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デブ郵便  作者: さらんち


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6/6

6

「飯食いたいです」

 デブが俺の背中をぐいぐい引っ張る。

「ちょっと待て。こっちにもあるから」

 モールを抜けた先は繁華街がある。食事の場所ならいくらでもあるのだ。交差点を抜けて喫茶店やブティックが立ち並ぶ通りに出る。

 一角に緑色の大きな看板を屋根に掲げたレンガ造りの店があった。入口そばに「特製サーロインステーキ」とのお知らせ立て看板が出ている。昔先輩によく連れて行ってもらった場所だ。

 ちょうど箒を手にしたなじみのシェフが店の前に出ていた。少しなよなよしてオ〇マっぽい。そっち系の人と噂もあった。俺に近づいてくる。

「どうしたの? 最近顔見せてないじゃない」

「いやステーキ屋だからね」

「ええっ?」

「ステーキ好きだけどさ。肉ばっかは食えないだろ? ほら」

 俺はシェフを促して後ろのデブを見せる。シェフは驚愕して両手を万歳した。

「こりゃたまげた…… こいつは肉のかたまりだ」

「分かったろ? もう俺はハイカロリーな食べ物とは縁を切ったんだ」

「このこの」

 シェフは肘で俺をつついてニタつく。

「ほんとは食べたいくせに。無理しちゃって」

「なにを言ってる。俺の意思の強さを……」

 シェフは俺の言葉を無視して入り口ドアを開けた。かぐわしい焼きたての肉汁の香りがシャワーのように俺を包む。脂がこぼれ、熱がはじけるステーキが目の前に浮かぶようだ。口中に生唾が沸いてきて頭がくらくらする。

「さあさ、突っ立ってないで。入った入った」

 こっちの気持ちを見透かしたようにシェフは俺の腕を引っ張り、もはや抵抗できない。デブと俺は奥のテーブル席に案内された。

「さあ、メンタルの精進落としに、とびきりキツいの用意してきたから」

 ブロック並の厚み。十分に火の通った表面と、真ん中の赤身が食欲中枢のど真ん中を乱打する。肉への渇望が心の中に噴き出した。


――なんと素晴らしい。


 胸いっぱいに胡椒と肉汁の香りを吸い込む。

 脳の中のリミットがはじけ飛んだ。もうダイエットなんてくそくらえ。


 幸せの固まりに手を伸ばそうとすると横からデブに袖を引かれる。

「ああん? なんだ?」

 デブはまじめな顔で言った。


「食わない方がいいですよ。デブのくせに」


 俺は椅子を振り上げてその場でデブを殴り殺し、明日からジョギングに励もうと決心した。

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