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三が日は三が日でも年末のほうの三が日が本番

 ツインテールという髪型に、女子らしくその可愛さに一時期憧れたこともあった。

 けども理想と現実というのは違いすぎるのはよくあることで、本やネットで見るツインテール女子とは違って、はねっかえりの私の髪は「本当だもん! いたもん! 嘘じゃないもん!」と声をあげる元気系幼女妹のように爆発気味だ。髪も一番長かった時で胸くらいだったし、結んでみたところですとんと流れ落ちるタイプではなかったから、テールというよりはむしろカニだった。

 今の私はと言えば。チャームポイントの長い触角をぴこぴこと動かして一歩、また一歩と進んでいく。どうだろうこのツインテ。綺麗な流線型なのでは?

「はっ……! いかんでしょ私!! 何を虫目線で誇ってるの!! 人としての尊厳を思い出せよ!!」

 ギリィと下唇(ないけど)をかみ締めて、ついに私は光のほうへ頭を出した。

 まず先に触角だけをぴょこりと出して、次いでもそもそと這い出る。何となく安全だなというのがわかるのが不思議だ。

「ここは……」

 全てのサイズがビックサイズどころか巨大すぎるので、ずうっと見上げていったらひっくり返ってしまいそうだ。周辺を把握するのに少し時間がかかってしまうのも仕方ない。道路の反対側のガードレールは見知った形をしていた。時間的な問題か、車の通りは多くない。おそらく信号待ちだろう、止まった車はよく街中で見た色合い――タクシーだ。ドアに書いてある社名は私も利用したことがある。

「ということは、日本!」

 俄然やる気がわいてきた。生きる気力というか、オタクとしてはオタク大国日本に再度転生できるということは最高の喜びだ。こんなに嬉しいことはない。

 肝心なのは『いつ』なのかだ。

 西暦は? 季節は? 時間は?

 子供が歩き回っている時間ということを考えるとまだ日中だろう。薄暗いのは天気が悪いせいに違いない。さっきだってジョージくんは雨具を着ていたし、足音で水のはねる音がした。今も車が通るたびに車道が濡れている音がする。

 ふっと視線を上げるとそう遠くない位置に象徴的なツインタワーが目に入った。

「おわ……聖地じゃん……??」

 興奮のあまり五体投地しそうになる。既に這いつくばっているけれども。

 西新宿にそびえる荘厳な庁舎は、東京都庁の本庁舎である。45階の展望室は地上202メートルあり、その眺望は実に最高だ。夕日に照らされた街並みは最高に美しい。夜は庁舎をライトアップしていたりもして、綺麗な色合いが楽しめる。

 ちなみにここがモデルになってるゲーム内の建物は、王様たちが住んでいる城である。言わば実家なのである。ナンバリングと同じ数程度には周回プレイしている勢は、王様たちの誕生日や記念日なんかに巡礼しちゃう程度には極まっている。

 突然の聖地巡礼クエスト発生からの完了に、脳内でゲームのクエスト表示がぬるりと音つきで再生される。オタクゲーマー大歓喜イベントである。ありがたや。

 その近くには『TOKYO 2020』とともにオリンピックのマークが書かれている。

「ということは2020年……いや、でも」

 この間も見たぞ、私。

 きょろりと見える範囲で目を凝らす。社畜でぐったりしていたとはいえ、この辺りは通勤で通ることもよくあった。

「もしかしてそんなに時間が経ってないのでは……?」

 都庁なら確実に日付が分かるはずだ。電光掲示板にも表示が出ていたはずだし、それならそこまで中に入らなくても確認ができるはずだ。


「……マジで?」

 かさかさと向かった先、電光掲示板に表示されていた日付は12月28日。しかも、今年のだ。

 私がヒトの身体とサヨナラしてからまだ数日も経っていないというのか。え、怖。

 某刑事ドラマで輪廻転生を信じた犯人が、死んで抜けた魂がすぐ近くの生まれたばかりの生き物の身体に入ると信じているという話があったっけ。もしそれが実際にあったとしたら、私の部屋に生まれてまもないGがいたということになる。

 怖っ!! はちゃめちゃに怖っっ!!!!

 日にちが経ってないなら、冬だし、死んでてもそこまでやばくはなさそうだから一回拝んでおこうかとも思ったけど、完全に行きたくなくなってきた。あんまり放置してさらにヤバい状態になるのも嫌なので、できるだけ早く発見されますように、私。

 それはそれとして。

「年末だというならやっぱり行っておかなきゃいけない場所があるよね」

 オタクとしては。

 うんうん、と一人頷いてから顔を上げる。


「冬コミに行かないと」


 虫の睡眠がどれほどのものか知らないけれども、今から向かえば間に合うだろうか。

 本気出したらこいつらのボディがとんでもない速度を出せることは知っている。このキモい足でなんであんなに早く動けるのかはっきり言って謎だ。ムカデとかもそう。何で足絡まないの? 二足歩行してる人間でさえよく足がもつれるというのに。

「さーて、ここが新宿だから、無難にりんかい線かなぁ」

 今からいったら徹夜組になっちゃうなー、ははー(笑)なんて思いながら足を進めたその時だった。

 上から落ちてきた何かが頭に勢いよく当たって弾けた。衝撃に頭がぐわんと揺すぶられる。ばしゃんと弾けたそれは水だ。大粒の雨だった。いや、巨大な水の球が空から次々と降ってくる。

 これは、ちょっとまずい!!

 命の危機すら感じる雨粒の大きさにやべぇと思いながらも、ゲーム脳なので「メテオ降ってきたw」みたいなポジティブ変換するあたり、ゲームオタクでよかったなぁと思う。

 『緊急クエスト:雨粒を避けてシェルターに戻れ』みたいな感じで。

「あばばばばばばばばばばばば」

 結局思っただけで全然避けれず、ゲリラ豪雨並みにバシャバシャもろに食らった。そう上手く行くわけはないんだよなぁ。分かってたけど。

 近場の側溝の隙間に急いで潜り込む。

 最初にいた場所と違って、風がよく通る。どこからか木の葉が舞い込んだのだろう。角に落ち葉が数枚溜まっていた。

 12月だというのにまだ黄色(許せんことにまだ緑のやつもいる)の葉っぱがかさかさと音を立てる。

 側溝の穴からはまたばしゃばしゃと勢いよく水が入り込んでいた。

「しばらく止みそうになさそうだなぁ……」

 ぴっちょん、と身体から雫が垂れた。

 温度はまだこの身体ではよく分からないけれど、なんとなく寒い気もしてきた。本当に身体が冷えているのかもしれない。私の本体は冷え冷えだろうけど。

「疲れた……ちょっと仮眠とろ……」

 がさがさと落ち葉を引っ張り、風の影響が少ない反対側まで持ってくると、布団代わりにして間に潜り込んだ。なんとなく温かい気がする。

 そういえばちゃんと布団で寝たのっていつが最後だったかな。ソファで寝落ちしたり、帰れなくて会社の椅子で仮眠取ったり。ベッドはベッドでも、布団に潜る前にベッドの上で寝落ちしてしまって、起きたら身体が冷えてしまっていたこともあったっけ。

 落ち葉に挟まれていたらなんだかうとうとしてきた。

 少し休んで、起きたらコミケに行こう。


「アラームなしで起きれるかな……いや、起きてみせる……がんばれ私の体内どけいぇぇ……」


 これからどうするかとか、移動手段はどうするかとか、おまえその状態でよくコミケ行こうと考えるなとか、そういうことは脳内からはスンッとなくなっていた。


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