶対に無事で帰すためには、お側を離れてはダメだと。瞬時のその判断、猫族は皆尊敬しています。ゾーイ様のようになれとは教えませんけど、矜持を持って生きなさいって教わるんです。」
窓から外を見て、ドニは続けた。
「私は思うんです。本当はゾーイ様だってそんなつもりはなかったんです。ちゃんとその日のうちにコウさまのところに帰るつもりだったんです。猫族はアルジと決めた者のことが大好きですから。」
「ゾーイ。」
コウは両手で顔を覆った。後から後から涙が出てくる。
「大好きはいつまで経っても消えないな。」
「我々は護る側ですから、護りたいから守るし、その人が笑顔でいてくれたらそれで満足なんです。でも自分のために泣いてくれる人がいるのは、なにかこう、胸がいっぱいになりますね。」
ドニはコウの手をとって椅子から立たせた。
「失礼します。」
抱きしめた。
「ワタシの胸に懐かれると幸せになる、と言われておりますので。」
ドニに充分包まれてから、コウは言った。
「人型ってこういう時いいなって思う。」
ドニはギュッと手に力を込めた。肉球がコウの背中を押す。
「ありがとう、ドニ。さすが優勝者。」
「いつでもお申し付けくださいませ。」
ドニは優しく笑った。ドニの肉球が離れて背中が寂しくなったと思ったら、もふもふが追加された。
「ドニすごい。どうやって?まるでお世話猫たちに挟まれてるみたいだ。猫族の魔法?」
「コウ!」
コウは顔を上げた。
「ゾーイ?」
ドニから離れて振り返るとゾーイが照れ臭そうに立っていた。
「ただいま。」
ゾーイは両腕を広げた。
「え。本物?」
コウはゾーイに飛び込んだ。
「え。もふもふ度上がってる。」
「そうじゃないだろ?」
「おかえり。ゾーイ。俺のお世話猫。」
コウはゾーイの胸に顔を埋めてしばらく泣いた。
ドニはお茶の支度をしていた。
「怪我をした猫はみんなやりたがるんですよね、この再会劇。アルジと決めた者の感情を動かすのが何より好きですから。」
「無事だったなら一言言ってくれれば心配しなかったのに!」
再会の衝撃が落ち着いたコウは不機嫌だった。
「この再会劇が終わるとアルジが不機嫌になるところまでが定番ですけど、ゾーイ様、ちょっと前まで本当に動けなかったんですよ。」
ドニは新しくお茶を淹れながら言った。
「お世話猫が頑強なのは知ってるだろ?再生能力があるからなのも知ってるか?」
「初耳。」
「今回はちょっと怪我が大きかったからかなり時間は掛っちまったが、眠れば治る。俺のもふもふ度上がってただろ?ドニが世話してくれてたからだぞ。今だけだ。さすがだな。何が違うんだろうなぁ。」
「まあ、ゾーイ様。お褒めいただきありがとうございます。」
「ゾーイ、また一緒に過ごせるのか?」
「こちらこそ、だよ。アルジ。ドニも今までありがとな。」
「そういえばさ、ゾーイ光って消えたよね。」
「あれはお世話猫秘伝の魔法。本当に死にそうになった時だけ使えるんだよ。内緒な。」
「猫族はみんなゾーイが戻ってくるって知ってたって事?」
「コウさま、ゾーイ様ほどのお怪我ですと必ずと言うわけにはいきません。」
「色んな人の願いが生かしてくれるんだ。それで劇になってた。劇場に癒しの石を置いて魔力を注いでもらうんだ。ニーナ様の魔力は凄かった。感謝しないとな。」
「はあ、猫族の長寿の秘密ってもしかしてそれ?あんなに酷い扱いされてても逃げなかったのって、なんで?」
「それが当たり前で育ったからかな。」
「ワタシはその時代はあまり知らないので。」
「ネオコラムがあってみんな良かったのかな。」
「それは間違いないよ。」
「猫族は未だにコウさまとルドルフ様に感謝していますよ。」
「ふうん。ならいいけど。」
コウはプイッと横を向いた。




