誘拐事件とコサキンのささやき
「あのね。ママが今日の帰り久々にご飯食べに来ない?水着持ってきてね。だって〜」
次の日の朝。
迎えに来てくれた2人と並んで歩いているとき、2人に小さな声で伝えた。
「うん。」
「おお。」
2人は何も言わずに頷く。
よーちゃんは黒縁眼鏡をかけ直すと、
「夕飯楽しみだなぁ」
と、優しく笑った。
教室に入ると、「まーじかー」となにかザワザワと声がする。
んんん? どうしたのかなあ?
「何かあったの?」
「あっまなみ〜おはよう!」
ゆうちゃんが私のとこへ小走りでやってくる。
「あのね。Aクラスの堂本さん知ってる?」
「ん〜Aクラスはなぁ。全くわかんないなぁ。
クラス違うと会わないじゃない?」
「んも〜その堂本さんね。癒しの能力を持っているらしいんだけど、昨日誘拐されかけたんだって!」
「ええええっ?! 誘拐って大丈夫だったの?」
「なんかね。幸い、ボディガードがいたらしくて大丈夫だったんだって」
ほぉー。Aクラスともなると、ボディガードがつくのね。
能力が高い人は大切にするってことなんだろうね。
「なんかオレ噂で聞いたんだけど!」
西川くんが大きな声で話し出す。
西川くんは、噂が大好きな小柄な男の子で、
『壁に耳あり障子に目あり後ろに西川!』
と言われるほど噂が大好きなの。
能力は……耳が良い。ただそれだけ。
でもね、どこまで良いかは未知数らしいの。本人はそんな期待する程ではないとか言ってるけどね。
で、その西川くんが、
「何でも、国に囲われる前に誘拐するのを、どっかの裏組織がやってるとかやってないとか。
そういう噂があってさ」
結構まゆつばものなんだよねぇ……。
でも……あり得そうで怖いなぁ。裏組織とか、やっぱ世界は広いからあり得そう。
「誘拐してどうするの?」
「ん〜まなみ!いいか?考えてみろって。
Aクラスの奴らの能力すごいだろ?」
「ううううん。たぶん?」
「おっ前本当、無関心だなぁ!
すげーんだって! 火を操るだの、電気を作れるだの、傷を治すとかさ?!
そんなのを裏組織が手に入れてたら、なんだってできるだろーが!」
うん。たしかに。そうだよねぇ。
「でもさぁ!うちらEクラスは関係ないね!
チキンナゲット食べても太らないからって裏組織は関係ないもんねぇ。当たらない占いとかさぁ」
ゆうちゃんが笑いながら言う。
まぁたしかにねぇ〜。結局私たちは無縁な話だよね。
でも誘拐とか、怖いよね。Aクラスの人も気をつけて欲しい。どんな人がいるか知らないけどさ。
「ほら!チャイム鳴ったぞ!教科書出せ!」
先生が入ってきて、慌ててみんな席に着いた。
「次〜桜井〜読んでみろ〜!」
「あ。はぁーい」
呑気な声で答えると、桜井くんは立ち上がる。
桜井くんは我がクラスの人気者なんだよね!
おっとりしているんだけど。桜井くんの能力はほんとすごくて……。
桜井くんは、教科書を持って読み出す。
「1、洗剤の使い方。
青い空の下。
あなたの足元に転がるあの人。
ひとさじ、ふたさじの愛を与え、優しくもみこめば。
あの人は輝き出す」
ぷっ。桜井くん……。
桜井の能力は、本をポエムっぽく読む能力。
文章を読むと、そうなっちゃうんだって!!
これ、汚れがひどいものを洗剤を揉み込んで落とすっていう、ただの家庭科の内容ね。
みんなが肩を震わして黙っている。
「桜井〜普通に読めんのか? あー……読めんよなぁ……。んふふふ」
先生もわかっていて指した感じもある。
桜井くん、今日も最高だった。有名な古文とか読ませてみたい!!
つか最高だよね、この能力。
「桜井くん。くふふふふふ」
「まなみ!笑ったら駄目でしょ?」
「よーちゃんも笑ってる!」
もうダメ!笑っちゃうよ。
「ちょっとぉ!2人とも笑いすぎ!
自然に出ちゃうんだからぁ。ぼくの才能でもあるけどねぇ」
桜井くんは私達にそう言うと、ニッコリ笑う。
なんかね、作詞とか匿名でしてるみたい。
このあとの授業は数学だったんだけど。
「サイン二分の一はコサイン何度か」っていう問いだったんだけどね。
そこの問いを読んで答えろって先生が桜井くんを指したもんだから。
『サイン……
儚く砂漠に散った、サインの半分の記憶。
それを呼び起こすコサキンのささやき。
ふたりがまじわったとき。
30年の眠りから目覚める』
くふふふふふ。
さ、さ30度って言いたいんだと思うんだけど。
「まなみ!笑いすぎだぞ」
隣の海が肩をプルプル震わせて私を見る。
みんな下向いて笑いをこらえている。
こここコサキンって何よ!
んふふふ。
「ちょっとぉー笑いすぎ!みんなっ。まぁぼくの才能にみんな嫉妬しないでね?
あ。先生、答え30度です」
「あ。うん。正解だ。座ってよし」




